X.砂漠の夜市
船に揺られて数時間、ザビト王国の港に着いた時には日が暮れていた。いやこの世界線の中だとかなり早い移動速度なんだけども。
まあ、今日はここで宿をとって休むことになるだろうね。いきなり夜に「くらえShelker!!」とか行っても間違いなく返り討ちだし。
それにしても暑い。旧英国の気温とは比べ物にならない。というかあの島、北にあるにしては暖かいほうなんだよね。どうやらあの島に温もりを届ける偏西風は時代を越えても健在らしいな。
港からしばらく歩いたところに、ザビト王国の街があった。ザビトは砂漠の中に作られた国で、砂漠の中にあるオアシスを囲うように作られている。なるほど、砂漠の中の都市ってことだ。
砂漠の中ってことは砂埃がすごそうだなと思ったら案の定すごい。街の中に入ると、フードの中の空間と外との境目にびっしり砂が張り付いた。このローブそんな効果もあったのね。そんなローブを着ていないアレンくんは、口の中に砂が入ったらしく、ペッペッとしていた。どんまい。
砂漠の街ということで、みんな入ってソッコー暑さ・日差し対策をしているようだ。ムーティヒさんは暑そうなマントをつけていて、アレンくんは布製のターバンのようなものをつけている。私は……特に何もしていない。
だってこのローブ快適なんだもん!作者が直々に渡してきたこの白ローブは、彼女が言った効果をまるまる持っているようで。『温度・湿度調整』『自動洗浄』は伊達じゃない。着心地もいいしな〜シルクとかじゃないかしら。
…自分の空想上だからってホントやりたい放題だなあの人…。
そんなことを考えながら歩いていると、大きな広場に出た。そこには噴水があって、周りには屋台が立ち並んでいる。
アレンくん曰く、ここは夜市と言って、ザビトの夜はここから始まるんだとか。へー、楽しそうじゃん。お土産とか買いたいな〜。
私達は、そこで適当に食料を調達して宿に向かう予定だ。旅費をかなり節約できたので、宿に向かう道中でちょっとお高めのものも買えました。大人なんかはお酒を買う人もいたらしい。私は飲めないし、アレンくんが酔っ払ったら大変だから飲ませる気もないけど。
夜市は明日の朝までやってるらしいので、明日また集合ということになり解散となった。明日に備えて早く寝るよう言われたらしいけど、なんか誰一人として守らなさそう。しっかりしろ大人。
ちなみに、別に私とアレンくんは恋仲ではないので、ホテルの部屋は別々に取りました。旅の終わりまでお金残しててもしゃーないんで最高級で。後から聞いた話だと、夜市ではしゃぎすぎてホテルが満室になり、野宿する羽目になったグループがいくつかあったらしい。ご愁傷様です(-人-)。
翌日。私達は夜市に繰り出した。いや、アレンくんが行きたがったので、仕方なくついてきただけだけど。仕方なく、仕方なくだけど!いいじゃん、今は朝の四時だし!集合時間は朝八時だもん!朝ごはんだよ、朝ごはん!
昨日のイメージは開催時間直後だったためか昨日見たときより規模が大きくなっており、出店の数も多い。そして、何より活気がある。昨日の、というか開催直後の静けさはなんだったのかと思うほどに賑わっていた。
まずは食べ物屋さんを回ることにして、私達は歩き出した。ケーキとかないかな〜ないよな〜。小麦がないのかな〜砂漠地帯だしな〜。
仕方ないから先に主食でも買おうと思って探していると、アレンくんが声を上げた。
その視線の先にあったのは、カラフルで可愛らしい色をしたフルーツの山だった。
「ご主人ご主人、これ買っていいですか?」
「ええよ、予算オーバーしないようにね」
「はーい!@*;&#%$"!U%`+:/、#6)&'(Rn0_^"{/:lrb!」
アレンくんがそう言ってお金を払うと、店主のおじさんがフルーツをいくつか手渡してくれた。
「ご主人、これツルンって皮剥いて食べられるんだって!あっちで食べましょう!」
「楽しそうだねえ、君」
ちなみにこれなんて果物なの?と聞くと、ホリアです!とアレンくんが嬉々として答えてくれた。
なんでもこれは砂漠の国ならではのフルーツらしく、固有種としての名前は知らないけど、一般的にはホリアと呼ばれているとのこと。
いちごやリンゴのようにみずみずしいようなものではないけれど、野生の果物にしては珍しく甘くて美味しいから人気なんだって。へー。
皮剥いた見た目は完全にイチゴなのだけれど、味はマンゴーのような感じがした。食感はバナナに近い。とても美味しいのだけれども、私の知っているフルーツとはなんかズレているような気がして、どこか、いやどこまでも違和感があった。まあ美味しいからいいか。
前菜も食べたし主食もほしいな〜。こういう砂漠地帯って何食べてるのかしら。
そんなことを考えていると、アレンくんに袖を引っ張られた。
彼が指差す方向を見ると、そこにはナンのようなパンのようなものが売られていた。
アレンくんが嬉しそうにそれを買ってきてくれて、私はそれを一口食べる。サクッとした歯応えの後に来るもちっとした感触。ふっかふかの生地に、ほのかな甘みと塩っ気のある香り。……うん、悪くはない。悪くはないんだけど、やっぱり食べ慣れた味が食べたいな〜。これ食べるくらいなら、釜で焼かれた普通の、日本の塩パンが食べたい。
かなり描写を省略してるとはいえ、私いま異国で一ヶ月くらい過ごしてるからな〜。しかも英国の辺りで。噂と違って美味しいものも多かったけど、やっぱり祖国の味が恋しくなりつつある。味噌汁飲みたい。出来れば白味噌。赤味噌でも許す。ワカメと豆腐のやつだと嬉しい。
次にアレンくんに勧められたのは、四角く切った野菜をトマトで煮込んだスープ。あ、美味しい。お肉がいい感じにジューシーで、卵と絡めると尚良し。でも卵の味がちょっと薄い?日本の卵が濃いだけなんかね。
そこそこのサイズの鳥のお腹にお米みたいな穀物系を入れて焼いたものも、手羽先だけ買った。七面鳥みたいな調理法だけど、風味がなんか違うのは使用されている調味料のせいなんだろうか?
「アレンくん、これ何のお肉?」
「ハトです」
「ブハァっ!!?!?」
その後も飲み物やら野菜系やらを食べ回り、、お腹を満たした私達はデザートを求めて色々な店を回った。そして、最終的に私達はお菓子作り体験コーナーにいき着いた。
あれ、これって観光食べ歩きストーリーだっけ…?
…………。
違う違う!そうだよ、私達はShellkerの討伐隊としてここに来たんだよ!!