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チーム語劇  作者: ガンベン
転換期
15/32

裏切り

 そんな時期が何年間続いた。何をしても、無味乾燥だった。何かを始めようと思っても、常に会社のことが頭によぎり、無力感に陥ることがあった。いっそのこと、会社を辞めようと思ったことも何度もあった。ただ、その度に上海駐在時代にお世話になった砂川所長の言葉が脳裏に浮かんだ。砂川は、駐在時代に広川が落ち込んでいたり、悩んでいたりしていると、いつも励ましてくれていた。

「お前は、まだまだ若い。焦ることはない。歳が経てば、今の悩みが経験に変わる。そう思えば、何があっても、どこにいても頑張れるさ」

 その言葉が、いつも心の支えになった。それと、左遷のように異動になった砂川も、今もじっと耐えているだろうと思うと、自分も同じように耐えようと思いなおした。

 広川は、苦しかった。みっともないと感じた。未来を嘱望されて、会社の為に貢献したいと思った結果がこの様だと自分を責めたりもした。

 そんなことを振り返りながら歩いていると、知らぬ間に駅についた。定期を改札口にかざし、ホームへの階段へ下りて行った。いつもの通り過ぎる人たちが、少し活き活きしているように見えた。暫くすると、電車がホームに入ってきた。まだ空席はあったが、広川は入口と反対のドアまでいった。電車が出発すると、ぼーと外を眺めた。

 移りゆく景色を目で追いながら、その景色に同化を嫌がるように自分たちの意思で、動こうとする人たちが見えた。広川には、その人たちがそう動こうとしているように思えた。

 風景を見ながら、また仕事中の越野と及川とのやり取りが脳裏に浮かんだ。初めて話を聞いた時は耳を疑った。どうせ自分とは関係のない話だ。そう初めは思った。

 しかし及川さんが来たことが、広川の心にひっかかり気になっていた。及川は、魅力的な人だったが、自分の得にならないことはどんなことがあっても、動かない冷静で冷徹なタイプだった。その分、人間関係の機微や組織の中の派閥争いには十分に目を光らしていた。それが分かっているから、役員も及川には気を遣いながら接して、各役員のいい橋渡し的な存在になっていた。

 その及川が態々、広川にあんなことを打ち明けるとは思えなかった。それは、本社で3年間一緒に仕事をしてきた信頼でもあった。

 ただ、その信頼も5年前のプロジェクトでは簡単に覆されるのも、体験した。当時及川は広川に協力するような形で、広川が困っていると相談に乗っていた。広川も及川の人格と仕事に対するひたむきさに憧れて、積極的に及川に相談するようになっていた。

 しかし、及川は広川の案に反対する部分もあり、途中から白石常務やその部下たちと密かに行動をするようになり、広川が流した情報を上手く利用し、社内の承認を勝ち取るのに大きな要因となった。その功績もあり、及川はその当時の課長代理という役職から次長に抜擢された。まだ34歳という若さだった。そして、会社の花形部署でもあった本社経営室に栄転になった。

 それ以降、及川と広川は会うことも無く、広川はグループ会社に転向することになった。

 “尼崎”到着のアナウンスが流れた。広川は、ホームを降りた。外はまだ、ひんやりしていた。

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