第1話 ものがたりのはじまり
━━何で、私が?
━━私だけ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
━━もう、ここにはいたくない。
━━しにたいな。
━━でも、誰も殺せない。
━━この世界から、消えてしまいたい。
━━なんにもない、私の鳥籠から。
◇◇◇◇◇
「お嬢様、入りますよ」
様々な装飾で飾り立てられた長い廊下の突き当り。大きく重厚そうな木製の扉が軽くノックされ、すうっと音を立てずに開く。
広い部屋のそのまた奥。窓辺に飾られた白い花を座って眺めていた少女は、振り向き、小首をかしげた。
銀の長い髪がサラリと揺れ、光に煌めく。白い肌に透き通るような蒼眼。彼女はまるで精巧な人形のようだった。
彼女の目線の先には、いつも見ている三十代ほどのメイド服を着た女性、と、もうひとり。
緩いウェーブのかかった金髪と、健康そうな小麦色の肌。見るからに活発そうな雰囲気の少年は、慣れない執事服に身を包み、緊張した面持ちで直立不動を貫いている。
「この子は、新しく来た使用人です。年も近いですし、今日からお嬢様のお世話係になります。さ、ご挨拶ですよ」
促された少年はギクシャクしながらもニ歩前に出ると、ペコリと礼をする。
しかしその後が続かない。目線は斜め下に、緊張して顔はこわばっている。
少女がその様子を見てふっと微笑むと、部屋は華やかな雰囲気に彩られる。くるりと身体を少年に向け、凛とした声で少年に話しかけた。
「わたしはヴィオレット・ランシェ。宜しくね。あなたの名前は?」
その一言で、緊張がほどけた。少女はにこにこと少年の答えを待っている。主人が先に名乗ったことに戸惑いを隠せない様子の少年は、先程よりも肩の力が抜けている。
ちらりと女性の方を伺うが、女性は少女に呆れながらも傍観を決めている。
少年は、何かが吹っ切れたように少女に真っ直ぐ目線を向けると、ぱっと花がさくように咲った。
今までの強張った表情よりも彼らしい、満開の笑顔で、少年は口を動かした。
しかし、そこに声は無い。
けれど少女は聴こえた。明るくハキハキとした彼の声が。
『僕の名前はレオ。宜しくお願いします、ヴィオお嬢様』
少女は目を丸くする。
少年は少女が聴こえたことを知っているかの様に、にこにこと笑っている。
少女はひとしきり驚いたあと、笑みを零す。
これが、二人の出会い。
呪われた少女と欠けた少年の、ささやかな物語。




