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辺境の異剣使い  作者: 無依
学園編
7/13

第7話

 

 トコトコと馬車に揺られて、揺られまくってもう陽は下がり始めている。


 レーベアス領からエルステラ王国まで半日もかかるなんて。その間1人暇すぎてずっと寝てたよ。


「お待ちしておりました」


 馬車から降りると見慣れていたメイド衣装と打って変わって、エルステラ学園の制服を身に纏うテレサが真っ先に俺を出迎えてくれた。

 白のブラウスには赤いリボンと意匠の施された銀の学園の紋章がある。下は膝上まで伸びた紺のスカート。


「制服の姿も似合ってるな」

「私には勿体なきお言葉です」


 と言いながらも顔を赤らめるテレサ、可愛いぞ。髪型も昔の長いポニーテールとは打って変わって、セミロング程の長さまでに切り揃えている。1年会わない間に随分と女の子らしくなったな。


「今日はもうお疲れでしょう、寮へご案内します」


 連れてこられた場所は1人で暮らすには持て余すぐらい広いものだった。貴族はこれくらいが当たり前なのだろう。本来は家から執事なりメイドなり連れてきて身辺の世話をするらしい。だが俺はテレサがすることになっている。少し前に手紙が送られてきて『リオン様のお世話は私がするので、新たに使用人を寄越す必要はありません』とあったのだ。

 断る理由もないので、俺も使用人を誰も連れてくることは無かった。ただテレサも学生だから食事が一緒になることくらい、一人よりもずっといいだろう。


 今日はもう夕方だったのですぐに夕食をとった。明日から入学式があるため、早めに寝ようということになった。テレサも部屋に戻っていった。




 明くる朝。

 金の豪華な紋章が付いたを白を基調とした制服を身にまとう。テレサの紋章が銀色だったので、それで貴族がそうでないかを区別しているんだろう。

 テレサが作った朝食を頂き、そのまま一緒に登校する。外観はとても豪華な作りとなっていて荘厳な空気を感じさせる。

 校門の前には手を上げて呼びかけている教師?の人が目に入った。


「新入生の皆様はこちらへ来てください!」


 というわけだからテレサとはここで別れて、案内に従い指定された場所へとついて行く。そこは大きなホールとなっていて、結構な数の新入生が集まっていた。


 時間になると大柄の男が壇上に登って声を上げる。


「諸君、エルステラ学園への入学おめでとう。私は学園長のジルド・ザーンドという。君たちと出会えたこと心より嬉しく思う。」


 学園長からの挨拶のようだ。長々と学校の歴史を語っていく。正直興味無いし、耳から耳へと流していよう。


「それでは諸君、私の挨拶はこれで終わりとする。今から始まる入学試験は上のクラスへと入れるよう持てる力を発揮してくれ、健闘を祈る。」


 昨日テレサから色々聞いていたが、この学園は入学試験をもってクラス分けがされる。その試験の成績が高得点であればあるほど上のクラスに配属されるということだ。新入生の面々が続々と試験会場へと誘導されていく。


一つ目の試験。筆記

これまで学んできたこと、ただ学力を測るだけ。科目は歴史や魔法、貴族社会のルールに関することなど、前世の学校とはかなり違っていた。これに関しては小さいころから家庭教師をつけられ教えられてきたから全然できないということはなく、無難に終えた。


 二つ目の試験、魔法。

 的に向かって放った威力、使える属性の種類で計測する。威力さえあれば、種類が一つでも点を取れそうだし、逆もまた然り威力が弱くても多くの魔法を扱えれば採れる点も多くなる。


 俺の魔法は主に雷、そして水を若干と、2種類の魔法を使える。試験官の前で、的に向かって魔法を放つ。威力は、そこそこといったところ。もともとの魔力量が多いからそれで威力をカバーしている点が否めない。魔法は家での授業でしか使わなかった。ずっと剣ばかり振っていたから。その時の教師曰く、優等生どまりとのことだ。他の生徒の魔法を見るに、結構いい感じなのではなかろうか。自分の評価としても、優等生、上の下はあると思う。試験官の顔はずっと真顔なので、よくわからん。




 三つ目の試験、剣術。

 新入生同士の対人で行う。武器は学園の鉄の剣のみ。鉄の剣と言っても両手剣、片手剣、レイピアなど様々な種類の中から、自分の流派、戦い方に合った剣を選ぶことができる。刃はあまりいい状態ではなく、もし切りつけたとしてもせいぜい切り傷どまりだろうといった安心設計。

 しかし残念ながら刀はない、知ってたけど。今のところ刀は俺が特注したやつしか見たことない。今回はレーベアス流を使うしかない。まああったとしてもあまり見せたいものでもないので使わなかっただろうけど。両手剣の大きいものを選ぶ。

 その剣を使って三戦して、その内容から判断するらしい。もちろん魔法を得意としたもの、入学したものもいるため、その者はパスすることもできる。得点は下がってしまうが。

 少し待っているとすぐに自分の順番が来た。試験官が俺と対戦相手の名前を呼ぶ。


「次、タイラー殿!、リオン・レーベアス殿!流派は?」

「セントリア流です」

「もちろんレーベアス流です」


 俺はしょうがなくだけど。そもそもレーベアス流はレーベアス領の人たちにとって主流なだけだから、王国ではあまりいない。一方、相手はセントリア流、通称王国剣術と呼ばれるものだ。中央貴族の大半が習うだろう。ほかの剣術と違って、特出した特徴はないが、弱点もない、オーソドックスな基本の剣となっていて、使う人を選ばない、誰でも使えるものとなっている。中央が使う剣術だから弱いわけがない。


 二人剣を構えて、まみえる。


「よろしく」

「よろしくお願いします」


 辺境伯はそこらの中央貴族よりは位が高い。辺境伯家は重大な役目を果たしているからに他ならない。まあ、そんなことどうでもいい、今重要なのは相手の剣だ。とくと見極めさせてもらおう。


「初め!」


 レーベアス流は守りの剣術であるからして、基本的に受けの姿勢で相手の出方を窺う。剣を前に下ろした、おおよそ正眼の構えだ。埒が明かず、相手が間合いに入る。冗談からの振り下ろしてくる。こちらもそれに合わせて迎え撃ち、受け止める。威力はまだ低い。いなすこともできたが、そのまま打ち払い相手の体勢を崩す。


「はぁ!」


 次は横から斬撃、狙いやすかったので、思い切り力を入れて上から打ち下ろす。相手の剣を握る手が耐え切れず手放してしまう。間髪入れずに、喉元ぎりぎりに突きつける。「止め!」と試験官からの制止が入る。そんなに強くなかった。


「さすが、レーベアス家の一族だ。瞬殺だったぞ。」

「ああ、無駄な動きもなく華麗だ。」


 観衆というか、ほかの新入生も声がちらほら聞こえる。これは普通に相手の研鑽不足だと思うが。戦える平民より強い程度くらいではないだろうか。この8年何百、何千時間も剣を振り続けた俺の敵ではない。

 俺はこのまま連戦のようだ。次の相手も同じセントリア流であまり手ごたえもなく難なく勝つことができた。どちらも貴族、しかも中央住まい、家稽古しかしたことがなく、実践などしたことも無いのだろう。俺もこの世での実戦経験は数える程だけど。物足りなさはあるが、次も簡単に勝てれば楽でいいのだが。


「次、シャリア・エルステラ様!」


 名前を聞いた瞬間、心臓が止まるかと思った。エルステラ?王族の?あの?え、普通にやりたくないんだけど。


 試験場へ上がってくる1人の少女。勝気な青紫の目がこちらを向いているではないか。プラチナゴールドのボブに一本の三つ編みが特徴的だ。結び目には青のリボンで結ばれている。青紫の瞳と相まって可憐さも醸し出す。テレサは青みがかった銀髪だけど、こっちは金色が混じったような銀髪だ。たしかに美しいけど、けど!


「私はもちろんエルスティア流よ、あなたもなかなかやるようだけど筆頭直伝の私には及ばないわね。」

「王女様と、相見えられること、う、嬉しく存じます...」


 機嫌を損ねられたくもないのですごく下手にあいさつする。

 おずおずといった感じで構える。王女様の剣はレイピアほどではないが細くスピードを重視しているもの。

 観衆も静かになり、静寂が辺りを支配した。幾ばくか周りの気温が冷えた気がした。色んな意味で冷や汗が止まらない。

 ようやっと試験管から「初め!」の合図がかかる。


「いくわよっ!」


 踏み込んだ瞬間電光石火もかくやという勢いの連撃が多方向から襲い掛かる。その様子はまるで流星のように美しく、見ている者を魅了する。計算され尽くした剣技と言えた。差し込まれないように、迎え撃っていく。そうして、剣戟を受け止めながら思考する。一撃一撃は軽いのでフルパワーで薙ぎ払えばそのまま剣を落とせそう、だが、


 俺は空気を読む男だ。王族の威厳、信用を考えて王女を立てなければいけない。権力に屈するというわけではない。王女様の身を案じての決断であって、断じて王女様に勝って目立ちたくないという思いはないのである。「また俺なんかやっちゃいました?」はないのだ。期待してた人、残念だったな、さようなら。


「守ってばかりいると勝てるものも勝てないわよ!」


 俺が攻めてこないことに疑問を持ったのか、安い挑発をかけてくる王女様。ここは乗っておこう。怒った風に見せて、次の剣閃を払って距離をとる。


「わかってますっ!」


 一時の休息も許してくれず、離れた距離を一瞬で詰めてくる。目を惹くような流麗な三連撃。初撃、次撃を受け止めるも、三撃目の対応が1歩遅れ隙を晒してしまう。ここだ。


隙。


「うぉっ!?」

「!」


 その隙を見逃さずトドメとばかりに追撃をする。何とか受けようとしたら、王女様の鮮やかな一撃によって剣が巻き取られてしまった。カランと剣が落ちる音が聞こえる。剣が突きつけられる。


「美しくも強い一撃、お見逸れしました」

「...」


 なかなかの出来ではなかろうか、王女様自身は若干怪しいが、はたから見るには変な所はなかった。だから観衆は王女様を褒め称えているし、俺もよく頑張ったと労ってくれる。


 王女様なんて関わったってろくな事にならない。ここはさっさと撤退するのが賢明だ。王女様の顔を見ずに後ろを振り返り試験場から離れていく。例え、後ろからとてつもなく視線が刺さっていたとしても、だ。俺はそれに気付かないふりをした。


 今日は入学試験が終わったら学校も終わる、明日出るクラス分けの結果を待つのみだ。


 まだ昼に差し掛かったばかりで時間を持て余している。帰宅してもすることも無いし、こっちに来ても稽古できるいい場所はないか学園内を散策することにした。





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