ファンタジー物語の開幕は酒屋にて③
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「……ん。……あー、久しぶりね、貴方たち」
罪悪感と満腹感で幸せとは真逆の涙が出そうな折に、良く通る流麗な声。肉の茂みからマケルル達の意識を反らす。
「あぁ、メアルさん。お久しぶりです!」
「えぇ、久しぶりね」
誰に対しても、礼節を以て接するフィール。立ち上がろうとしたがメアルは、そういうのはいいわ、と手で制止し、空いていた席に座る。
「メアル、いい所に。……ここの肉は美味いぞ。ほれ、食べてみなさい」
「結構よ。晩御飯はもう済ませたの」
チッ、と聞こえるように舌打ちをするアル。彼女たちの仲にあまり遠慮といった類の物は無かった。
故に、巻き込むことにもまるで躊躇はなかった。彼女が使えないと知るや否や、アルはウエイトレスが運んできたメアルのお冷を掠め取りグビグビと飲み干した。
「……久しぶり、マケルル」
「あー、うん。久しぶり、お姉ちゃん。一ヶ月ぶり?」
親族とはいえ、間隔があくとどうも接しにくさを覚えるマケルル。男子三日会わざればなんとやら、というが特に変化が見られないのはお姉ちゃんが女子だからだろうか、と下らないことを思う。
対して、メアルも妙にドギマギしている様子で、「背、伸びた?」と座っているマケルルに聞いて来る。何しに来たのだろう、と疑問に思いながらも、「まぁまぁ、かな」と適当に答えた。
メアル・ベルモットは、ここ、王都クラメスにある王立大学に通う学生だ。医学を学んでいる。メアルもアルと変わらず19歳、その若さで大学の門徒に名を連ねているのだから才媛としても王都でも名が知れていた。
なお、アルもメアルと同じ年に魔法学の分野で入学していたが、早々にばっくれ、自主退学している。彼女曰く「肩書ばかりの学者連中とは相いれない」、だからだそうだ。
加えて、学生身分よりも安定収入(金版のみ)の冒険者業をやっていた方が得られる知識も多いのだそう。マケルルにはよくわからなかった。
絹のような質感の朱色の髪。知的に飾られた眼鏡が顔にのっかっているが、鼻筋の良く通った美人さんにはガリ勉の印象はまるでなく、どこか官能じみた大人の色香さえあった。
学び舎の紋章と、紅いライン数本入っているだけの黒っぽい制服にはシワの一本もなく、マジメな彼女によく似合っていた。少し感慨深さも覚える。つい数年前までぶかぶかだったのに、と。
「……そういえば、お姉ちゃん。晩飯食べてきたってことは、ここには別の用事で?」
「……あー、えーっと、その」
言いにくそうなメアル。どうも、頬も赤い。垢抜けた様子のメアルであったが、こういった調子をみていると、やはり大陸の片田舎で一緒に育った姉妹だなぁ、なんて。マケルルは思った。
大陸にはそれぞれ区分があった。
轟々《ごうごう》と大地がうねり、マグマが絶えず憤る火山地帯。
一面、砂で覆われ干からびている砂漠地帯。
年中吹き荒れる吹雪に夏は来ない雪原地帯。
水に浸され雨量が飛びぬけて多い湿原地帯。
木々で覆われ、谷や山の起伏が激しい渓流地帯。
そして、マケルル達が今暮らしている人間の主な居住地帯。便宜上『~地帯』と呼ばず内陸と表記されていた。そして、内陸以外の土地を大陸としている。
マケルル、メアルの出自は渓流地帯の、そのまた辺境。かたや、アルとフィールは内陸出身である。とはいえ、内陸といえどもそれぞれ行政区がわかれている。
中央に王都クラメス。それを囲むように、南西には城下町メスレ、南東に港町セルビオ、そして北には工業トラストカがある。その上にまた、関所トラストカがあった。
フィールは人口が最も多い城下町メスレ、アルは王の膝下である王都クラメスだ。
内陸でも田舎トークに花が咲くのだ。大陸である渓流地帯、それを抜きにしてもまた辺鄙な土地に実家のある芋娘二人であったマケルルとメアルは相応の苦労があった。
だが、現在、片方は二十二人しかいない金版冒険者、そしてもう片方は学の天才。身の程を知る者は、彼女たちに声を掛けることを憚った。
しかし、ここは酒場だ。荒くれの密林である。
そのような上等な美人を放っておくほど、男どもの気性も大人しくはない。
グヘヘ、なんて間抜けな鳴き声の雄が一匹、メアルの背後に迫っていた。
次回・メアルさん危機一髪!?