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99.99%の凡人枠から  作者: 草臥☆白処
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ファンタジー物語の開幕は酒屋にて⑥

前回までを参照。

楽しんでいってください。

 酒場の空気は、一線に光った稲妻いなづまで緊張していたが、次第に弛緩しかんし平常運転へと戻る。何もなかったかのような空間は、空気を得るかのように順応した。

 それは、一命をとりとめた変態冒険者にも言えることで。

「……な、何なんだ、いったい。……まぁ、いいか。……それよりも姉ちゃんたちさ、そろそろおっぱじめようぜぇ」

 始めるも何も、今さっき人生ごと終わりかけていたんですけどね、貴方。

 はぁ、と嘆息たんそくを漏らすマケルルは変態冒険者に歩み寄った。汗臭く、酒臭い。あと、オッサン臭い。ナンパにしつこく追い回されたことがよくあるマケルルではあるが碌な奴が居ない、と有り難くもなんともない教訓を得た気分になった。

「うるせぇ、そろそろ寝ろ」

 マケルルは変態冒険者のひたいにデコピンをかます。中指を、ポン、と弾いただけだ。

 だが、変態冒険者は頭を大きくけ反らせる。同時にパンッと、炸裂音さくれつおんが響いたかと思えば、変態冒険者は泡を吹いて酒屋の床に倒れた。

「おっと……」

 変態冒険者に倒れられる前に、姉を救出。いろいろあって混乱しているようではあったが、抱きしめると大人しくなった。

 姫様を救うナイトのようだ。なんて思ったが、これは姉だ。

 あと、そんなことよりもなんかすごくいい匂いである上に女性らしい柔らかさ。「ゴリラの始祖」とささやかれているマケルルは、何か大事な物を失った気がしていた。喪失感そうしつかん、というには、手遅れが過ぎていた。

「……あ、ありがとう」

「あー、うん。どういたしまして。っていっても、私、デコピンしただけだし」

 どっちかっていうと、謝りたい気分だった。自分たちが暴走しなければもっと事態は小さく済んだ。テヘ☆ペロ、である。

 まぁ、主にアルが悪いし。とお得意の責任転嫁で心の平静を保つマケルル。

「……なんか、アルに似てきた?」

「え……。それ、まぁまぁ不名誉だから取り消して欲しいんだけど」

「本当。ダメよ、あんなのに感化されちゃ」

 わかっているよ、お姉ちゃん。あんな暴れ馬の上でなお暴れてそうなお嬢様になんか成らないよ。ぜったい。

 マケルルは、今までの事柄を棚に上げた。


 棚上げついでに、ぴこん、とひらめいたこともあったので実行に移す。

「フィール?」

「はーい。ご無事でしたか?」

「うん。バッチグー。それはそうと、お姉ちゃんと外で待っていてくれないかな。こんな酒臭い所でたむろしていると気分悪いだろうし」

 らじゃー、と敬礼し、フィールはメアルに肩を貸した。純情な子だ。私みたいなのに感化されちゃダメだよ、とマケルルはつぶやく。かなり切実に、つぶやく。

 その間に店主へお勘定かんじょうを済ます。机の上に置いておけばウエイトレスが拾ってくれるのだが、それだとちょっと都合が悪い。

「店主、美味しかったよ。はい、お勘定。あと、迷惑かけちゃったしチップも上乗せで……ごめんね?」

「おう、それは良いんだがなぁ。参ったなぁ。天井に穴が開いちまっているじゃねぇか……これじゃ、清掃の行き届いたうちの店を目当てに来てくれたお客に面目立たねぇよ。雨漏りなんて、ネズミも喜びやしねぇよなぁ」

 ちらっと、きらめく眼光。マケルルは熟知していた。これは汚い大人の眼であることを。

 眺めてみた限り、店内は繁盛はんじょうしていはいるが、それに伴ってどうもホールが慌ただしいようだった。

 つまり、そういうことだ。店主は損害に対する『誠意』をご所望であるそうだ。

 金を積んで、それ手打ち、も出来ることは出来た。だが、相手は汚い大人だ。店そのものを改装工事かいそうこうじまで出来ちゃうような金銭を要求されてはたまったものではない。

 お金で解決できないのであれば、その以外で払うしかない。

「……あそこで伸びている奴、どう?」

「なんだ、オイ。その言い草よぉ。言いがかりはよしてくれよ。まるで俺が店の天井焦がされたことを盾に強請ゆすっているみたいじゃねぇか、人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ、即戦力くれ」

 みたいもなにもその通りじゃねぇか。……はぁぁ、とデカいため息が出る。

 仕方がない。南無サン。

「……ホールなら、アレでどう?」

「アレ、使えんのか?」

「物覚えいいから、うん。使えないこともないかな?」

「よっしゃ、採用」

 交渉成立。よし、帰ろう。店主には別途、妥当な修理費用を握らせ店を後にした。途中、死んだように気を失っている変態を担いだのは、気まぐれである。

 なに、ほんのちょっと慈善じぜんってやつに協力してみたくなっただけだ。他意はない。




 異変を頭の中で整理していたアルはふと周りを見ると、マケルルが店から出ようとしているではないか。なぜ、自分に声を掛けず退店しているのか。

「おいおい、待ちたまえよ。ボッチにするなんて寂しいじゃないか」

 ポン、と肩に手が置かれる。ナンパかね。おいおい、よしてくれよ。初めて声を掛けられることに若干のときめきを覚えつつも「なんだね」といつもの調子を崩さず振り返るアル。

 そこ居たのは強面の店主であった。

「ん?……あれ?」




 自己責任ってやつだ。悪く思わないで欲しい。

 マケルルは損害のツケをアルに丸投げした。一昔前に否定されていた気がするが、金銭は労働の対価なのだ。是非とも天井代ぶんは頑張って欲しい。

 まぁ、実際はそんなことどうでもよくって。

「あっぶね。これでもう肉食べずに済む」

 メアルとフィールには適当にカバーストーリーをでっちあげよう。アルはイイ男に引っ掛けられていたとか、肉なんかよりもこの変態を王宮騎士に突き出すことが先決だ、とか。

 あれだ。テヘ☆ぺコリンコビ~ム☆ってやつだ。許せ。

次回・どうなるアルさん……。

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