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第8話(マッハサイド)

 翌日。

 異変が起こったのはその日の朝食時からだった。明らかにハールの顔色が悪いのである。


「……ど、どうした? 大丈夫か?」


 何時も冷静沈着なアレイレルでも、流石に動揺を隠しきれない位のハールのその現状。

 明らかに目が死んでいるし、ブツブツと何かを呟いている。言葉は悪いが廃人と言われても違和感が無いと言える位だった。


 そんなハールはアレイレルに視線を向けると、これまた明らかに元気が無い口調で答える。


「……ああ、あの……昨日の夜からずっと頭の中になんかDちゃんの声が聞こえて来るんだよ……流石に寝不足だからやばいなーって思ったんだけどさ、今日にはもう帰らなきゃいけないだろう?」


 しかし、こんな状態のハールがとても自走でセルシオを運転して東京まで帰れるとは思えない。


「いや……危険だ。もう1泊するか?」


 別に仕事なら店のスタッフに連絡すれば何とかなるから、と言う事でアレイレルはそう提案したのだがハールはどうもそうは行かないらしい。


「それが僕は駄目なんだ。明日は丁度酒造業者との打ち合わせがあるから、どうしても今日中に東京に戻らなきゃいけないんだよね……」


 ナイトクラブを経営しているアレイレルと同じく、酒屋を経営しているハールにも経営者としての責任がある。


 こうしてお互いの休みが合う事も実はそうそう無いので、こうして予定が合えばカナダのトロントとアメリカのデトロイトと言う、国境を挟んでほぼ隣同士の街からはるばる日本までやって来た北アメリカ出身の親近感がある2人で一緒に出かける事が多い。


 そもそもこの2人の出会いはさかのぼる事18年前……つまり2000年からなので相当に長い。

 それ位の長い付き合いがある2人だからこそ御互いの事も良く分かっているつもりではいたのだが、そんなアレイレルから見てもハールの顔色の悪さは今までに見た事が無い位のものであった。


 だからこそここで無理をして東京まで運転する、等と言う事になれば最悪の場合交通事故死に繋がってしまうのでとてもそれはさせられないのは明白。


「うーん、だったら何処かで仮眠するしかないな。朝飯を食ったらチェックアウトの時間までもう余りないし……」


 でも街中のカプセルホテルに泊まるとなれば今度は駐車場を探さなければならないので、それはそれでまた手間が掛かる。


 となれば車を停める事が出来る場所があれば、その車の中で仮眠を取れるという事になるのではないかと考えてみたアレイレルはハールにそう提案する。


「……ああ、そうしようか……なら丁度良い場所知ってるよ、僕」

「え?」


 まさかのハールのセリフにアレイレルの動きが止まる。

 大阪は確かハールも余り来た事が無い筈なのに……と思っている彼に対して、ハールは以前大阪にやって来た時の事を余り回転していない頭で何とか思い出しながら続けた。


「ほら……同じチームの恵が居るだろう。恵はこの大阪出身だからと言う事で、良い走りのスポットに案内して貰った事があるんだよ」


 大阪、そして走りのスポットと言う2つのワードを聞いたアレイレルは1つの場所を思い浮かべる。


「もしかしてそこって……今年D1グランプリが久しぶりに開催される舞洲スポーツアイランドか?」

「そうそう、当たりだよ。あそこなら車を停められるだけの広い駐車場もあるから、市街地の中で車を停めるよりもはるかに安心してもう一眠り出来るよ」


 広大な敷地を持っている舞洲スポーツアイランドでは、その名称だけあって色々なスポーツが出来る複合施設として知られている。


 そこには「空の広場」と言う場所があり、特設コースが設営された上でそこでも結構な頻度でドリフトの走行会や大会が行われているのだ。


 しかしもうドリフトは存分に楽しんだし、交換用のタイヤもこれ以上持って来ていないし後は東京に帰るだけなのであくまでも休みに行くだけである。


 その事を朝食バイキング後に麗筆に説明しホテルを出発。

 ハールのセルシオの助手席に麗筆が乗り込み、ドライバーのハールが寝そうになったら起こして貰う事にして舞洲スポーツアイランドへと向かう。


 そしてハールの睡眠不足の原因を作ったDちゃんはアレイレルのソアラのトランクに押し込められていた。


(あのDちゃんとか言う奴、変な触手を出して来るし甲高い声でわめくし……違う世界からやって来た本って言うのは理解出来るが……)


 それでも、元々ファンタジーな世界観に全くと言って良い程縁の無いアレイレルにとっては理解し難い物であった。

 美少女ゲーム好きのハールもそれは同じだが、アレイレルよりはまだ理解が少しだけあると言える。


 ハールが途中で寝てしまわない様に心配し、そしてDちゃんがあの備北ハイランドでのピットでのやり取り以降全く喋らなくなってしまったのを不気味に思いつつハールのセルシオの後に続いてアレイレルはソアラを走らせるのであった。


 そんな自分達に、この大阪の最大のライバルである東京で巻き起こる修羅場が待ち受けている事等知る由も無く……。

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