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第4話(天界サイド)

 ラディクスたちは目をパチクリさせた。いきなり現れた人間たちが、争いをおさめてくれたからだ。いや、正確に言うならばそのうちのひとりが、だが。


 その二人はどちらもそう若くない男だった。見た目からして位の高い人物ではなさそうである。妖精たちを捕まえた手腕は鮮やかだったが、荒事に長じている者の醸し出す、がさついた空気は感じられなかった。むしろ逆だ、心身ともに高みにある者の余裕のようなものが彼らにはある。


 状況の説明をと求められ、ラディクス族の長であるションダが一歩前へと進み出た。


「いやはや、どこからおいでになったのか、とんとわかりませんが、助かりました。ありがとうございます、人間さんがた。我々はラディクス族の者です。私はションダ、これらのまとめ役です」


 流暢に喋りだしたウサギに、ハールもアレイレルも思わず目を点にした。特にアレイレルは自分で言っておきながら、こんなに綺麗な英語が聞かれるなんて思っていなかったのだ。無言のまま肘を突き合う二人をよそに、ションダという茶色のウサギは続けた。


「ここは妖精たちの国の入り口にあたります。言わば我々は闖入者。と言っても、望んでここにいるわけではありません。妖精たちを傷つけるつもりもありません。シルヴァ族の者たちに追い立てられ、行き着く先がここしかなかったのです。事情を話せば妖精たちもわかってくれるかと思いましたが……そうはなりませんでした」


 がっくりと肩を落とすションダ。彼は本当のことを言っているように見えた。

 ここでふとハールは気づく。最初は二十にも満たないと思っていたウサギたちだったが、いつの間にかその数が増えている。それはションダよりもひと回り以上小さなウサギだったり、スカートをはいたウサギだったりした。バトルロワイヤルの間に隠れていた非戦闘員のラディクスたちなのだろう。


 彼らの丸い目、ヒクヒクしている鼻、そして少女がヌイグルミに着せたがるようなエプロンドレスやチョッキといった素朴な衣装……。世界に誇る有名絵本作家、ビアトリクス・ポターの世界から抜け出してきたような彼らを見て、誰が血生臭い争いを想像するだろうか。


 ションダの側にも家族が近寄ってきた。女の子を二人、ズボンとチョッキを着た男の子らしき小さなウサギを連れた女性がそっと彼に寄り添うと、ションダはその背に腕を回して慰めるように優しく叩いた。意を決したようにションダがアレイレルを見上げる。


「どうかお願いです、妖精の皆さんを解放して差し上げてください! 我々は争うべきではありません」

「えっ、でも、放したらまた襲われるんじゃ?」

「覚悟の上です」


 ハールは思わずうめいていた。


(いやいや、勝手に覚悟されても……)


 背の高い二人がまず一番につつかれることは目に見えていた。アレイレルも渋い顔だ。だが、大勢のラディクス、しかも小さな女の子にまで見つめられては……


「……わかったよ。けど、あまり攻撃されないように花畑の外で放そう。こどもたちには離れてもらってさ。それならいいだろう?」


 人間であるアレイレルとハールにはウサギの表情の変化はよく分からなかったが、口々にありがとうと感謝の言葉を繰り返すラディクスたちは、どこかホッとしているようだった。


(平和な種族なんだなぁ)


 アレイレルは思わず口角を引き上げていた。

 ちなみに、上着で包まれた妖精たちは、おそらくギュウギュウ詰めにもかかわらず今も元気にゴソゴソしていた。意外とタフな奴らだ。


 花畑の出口が見える場所までやってきても、シルヴァ族どころか誰の姿もなかった。ラディクスたちはピョンピョン跳ねて脱出し、続いてアレイレルとハールも花畑から出た。そして妖精たちを解放する、という段になって、皆がいっせいにアレイレルから距離を取った。


「薄情者~っ!!」


 心では分かっていても、そう叫ばずにはいられない。アレイレルの視界の端でハールが小さく「ごめん」という意味のハンドサインを出していた。緑の上着を広げると、蜂の羽音のようなうるさい音と共に三十センチほどの妖精たちが飛び出す。そして案の定、アレイレルの髪を引っ張り、爪楊枝ほどの槍で刺し、ベーッと舌を突き出してから去っていった。


「このっ!」


 本気で当てるつもりのない拳を振り上げ、アレイレルは毒づいた。次もこんな態度を取るならば、虫取り用の網で追い掛け回してやる、と思いながら。戻ってきた彼を皆は笑顔と感謝で迎えた。特にハールは任せてしまった負い目もあったが、あれほど静かに怒っていたアレイレルが暴挙に出なかったことに安心していた。そして正しい判断をした彼を誇りに思う。


「それで、これからどうするべきかな。結局、どうしてこうなったのかはさっぱりだ」


 バサリと大きく振った上着に腕を通しつつアレイレルが言うと、ションダが横から、


「ひとまずシルヴァ族たちも退散したようですし、我々の集落に共にいらっしゃいませんか? 僅かばかりですが、助けていただいたお礼がしたいのです。そこには、奪われていなければ水も食料もありますし、なにより地図があります。人間の住むのはもう少し南……ですがそこまで行くのには何日もかかります。見たところ荷物も何もないようですし、どうでしょう、お二人とも。そういえば、まだ名前も聞いていませんでしたね」


 訳の分からぬままに放り出された二人は、そっと顔を見合わせた。

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