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99.99%の凡人枠から  作者: 草臥☆白処
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ファンタジー物語の開幕は酒屋にて②

★誤字・脱字はご愛嬌。

★コメントは何時でもお待ちしております。

★応援とか、別に、欲しくないこともない。いや、欲しい。

★誹謗中傷等の書き込みはご遠慮ください。


☆序盤はともかく、中盤(まだ掲載していない)からはシリアス+激戦が続くので、読みごたえはあるかと。まぁ、ゆっくりしていってね。

「あー、やっと見つけました!」


 ぴょこり、と現れた少女。

 区画が身分によってキッチリ整理されている訳ではなかったが、ここは俗称でスラム街と呼ばれる治安のよろしくない立地にあった店のため、顔触れは往々にして、ワイルドであった。ワイルド、というと聞こえはいいが、率直に言えば品のない連中の掃きだめ見たなものであった。

 だが、まるで砂漠に咲くはずのないタンポポが開花したかのように、そこにはフィール・マーケリーが居た。可愛らしい容姿に加えて、マケルルよりも年下の14歳。


「フィール、ただいま参上しました!」

 これまた可愛らしく敬礼のポーズ。

「……ルル、私はね、平和を信じるよ」

「……やっすいなぁ、平和」

 まぁ、高いよりかは幾分かマシだと思う。腹の虫が一匹、気分を損ねるだけで争いなんてものが産まれる世界だ。少しくらいはまけてくれたっていいと思う。

「アリスは?おねんねしちゃった?」

「それはもう、ぐっすり」

 重ねた手を枕のようにして、アリスが眠っていることを表現するフィール。

 ふーん、とマケルルは微笑ましい寝顔を思い浮かべる。んだ酒場で、荒くれの顔ぶれに馴染んでしまった自分にだってオアシスがあるのだと、ちょっと遠い目をしてみたマケルル。


 アリスと呼ばれる少女を含め、ここの四人でパーティー、『千年物語サウザントストーリーズ』を築いている。とはいっても、アリスは非戦闘要員、フィールも銅板冒険者として見習いのようなものなので、実質はマケルルとアルのタッグがクエストをこなしていた。


「あ、そうだ。マケルルさん」

「ん?」

「その、改めまして……金版、おめでとうございます」

 まるで自分の事のように笑みを浮かべるフィール。マケルルは、心が洗われる、そんな感慨を抱いた。

「あ、ありが――」

「フィール。ほら、肉だ。食え」

 一方、自分の肉をフィールに押し付けるアル。ゲスの顔つきである。否、ゲスである。

 あぁ、人間って所詮しょせんこんな生き物だよね、と洗われていた心が一瞬で泥をかぶった。こんなもんである。

 わぁ、美味しそうですねぇ、と純真な笑みを湛えているフィールに、帰れ、と言わないあたり自分も同罪なのかもしれない。だが、フィールがもう倒れそうなほどに腹を空かせている可能性もないこともないはずなので、マケルルはそっと目を逸らした。こんなもんだった。

 骨の刺さった肉を丁寧にナイフで切り、頬張るフィール。ほっぺに手を当て、ん~と味わっている。そうだった、マケルル達も初めはそんな感じだったのだ。

 だが、倒れそうなほどの空腹でも、空前絶後くうぜんぜつごの食いしん坊キャラなこともなかったフィールは、次第に異常な量の多さに勘付く。「あの~」と、あまり力のない問いかけをする。

「……多く、ないですか?」

 二人は黙っていた。

「……どうして、その、お二人はフォークとナイフを持っているのに、全然動いていないのですか?」

 何か喋れ。マケルルはそんな思いでアルの足を蹴った。一瞬、すねの痛みにひるんだアルであったが、両足を行使して蹴り返してくるあたり、お前が喋れ、ぐらいの含意があるのだろう。

 イヤだ。自分の言葉で、フィールを泣かせるのだけは絶対に嫌だ。

 マケルルは、それとなく、陽気に、怪しまれないよう、こう言った。

「……ごめんね。ちょっと、お花を摘みに……。話はアルがくってさ」

 信じられないものを見る眼でマケルルを凝視するアル。てへ、許してちょんまげ☆、とマケルルは胸の前で謝るジェスチャーをする。そこはかとなく、陽気に。

「アルさん……?」

 脂汗を垂らすアル。万事休すであった。

 だが、ポロっと出てきた言葉は、マケルルがフライアウェイした後に気付いた自身は助かる紐のような命綱であった。

「マケルルが注文しすぎたのだよ」

「貴様、女狐めぎつね、このヤロウッ!」

 無論、始めから催してなどいないマケルルはトイレに居るはずもなく、即座にアルの胸倉を掴み上げる。ざまーみろ☆、と満面の笑みで応答するアル。

「じゃあ……」

 囁くような小さな声は、フィールであった。明るい声ではない。ただそれだけが、二人にさざ波を立てた。これは、マズい、と。

 あれやこれやと思索しさくを練ろうと試みるが、マケルルにそういった才はなく、胸倉を掴まれたままのアルは胃の中の内容物を戻しそうになっておりただただ戦力外であった。


「じゃあ、御残しはダメですね」

 フィールは、無理をして笑みを作っていた。その不自然な笑みが、この量を食べきることへの不安か、または先輩冒険者にめられたことへの哀感あいかんか、それはわからない。

 だが、自分たちの犯してしまった罪の重さだけは理解できた。

 マケルルは目を伏せ、黙々と肉を食べた。

 アルは、耐え切れずにトイレで吐いた。

よければコメントくださいな。まだまだストックはあるので、がんばりますよー!

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