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第6話(天界サイド)

 満天の星空にかかる月は赤かった。特段、星座に詳しいわけでもないハールには、これが地球上のものと大きく違うのかどうかすら分からないが、それでもこの美しさは理解できた。ほぅ、と溜め息が出るが、それは感嘆のものとは違った。


(キャンプと言うか、サバイバルと言うか…………どうしたものかなぁ)


 ハールは今、草むらに寝っ転がってウサギに群がられている。なんといっても生きている天然毛布、確かに暖かさはバツグンなのだが、くすぐったくもある。彼らの集落まではあともう一泊するかしないかという距離らしい。食事はまぁまぁ充分な量を採ってきてくれたのだが、まぁ、なんというか控えめに言って草ばっかりである。肉が恋しいし、シャワーが恋しい。便利すぎる現代文明がどれほどまでに自分たちを助けてくれていたのかがまさに身に沁みたわけである。


「あ~~、バーガー食べたい……」


 最近は控えめにしていたジャンクフードだが、なぜかこういう時に限って欲しくなったりするものだ。そんなハールの呟きに応える声があった。


「ばーがーって、なんですか?」

「えっ」


 思わずギクリとなるハール。目を向ければ、真っ白い毛のウサギの女の子がじっと彼を見ていた。彼女はションダの娘の一人だ。確か名前はキャロッテだったなぁと思い出す。茶色や灰色の毛を持つラディクスたちの中で真っ白なのは彼女だけだ。


「え~~~っと、なんて言ったらいいのか……」


 バーガーの材料にならないとはいえ相手はウサギ、しかも女の子だ。牛の肉を挽いて捏ねてパテにして、焼いてからバンズに挟むだなんて言い辛い。だいたい、ウサギだってパイにするし、普通にソテーにだってする。きょとんとした目で見つめてくるキャロッテの視線にしどろもどろになりながら、ハールはなぜか心がしくしくと痛んだ。


「人間の食べ物のひとつなんだけど、君たちにはちょっと……刺激が強いかな? ほら、胡椒とかのスパイスがキツイし、辛いし……」

「うふふ、わたし、辛いのも大好き! いつか食べてみたいです、勇者様」

「ははは……って、Heroってどういうこと?」


 何とか話題を逸らしたかったハールは、キャロッテの口にした単語に飛びついた。結果を見れば確かに彼らを救ったと言えるが、それでも英雄とまで持ち上げられるほどじゃない。そういうのは何だか……照れくさいじゃないか。


「だって、お二人はこことは違う世界からいらっしゃったんでしょう? それってきっと、昔話のマレビトさんのことだと思うの」

「Special guest……」


 また新しい単語だ。ションダ族長はハールたち二人が異世界からやってきたトリッパーだということを特に疑問に思わず受け入れていたようだったが、その「マレビト」という言葉は使わなかった。


「魂のマレビトは、元あった世界の肉体から離れてこっちに来ているんですって。だけど、こっちではちゃんと物も触れるし食べられるんです。わたしたちの知らない知識を授けてくれるから、とってもありがたい存在なんだって、お祖母ちゃんが言ってました」

「なんてこった……それじゃあ、もしかしてここは本当に……」


(死後の世界……!!)


 ハールがいきなり黙り込んで体を背けてしまったので、キャロッテは首を傾げた。


「勇者様、眠ってしまったんですか? じゃあ、わたしも寝ますね。おやすみなさい」


 キャロッテはハールの側で丸くなった。その温もりを感じながら、ハールは悶々とする。いったいどうしてここへ来ることになったのか。直前まで自分たちは何をしていたんだろうか、と。相談しようにもアレイレルはぐっすりだ。だがそんなハールも、ラディクスたちに包まれる心地好さにいつしか眠りに落ちていた。






 翌、早朝。

 ラディクスのおかみさんたちの抜け目のないしたたかさのおかげで、アレイレルとハールはボゥルに溜めた水で顔を洗い、温かなスープを摂ることができた。しかし、ビスケットも残り少ない。夕飯にありつけるかどうか心配になってくる量だ。晴れやかな朝の空気に似つかわしくない湿っぽさを二人が漂わせていると、ションダのおかみさんが話しかけてきた。


「アレイレルさん、ハールさん、ちょっとお願いしたいことがあるのですが、お耳を拝借してもよろしいかしら」

「あ、はい」


 耳を貸してほしいといったプチポワさんの耳の方がせわしなく動いている気がする。


「私たちの移動にこんなにも時間がかかっているのは、こどもたちに合わせているからだというのは、お二人ともお気づきだと思います」

「ああ、そうだね。確かに」

「ちびちゃんたち抱えて移動してみたりもしたけど、腕が二本じゃ限界があったもんな」


 ちびっこたちは大いに喜んでいたが結局は疲れるだけでそんなに距離を稼ぐことはできなかった。野営の準備もしなくてはならなかったわけだし。プチポワさんは笑って御礼を言うと、話を続けた。


「ですから、昨日の夜から女たちで大きなかごを編んだんですよ。もし、お二人が良ければ、こどもや足の遅い者だけでも背負って歩いてくださらないかと思って」

「なるほど!」

「そりゃあいい案だ」


 一メートルほどしかないラディクスと、人間である二人では大人とこどもくらいの差がある。さらに小さいちびっこたちでは言わずもがなだ。二人は快諾し、かごを背負って進むことになった。何事もなく順調に進んでいたが、ハールの目に奇妙なものが映った。馬鹿でかい角である。大きく指を広げた手のような形の雄々しい角、それはラディクスたちから聞いたシルヴァ族の特徴と一致している。


(クソ……いくらなんでもでかすぎるんじゃないか!?)


 ヘラジカといえば地球上でもかなり大型に分類される種だ。四足で測ったときの地面から肩までの高さは二メートル後半から三メートル。アレイレルの愛車であるソアラと重さはほぼ変わらないのに、高さは段違いである。その獣人であるシルヴァ族ときたら……およそ三メートルはありそうだ。盛り上がった上半身の筋肉ははちきれんばかり、腕は丸太のようで、頭にいただいている角は大きく幅広でぶちあたれば骨折は必至だろう。比べて下半身はそれほど発達していないようだ。足回りの弱さに付け入る隙があるかもしれない。


 二人はラディクスたちの入ったかごを下ろし、隠れているように言い含めた。


「勇者様がた!」

「キャロッテ、さがっているんだ」


 あちらはゆっくりと、もしやラディクスたちが逃げる猶予を与えているのじゃないかと思われるほどにのんびりとした足取りで近づいてくる。数は六。ひとりだけ空手衣のような形の上着を身につけている。サフラン色のズボンをつけたシルヴァ族と二人は相対した。

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