第3話 突然の来訪者
「レオ、手紙が来ているわよ」
『?』
メイド長のビネットは、レオに一枚の封筒を渡した。
この屋敷には手紙の配達など来るわけもないので、いつも買い出しの店に頼んで預かってもらっている。
しかしそれを知っているのは一部の関係者だけで、レオの知り合いに知っているようなものは居なかったはずなのだが。
首を傾げながらも取り敢えず開こうとすると、廊下の奥から声が聞こえた。
「レオー?ちょっと来てほしいんだけどー!」
聞き慣れた主の声に一瞬逡巡の後、レオは手紙をポケットに仕舞い、彼女の元へ向かった。
◇◇◇◇◇
「ふむ……これはまた、随分と……」
花すらもない更地に似つかわしくない、立派な屋敷の前に立った女性は、しげしげと眺めながら呟いた。
真っ黒なローブを身に纏い、手には木製の杖をもち、屋敷同様、異質であるはずの彼女は、不思議なことに誰にも気づかれていなかった。
門番の二人にさえも、咎められない。
それをいいことに、彼女は屋敷の周りをうろつく。
「うーん、ここと、ここと、ここらへんかな?」
そう言いながら、水晶のような透明な石を等間隔に埋めていく。
コの字型の屋敷の外縁にざっくり埋めると、手についた土を払い、軽く伸びをした。
「さーてと。準備も終わったし、会いに行こうか」
女性は、屋敷の入り口に向かった。
◇◇◇◇◇
ふう、とレオは息をついた。
呼ばれた理由は糸探し。
ヴィオレットの趣味は刺繍で、また大きな刺繍を作っていたが、糸の束が一つ足りなくなったらしい。
屋敷中探し回り、なんとか代わりの糸を見つけられた。
(よくあんなに大きなもの作れるなあ……)
廊下をてくてく歩きながら、レオは思う。
レオはヴィオレット専属の使用人だが、一日中ずっと付いていく、というわけではない。
レオが来る前に担当していたフィナというメイドと交代でヴィオレットに付いている。
さっきは人手が必要だったため呼ばれたのである。
ヴィオレットから離れたあとは、掃除や手伝いなどの雑用が仕事だ。
ただ、レオの仕事時間はほとんど授業で埋まっているため、こういうフリーの時間はあまりない。
珍しく空いた時間に、特に目的地もなく、仕事はないかと屋敷をうろつく。
しかし、いつもレオを除く人たちで回っているため、特に人手不足という所はなさそうだった。
取り敢えず自室に戻るか、と廊下を進みながら、さっきの刺繍を思い出す。
レオはかなり不器用な類なので、ちまちまと細かい刺繍を見ると、やはり感動してしまう。
ヴィオレットは暇つぶしにやっているようだが、レオから見れば立派な芸術品だ。
しかしヴィオレットの部屋に刺繍作品は殆どない。メイドたちにすぐあげてしまうからだ。
かく言うレオも、ひまわりの刺繍のハンカチをもらっている。
普段使いなどできるわけもなく、ちゃんと大事にしまってあるが。
ヴィオレットはよく花の刺繍をする。
でもこんなところに花など咲かない。
ヴィオレットは見たこともない花を、図鑑や想像を頼りに作り出している。
(見せてみたいな、一面の花畑…)
レオの生まれ育った森には、ある開けた場所があり、色とりどり、季節様々な花たちが、年中狂い咲いている。
あれを見れば、花のデザインに困りはしないだろう。もっとカラフルな刺繍が見られるかもしれない。
皮算用ながらもわくわくしていたレオは、ポケットの中に違和感を覚えた。
手を突っ込むと、紙の感触。
レオは、すっかり忘れていた誰かからの手紙を取り出す。
封を開け、中を取り出すと、そこには一枚の紙が。
そして一言━━━━
「そっちに行くね ウィズより。」
恐ろしくシンプルかつ最低限すぎるこの手紙だが、レオはすぐさま理解し、目を丸くした。
(……えっ?ウィズが、来る……ここに??)
混乱しながらもなんとなく嫌な予感を覚え1階に向かう。
そこには 、門番 2人に連れられた、真っ黒なローブを着た女性が立っていた。
「ヤッホ〜!久しぶりだね、レオ」
「レオ、こいつは 知り合いか?」
「ずっと屋敷をうろついてるから、とりあえず捕まえたんだが」
レオは女性を見て呆れ顔をしながら 石版にこう書いた。
『その女性は僕の育ての親です』
文字を見て、両脇を門番に抱えられながらも、ふふんと誇らしげに笑う女性を、門番 2人は胡散臭そうに見、レオは苦笑を崩せなかった。
◇◇◇◇◇
『改めまして、この人は僕の保護者のウィズです』
「やあやあ皆様、お初にお目にかかります、レオの保護者のウィズ と申します。以後、よろしく」
玄関前から移動し、食堂にて、突然の訪問者の紹介が始まった。
メンバーはレオ、ウィズ、ビネット、門番の二人。
アルトは厨房に居る。
ウィズはまだ門番二人に挟まれていた。
あからさまに警戒されているが、それでも屋敷の中に入れたのは、レオの口添えがあったからだろう。
ウィズは自己紹介に誰も反応しなかったせいか、口をとがらせながらレオに話しかけた
「れおー、なんか皆私のこと知らないみたいなんだけど!ちゃんと言った?『僕の保護者はハイパーウルトラ美人で完璧な素晴らしい女性その名もウィズです』って」
『言ってない』
「言ってないかー!!そっかー!!」
叫びながら机に突っ伏すウィズ。
周りの視線が更にウィズに刺さる。
が、気にしないウィズはそのまま机に向かってぶつぶつと呟いていた。
ビネットは嫌味を隠すことなく口を開いた。
「あなたはレオの保護者とおっしゃいますが、よくレオを育てられましたね。彼が保護者というからあなたをここに連れてきましたが、もしお嬢様に何か手を出すのであれば、即刻この屋敷から出ていっていただきたい」
「いやいや……ご冗談を〜」
軽い物言いのウィズにぴくりと眉を動かすビネット。
ウィズは気ままに、何か思い出したか、またレオに話しかける。
「というかレオ、 私先に手紙出したよ?なんで捕まったんだい?私」
『ウィズのこと喋ってなかったから』
「事前に言ったのに!?」
『今日手紙来たけど』
驚くウィズに事実を述べる。
が、ハイテンションな彼女は動じなかった。
「え?手紙を持って行く籠に直接入れたからそりゃそうだけど……。来る前に送ったでしょ?」
『さっき開けた。ウィズ、事前に連絡ならせめて前日に出そう……』
相変わらずのズレた保護者に、レオは呆れながら答える。
しかし当の本人は全く反省しない様子でカラッと話題を変えた。
「次からは気をつけよう!……で、私はちょっかいをかけに来ただけじゃないんだ!」
「かけには来たのか……」
呆れる門番二人。ずっと気を張っているのも馬鹿馬鹿しくなってきたようで、力を抜いている。
いつの間にか食堂の全員が変人ウィズに注目している。
的であるウィズは、次の瞬間、口からさらりと爆弾を落とした。
「お嬢様の【呪い】を解きに来た。」
「「「「……え?」」」」
全員の声が揃った。
ウィズは表情を変えず言い放つ。
「だから、お嬢様に会わせてくれないかな?」




