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ちょっとした小話:「回収されなかった伏線」

「そういえば、あれって結局何だったんでしょうねぇ」

「何が?」


 長い船旅の最中、今日は甲板の上でバーベキューだ。私が偽物劇場から持って帰ってきた食材は冒険者の彼らから見ても質が高いらしく(まぁ現代日本基準だから当たり前ではあるんだけど)、みんなが食べたい食べたいと言うからこうなった。


「ほらあれですよ、『赤くて青かった、柔らかいのに硬かった、圧倒的な強さで殺しておきながら泣いていた』」

「…それが?」

「赤くて青かったのは、飛び散った血飛沫によって彩られた青い宝石の柱、圧倒的な強さで殺しておきながら泣いていたのは侵入者を撃退しながら『彼の王様』を待っていたから。なら…柔らかいのに固かったのは?」

「あぁ」


 お米をちょっと拝借して、炊いて三角にしたの(つまりおにぎり)を網の上に並べながら、私は言った。


「腕だろうね。あの」

「腕?」

「地面蹴ってたやつとか顔面覆ってたやつじゃないよ。頭を抱えてた腕の中に、本体まんまなのか、足と同じくらいでかいやつあったでしょ。あれだよ、多分」


 そういえば、『きっともうすぐ見られる』なんてモノローグしておきながら結局触れてなかったな。あの時はまさか騙し討ちで討伐なんて考えてなかったもんで。読者の皆様方、大変申し訳ございませんでした。アレンくんありがとう掘り返してくれて。


「そうでなくても、必要があれば生やしたんだろうね。関節関係なくグイングイン回して、冒険者を叩き潰す。その可動域は広く、ひどいくらいに関節は柔らかいのに、その拳は硬かった。…ホーンさんたちに聞いたら、そういう攻撃もあったって言ってくれるんじゃないかな?」


 そう言って彼らを見れば、自分の名前が呼ばれたのがわかったのか、ホーンさんが近くに寄ってきた。


「ナニか?」

『怪物、あー、パンチ、キック』

『あの怪物の攻撃について話してたんです』


 『攻撃』の単語をド忘れした私が必死にジェスチャーを交えて説明しようとして、それで彼がピンときてなかったようなのでアレンくんが補足。ホーンさんは納得したように頷き、少し辛そうな顔をした。

 …それもそうだ。彼はあの戦いで、二人の仲間を失っている。たった二人、されど命だ。


 しばらくアレンくんとホーンさんが(私から見たらかなり)早い口調で話しているのを尻目に、おにぎりをひっくり返す。あ、少し焦げた。

 しばらく会話をして、アレンくんは私の手元を覗き込んできた。


「やはりあったそうです。自分たち以外のパーティのメンバーがあの巨大な手に掬い上げられ、砂を抉ってなお衝撃を殺しきれないほどの勢いで叩きつけられ殺された。あの体重を一身に受けて、轢き殺された者もいた。…なんというか、多種多様な攻撃だと感じました」

「だから厄介なんだよ。ある意味『災厄』の中で一番」


 私が知る限り、『災厄』はどれも一筋縄ではいかない。いくわけがない。一つは殺すのに苦労するだろうし、一つは致死性が高い。Shellkerは一番凄惨になるだろうと思ってたけど…なんか騙し討ちが予想以上に刺さった。

 考え事をしながらペタペタと醤油を塗っていると、良い香りがしてきた。

 うーんいい匂い。なんで醤油って加熱するとこんなにいい匂いするんだろうね。


「…ほシー」


 すると、誰か一人がぼやいた。顔を上げると、オードさんが私の手元をじっと見ていた。


「ホシー。チョーダイ」


 カタコトの日本語で、でも誠意を感じる声音で。じっと茶色くなったおにぎりを見つめながらも手は出さない。

 なにこの人かわいっ。


「…どうぞ。一個だけ」

「!」


 私がそういうと、なんとなく伝わったのか、笑顔で彼は皿を持って、まさかの手掴みで取った。『あつっ、熱い!!』って騒いで皿を取り落として両手でアチアチやってるけど、皿の意味よ。アレンくんが多分『一個だけだからな』って諌めて、他の人が落とした皿を差し出していた。

 私が人数分のおにぎりを並べて醤油を塗っていくと、順番は違えど全員に売り切れた。



 なお、一週間くらいすると、食事のたびに「なんでリーダーはずっと醤油味で飽きないんだ…?」みたいな信じられないものを見る目で見られるようになった。なんでだ。

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