I.通訳がいないなら召喚すればいいじゃない
あーあ、あーあ!言葉の壁って厳しいね、うん!相当に!しかし参ったなぁ。まさか言葉が通じないなんて。マジでアバターでいいからあの作者一発殴りたいな。当の本人(本物)は画面の向こう側とかでゲラゲラ笑ってるんだろうけど。本当に趣味悪い。
別に一回や二回や三回、犯罪者ムーブをかましても逃げ切れる自信はある。ふっふーん、私を誰だと思っているのです、伊達に偽物劇場の館長をしていませんよ。うまい具合にやれば、存在しようがしまいが私はその人そのものになれるのです。口調も、性格も、行動の癖までそのまま行えば、私は誰にでもなれるわけよ。
でも共通言語が話せないのが致命的なんだよな〜〜〜〜。これじゃあせっかくの能力も宝の持ち腐れじゃん? とりあえず、ここがどこかだけでも把握しないと。
そう思って、私は街を歩くことにした。
さて、まず最初に私が思ったこと=「なんか中世っぽい街並みなんですけど?」。あ、中世ってあれね、マリー・アントワネットとかルイ14世みたいなコッテコテのお貴族様が支配する、なろう系御用達の17〜18世紀的な世界観。17世紀にしちゃ道路の石畳とかキレイだし糞尿ゴロゴロの臭い世紀末じゃないけど。うーんご都合主義。…こうして数字にすると意外と最近なのね。
あれ、待って、中世ってどこからどこまでなんだ?具体的には何世紀から何世紀?近世とか近代のラインだったら赤っ恥だぞ。ま、まずい、学がないのがバレてしまう。
あーその、具体的にはその、まだ市民革命も起きていないような頃のヨーロッパです。たぶん広場のデザインとかからルネサンス的なのは起きてる、うん。なんかわやわやしてるけど許してください、みんなも自国以外の歴史認識なんてこんなもんでしょ!!
……あれっ、待って、もしかしてマジの過去に飛ばされた?いやいやあの作者がそんな詐欺みたいなことするわけが…
意外とありそう。そういう騙し系のネタって作者の大好物じゃん。
いや、さすがにあいつがしている世界でそんな凡ミス及び詐欺はないだろう。普段ガサツな不真面目ヤローなのに妙なとこ真面目だし。つまりここは、作者が説明した(私から見た)はるか未来の世界で間違いないはずだ。となると……あれだな、うん。
技術が進みすぎて全部ぶっ壊れたパターンだ。まあ平均寿命120歳とか不老の薬とか神そのもののような特殊能力とか詰め込んだらこうなるわな。人口爆発のち戦争のち世界滅亡の危機寸前になって文化再建でイマココ状態。うん、この世界の未来が心配になってきた。大丈夫かな、人類……。
そんなこんなで歩いていると、前方の方から何やら喧騒が聞こえてきた。なんだろ、喧嘩でもしてるのかな。
近づいてみると、そこには剣を持った二人の男がいた。片方は体格がよく、もう片方はかなり細身だ。二人ともそこそこ良い服を着ているし、多分貴族か何かだろう。
うーん、この感じだと、どう考えても決闘的なものをしてんな〜。
ふむ、面白い。
こういうシチュエーションは好きだ。だって、小説とか漫画でしか見れないようなことが目の前で行われているわけだし。ここ物語の世界だけど。メタい?知らない、作者にでも言ってくれ。
ん?後ろから喧騒。なにやら嫌な予感…。
「○▽Osp@`皿#OOOO/!」
嫌アアアアア!?制服からしてさっきの自警団!?まずいまずいまずい! 今ここで捕まったら確実に面倒なことにしかならない。というか問答無用で殺されかねない。違うんです、私べつに悪いことしようとかそういうのは!違うんです!
しかし、自警団達はどんどんと距離を縮めてくる。このままでは見つかるのも時間の問題だ。…………仕方ない。
私は覚悟を決めた。
そして、私に一番近い自警団の人間を蹴り飛ばした。彼の身体が吹っ飛び、壁にぶち当たる。何かうめいているが、言語わからんからわかんない。
うーん、我ながらすごい威力。流石は私、身体スペック主役級。主役だけど。
突然のことに驚く他の自警団員達を無視して、私は近くの建物の屋根の上へとジャンプひとつで飛び乗った。
もちろん、追手達が階段とかはしごとかを使って追ってくるが、もう遅い。私の姿は既に遥か遠くにある。
さて、ここまで来たらひとまず安心だろう。……さっきの人達には悪いことをしてしまった。まあ、あの状況なら誰でもああいう行動をとるだろう。穏便にことを済ませるっていうはじめの目標はできなかったわけだけど。穏便ってなんだろうね。
それにしても、まさか言葉の壁が立ち塞がるとは。異世界転移した瞬間に詰みゲーとは、中々にハードモードだ。
しかし、私は諦めない。
絶対に、諦めない。
諦めてはいけない。
……どうしてかって?
主人公が初っ端から諦めたらストーリーが詰むからだよ!!!!
メタい?知るか!こちとら存在存続の危機なの!
どんな理由があろうがなかろうが、私は!今!この物語を完成させなくちゃいけないの!
と、いうわけで。教えてちょーだい!今この時代、いやそれも含めて、私の現在地って具体的にどのへん?
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あ、このあたりね、はいはい。ならこうするのが一番早い。
今ちょうど街の外に出たので、そのまま道を進む。
いやあ、私のいた日本だと考えられない景色だな。街(というか国?)を出たら次の街への道と草原や森しかないってゲームみたいだ。ここ架空の空想上の世界だけど。
しばらく行くと、鬱蒼とした森が広がる。
通称「魔の森」。かつて「魔物」と忌み嫌われたモノたちがここを通り、国を作った。当時の魔物は少し喋る猫だったり1m級の虫だったりだったそうだけど、この時代まで進むとマジでゲームみたいに魔法を使って人を襲ったりするから笑えない。名は体を表すってやつだ。まあ、この世界の生物にそんな知能があるとは思えないけど。せいぜい、人間を食料かなんかと思って襲うくらいじゃないかな。
当然、私を大量の魔物が見てくるが、力量の差をわかっているのか襲ってこない。今の私は『館長』、その実力は本物だ。この世界すらも容易に滅ぼせるレベルの力を持っている存在に襲いかかるのは、月をスプーンで全て削り取ろうとするレベルの愚策だ。知らんけど。
お、そろそろかな。
木々の間を抜け、開けた場所に出る。
そこは廃国。かつては魔物と呼ばれた端くれ者どもの王国だった。
それが今じゃ、家々の代わりに廃墟が並び、商品の代わりにくず鉄が並ぶ。そこら中に転がっていたであろう死体は、今は土へと還り見る影もない。
ここには、「魔物」の王国があった。
そして、そこを治めていた王によって滅びた。
それだけ。そう、ここはもうそれだけの土地。
でも私には一つの目的があった。それを探すために、国のど真ん中の王城へと足を向ける。ここに来るまでに、だいたいの位置は把握できたはずだ。多分、大丈夫。
崩れかけの建物の隙間を縫っていくと、やがて大きな門が見えてきた。その奥に見えるのは、立派な建物。他の廃墟と比べたらずっと綺麗で、でも今にも崩れそうな建物。
うん、ここだ。
間違いない。
そう心の中でうなずいて、私は地下室へ向かう。
地下の牢屋の奥の奥、石の壁に隠された隠し通路。それを作った彼は自身を「数百年に一人の大天才」と自称していたけど、あながち間違いじゃないかも。見つけるのに小一時間かかって、開けるのに三時間かかった。結局わからなくて最終的には入り口ぶち抜いてゴリ押した。
通路の奥の小部屋は真っ黒だった。まっ黒焦げ、のほうが正しいかもしれない。
そして、そんな四方石造りの部屋の中、異臭を放ちながら存在を主張する肥料のような土のような存在。あった、これが欲しかった。
死体。誰にも、人にも魔物にも見つかることのなかった哀れな存在。それを知っていたのは、最期までこの部屋を作ったただ一人。その彼も、この国の最後の王様に連れられて、裏技のような方法で物語から、この世界から出ていってしまったけれど。
目を閉じて、ゆっくりと深呼吸する。
――。
「…私は『代筆者』、物語を書き換える者――」
死体が宙に浮く。光をまとっていく。
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死体だったものが、光をまとっていく。
今、『代筆者』の力で、一時的に魂の輪廻を書き換える。本来生まれ変わりの存在しないこの世界に、生まれ変わりを発生させる。
もちろん、それはイレギュラー。つまり、生まれ変わった彼も、偽物劇場の一員と言えるだろう。
光をまとったものが、形をなしていく。
生まれ変われ。
生まれ変われ。
そして、生きろ。
…………私に隷属する者として。
そうして、目の前に、赤髪赤眼の存在を生まれさせて。
私は笑うのだ。
「おはよう、アレンくん!」