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チーム語劇  作者: ガンベン
本番前日
25/32

いつか夢見た光景

しばらくすると、学生センターという三階建ての建物が見えてきた。その道路わきに、軽トラックが停まっていた。この建物の2階に大きな会場があり、明日の舞台はそこで行うことになっていた。 広川は、その建物に入ろうとすると、前方から見覚えのある男性がびっくりしたように話しかけてきた。

 「広川さん。お久しぶりです。僕の事、覚えてますか?」

 広川は、少し考えて答えた。

 「あ、もしかして、綱本君かな?」

 「そうです。よく覚えていてくれましたね」

 「もちろん、綱本君みたいな印象の強い子は忘れないよ」 

 広川は、そう言いながら笑った。綱本は、広川が大学4年生の時の1年生だった。4年生になると、就職活動がある為、時折クラブに顔を出すだけになっていたが、かろうじて綱本とは面識があり、何度か話したことがあった。

 「ところで、綱本君も何かするのかな?」

 「ええ、僕は中国研究会の歴史を展示する展示部門に参加していて、今からその紹介パネルを取りに部室に行こうと思っていたところなんですよ」

 「へえ、そうだったんだ。楽しみだね。僕は、中国語劇の担当で、今から2階に行くところなんだ」

 「ええ、さっき2階に行ったら、梅森さんが舞台の準備をしていましたから。あの人は、6時半には学校に着いて、一人で色々準備をしているみたいです。あ、それでは、またあとで。広川さん」

 「あ、そんな早くに来てたんだ。悪いな。そうだね。また後で」

 広川は、道端で置いていた車に乗っていく綱本を見送ってから、入り口に入ると、2階に続く階段を上って行った。階段を上っていくと、少しずつ何かをたたく音が外にも響いているのが聞こえてきた。どうやら、梅森が何か作業をしているようだった。階段を上るたびに、その音は大きくなっていった。広川は、階段を登り終えると、すぐ右側にある会場の扉を開いた。そうすると、中にいた梅森がそれに気づいて広川に向かっていった。

 「おはようございます。広川さん。早いですね」

 「おはよう。梅森。朝早くからありがとう。さっき、入り口で綱本君にあったよ」

 「ああ、そうなんですか。さっき少し話をしていたのですが、綱本君も、僕と同じぐらいに到着して少しずつ準備しているみたいです。それと他の部門の責任者も、もう少ししたら来るみたいですよ」

 「そっか。盛大な集まりになりそうだな」

 「ええ」

 「よし、それじゃあ、僕も何か手伝えることはあるかな」

 「そうですね。設営の方は、もうすぐ床に板を貼り終わるので、そこに畳んであるシートを持ってきてもらえますか。僕も、後一枚板を張ったら終わるのでこの上にシートをかければ、舞台の完成です」

 「わかった。じゃあ、早速手伝うよ」

 「ありがとうございます」

 そういうと、梅森はハンマーで板を打ち付けいった。

 広川は、シートを袋の中から取り出して、階段を下りて行った。遠くからは、見えにくかったが、細かい板が一枚一枚張り合わされていた。

 「梅森。これ、みんな梅森が張り付けたのか?」

 「いえ、一人では無理なので、演劇部の方にも昨日から手伝ってもらっていたんです。彼らには、今日も明日も手伝ってもらうことになっているんです。ほら、あそこに、色んな材料がありますが、今日の午前中に彼らが、舞台の幕を準備してくれるんです。また来たら広川さんからもお礼だけ伝えておいてください」

 「ああ、そうだったのか。話は聞いていたんだが、色々やってくれていたんだな。わかったよ。後でお礼は伝えておくよ。それと、梅森も本当に色々準備してくれてありがとうな」

 「どういたしまして。それでは、終わったので、少しシートを広げて端だけ持っていてください。僕は、こっちを持ちますから、少しずつ大きくして、板の上に広げていってください」

 「ああ、わかった」

 少しずつ、シートを板に広げていき、舞台の隅の方に釘を打ち込んでいった。白のシートが、板を覆うと二人は少し休憩した。舞台らしくはなってきているが、袖幕とかは、まだ出来ていなかったので、まだ全体像が見えなかった。そんな不安そうな顔をしていると、梅森が言った。

 「大丈夫ですよ。広川さん。今日の午前中には、舞台は出来上がるって、演劇部の方は言っていたので、心配しなくていいですよ」

 「あ、ああ。そうだな」

 二人が少し休憩していると、また扉が開いた。梅森がその姿を確認すると、言った。

「おお、小松。久しぶり、元気にしてたか?」

「ああ、梅森も元気そうで何よりだ」

「あ、広川さんも、来てたんですね。長い間本当にお久しぶりです。」

「ああ、本当に久しぶりだな。小松」

 小松は、大きな荷物を持っているようだったので、聞いてみた。

「その、荷物ってもしかして、みんなの衣装かな?」

「ええ、まだ一部しか持ってきてなくて、他の分は妻が持ってきてくれるようになっています」

「そっか、どうもありがとうな」

「ええ、正直大変でしたが、やりがいはありましたよ。ただ、この服が皆に合うように衣装を作ってきました。ただ、みんなの体形にあうかは、皆がちゃんと申告してくれたかによりますけどね…」

 「それは、そうだな」

 笑いが起こった。そうして、衣装を見たり、小道具を見ていると、細川夫妻と小山が入ってきた。入り口であったみたいだった。それから、一人また一人と参加者が、扉を開いて入ってきた。途中で、ミャンマーから今日帰国した曽手が入ってきた。

「よく、間に合ったな。曽手」

「ええ、なんとか、フライトも定刻よりも早めに飛んでくれたおかげで」

みんな懐かしそうにしていた。

 そして、8時過ぎににみんなが集まると、広川が緊張気味に話し始めた。

「みんな、今回は本当にありがとう。積もる話はあるけど、明日の本番に向けて、今日出来る限りの最後の準備をしていきましょう。」

 広川がそういうと、皆拍手をしてくれた。

 「それじゃあ、改めて今日のスケジュールを、柿谷さんから話してもらうから、皆しっかり確認してください」

 そういうと、広川はスケジュール表をみんなに配り始めた。その書類がみんなの手元に届いたことを確認すると、柿谷に言った。

 「それじゃあ、柿谷さん。宜しく」

 「うん。それじゃあ、今からのスケジュールを言うから、聞いておいてね」

 柿谷は、全体のスケジュールを言い終わると、最後に付け加えた。

 「時間がタイトだから、今日の一回一回の練習の時間は守ってね」

 そういうと、みんなが「はい」っと元気のよい返事をした。

 「なんか、不思議な気分」と柿谷が言うと、運営スタッフたちは笑った。

 「そうだね。何か、昔に戻ったみたい」

 「それは、そうですよ」

 藤江が言った。

 「悦子さんたちは、僕たちにとっては、永遠に中国語劇の運営スタッフですから」

 そういうと、聞いているみんなが笑い出した。

 「それじゃあ、お言葉に甘えて、今日と明日だけは、昔に戻らしてもらって、皆の運営スタッフとして、頑張るからよろしくね」

 そういう柿谷の表情は、さっきよりもにこやかだった。それを見ているみんなの顔も、広川には緊張が解けたように思えた。

 「それじゃあ、今から練習するから、天空広場に移動するね。」

 天空広場は、学生センター棟から少し歩いた別の教室棟の三階にある広場だった。当時も、そこで発声練習をしたり、演劇の練習をしたりした。みんなは、わいわい言いながら、広場に向かった。

 「よかったね。広川君」

 後ろを歩いていた運営スタッフの遠藤紗枝が広川に言った。

 「うん。みんな、無事に集えてよかったよ。遠藤さんも子供ができたばっかりなのに、今日は早くから来てくれてありがとう」

 「ううん。私、全然話し合いに参加出来なかったから、今日だけは参加したいと思ってたの。子供は今日と明日だけは両親に預けれたから大丈夫だから」

 「そっか。それは良かったよ。何か、あの時と同じように同じメンバーで、天空広場に行けるって、本当に昔に戻った気がするなあ」

 「そうだね。あんまり無理はできないけど、宜しくね」

 そういう話をしていると、あっという間に天空広場に到着した。そして、江波がみんなを円形に並ぶように指示した。そして、早速発声練習をした。快晴とは言い難い天気だったが、みんな気持ちよさそうに声を出しているようだった。

 発声練習をしばらく行ってから、少し休憩すると、シーン毎に分かれて練習をし始めた。

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