表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チーム語劇  作者: ガンベン
勇気
18/32

再出発と誓い

 広川はパラパラとノートをめくり始めた。そこには当時の出来事がメモ書き程度に書かれていた。

 「2001年4月24日学内祭の出し物の検討会。例年通り、中国語劇と展示と店舗部門に分けて、行う方向になるところを、部長の立川勇人が、毎年やっているから、今年も行うというのは納得できないと発言。場の雰囲気が凍った。とりあえず、2週間後に各自意見を纏めてから、再度打合せを開くからということだけ決まった。」


 「5月8日 第二回目の検討会。展示は、女性の山野望が立候補した。中国語劇は誰もいなかったので、僕が手を挙げた。店舗部門は、この場では誰も手は挙げなかったので、とりあえず副部長の外山博が責任者になった。理由は料理が得意で、食べ物には執着があるという理由だった。外山は、そう言われると頭をかいていた。」


 広川は、その部分を見て、くすっと笑った。当時の外山の困った顔と皆の笑い声を思い出した。それから読み進めていくと、中国語劇を始めようと決めて、一度は止めかけたこともあった時期のことも、書かれてあった。


 「2001年6月14日 語劇運営会議。部長の立川が何のために今年も語劇を行うのか、僕に直接質問してきた。その回答が上手くなかったのか、理解してもらえず、やっぱりやめたらどうかと提案される…。その後、一人で悩む…。やめようかなって…。どうしたらよいものか…」


  「2001年7月21日 夏休み前の再度の全体の運営会議。再度立川の発言。今までやっていたからという理由だけで今年もやるのは、やっぱり腑に落ちない。その意見に他の人も同意していた。僕は、一言。いや一人でもやるから…。っと反論した。自信はないけど、ぽっと出てしまった。広川がやりたいのであれば、それでも良いが、しっかり考えて運営をするようにと強く言われる。もう後には引けない」


 こんな時もあったんだな…。若いな・・・。広川はノートを見ながらつぶやいた。

 当時の文章を見ていると、一生懸命な自分を思い出して、またノートを閉じて上を向いて目を瞑った。以前は、当時の思い出を探し出そうとすると、皆と楽しく過ごしたことしか思い出せなかった。でも、当時のノートを見ていたら、そんなことだけじゃなくて、悩んだり、葛藤があったりで大変だったんだって感じた。広川は、また目を開けると、下を向いて胸が苦しくなり、抑えるものが溢れるかのようにまた涙がこぼれ始めた。その涙が頬を伝って何度も何度も落ちた。そして、何百回その涙が零れた時に、ふと広川は思った。

 いや、振り返るのは、今はやめよう。広川は、一人つぶやいた。あの頃も色々悩んで、そして最後の最後まで劇が完成してなくて最後の公演会に挑んだ。不安と心配で、潰されそうになりながら、逃げずに会場に向かった。過去の思い出は、良い事だけじゃない。振り返ったら、きっと顔を覆いたくなるような失敗もあって、入り混じっている。その交錯が思い出を作り出している。時にはその良い思いでの一部を切り取って、恋しくなることもある。でも、それは今、上手くいかないことがあったり、今の自分を否定したかったりするから、逆に過去を過度に美化してしまうのかもしれない。

 あの時だって、今と同じように悩んで、迷いながら答えを探していたのかもしれない。広川は、過去のノートを見ていると、今もあの時もそんなに変わりない、と感じて、少し気持ちが軽くなる気がした。

 そんな事を思っていると、ラインにメッセージが入ってきていた。グループラインではなく、個人宛のメールの方だった。

 “広川さん。メッセージ見ました。改めて、ここに入ってくれて嬉しいです。私も頑張るので、これからも宜しくお願いしますね。最後まで、頑張って行きましょうね!”

 恵子からのメッセージだった。思えば、この中国語劇に参加するきっかけを与えてくれたのも、彼女だった。彼女の想いが、この場所に引っ張ってくれた。他の参加者も次々に個人メッセージを送ってくれた。

 広川は、個人宛てに贈ってきてくれた人たちにメッセージを一つ一つ返したあと、グループラインに書き込んだ。

 “みんな、ありがとう。やっぱり、ここに参加して良かった。本当に、最後まで、どうなるか分からないけど、僕の出来る事が、あれば何でもするからさ。これからも宜しく”

 広川は、自分の眼に涙が溢れるのが、わかった。目の中で、抑えきれなくなると、ゆっくりゆっくり頬を伝って顎から、絨毯に落ちていった。その間隔が、短くなっていくと、広川は右手で顔を押さえて、涙を止めようとしたが、逆に溢れる物を吐き出すように、止めどなく涙が出てきた。たまった何かを流すように暫く、広川は目を瞑りながら、ただ涙の流れるがままにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ