ファンタジー物語の開幕は酒屋にて⑤
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店が揺れた。
遅れもせず、律儀に音が同時に轟く距離だ。木造の天井が焼け焦げ、肉の焼ける匂いとはまた別の煙ったさが鼻腔を突いた。
―――だが、それだけであった。
「……あれ?」
覚悟をしていたマケルルもこれには困惑する。店が半壊するぐらいの被害は出ると予想していたのだが、変態冒険者を含めて瞠目しているだけであった。
加減をしたのだろうか。または、着弾直前で干渉を解いたのか。
「……アル?」
相棒の顔を伺う。
だが、彼女も予想外のことに混乱しているようだった。
たしかに、当てる気は無かった。足元にでも雷を落としてやって、驚きのあまり失禁する様を嘲笑ってやろう位にしか思っていなかった。
魔法、それも祈祷魔法で、自分がミスを犯すことなど有り得ない。自分の手足の指先なんかよりも自由が利くのだ。狙ったところに着弾させることなんてものは朝飯前だ。
だが、失敗した。失敗と称していいのかわからないが、祈祷魔法が予期した通りに発動しなかった。何故だ。
市販では『魔法障壁』なる魔法を霧散させる魔法使い泣かせのアイテムが出回っている。入手難易度は高くはない。それなりの金銭で手に入れられる代物だ。
空中に浮遊している魔力を司る者が魔法使いではあるが、魔法障壁はこの魔力を強制的に障壁外へと押しのける効果あり、魔法全般の効力を受け付けなくなるのだ。
信託魔法で『生成』された創造物は分解され、祈祷魔法の『干渉』は解除される。
有り体に言えば、魔法を完全に無効化してしまうのだ。
まさに魔法使いにとっての天敵である。
だが、それ故に。
魔法障壁の発生させる魔力の分散を魔法使いは絶対に見逃さない。透明なバリアは、魔法使いにとって知覚できるものなのである。それは多少距離があろうとも、明確にわかる。
魔法使い三日目のド素人であればいざ知らず、アル・キャスタリアがこれに気付かないなんてことは有り得ない。
何か、異常なことが起こっている。
アルの静かな動悸は、酒場の喧騒に掻き消された。
次回・深まるミステリー……は、一旦置いといて。