第3話
外へとつながる、家の門まで来ると、父と副団長とおぼしきほかの騎士とは少し意匠が違う騎士が予定の再確認をしていた。
門の外には騎士たちや馬が集まっている。これがレーベアス辺境伯家の騎士団のようだ。馬かどうかは分からないが、姿形が馬と似ているため今はそう呼称する。全て終わったのか父が話しかけてくる。
「よしリオン、では行くぞ」
「はい」
父の大きな馬の前へ座り、俺を乗せた父を中心に適度に広がり広大な森の深くへと進んでいく。いつもの修行場所とは違い道も荒く、草木も好き勝手に生えていた。
馬に乗ったのは初めてだがあまりいいものではないな。前世車に乗っていたのもあると思うが、座り心地は硬く、馬が踏み込む度に揺れるのでその衝撃で落っこちてしまわないように、しがみつくので精一杯だった。
しばらく進んだころ、人里が近くにある森へときた。騎士たちが馬を降り、停めはじめる。
馬の座るところの高さは150cmもある、それに比べ俺は、130cm弱しかない。乗る時こそ持ち上げられてもらったものの、降りる時は自力ですることが出来た。ひょいと飛び降りる。
騎士たちが俺を中心に円形に広がっていく。
「っと」
「リオン、輪の中に入っていろ。決して輪の外にでるでないぞ」
神妙に頷いた俺を確認して、父は輪の外へ向かい、騎士たちを先導していく。
「リオン様、俺たちの傍から離れないでくださいね」
「そうしないと我々がリカルド様にも、ましてやウィレーヌ様にも怒られてしまいますので」
「わかっている、こちらこそ護衛感謝する」
表向き、外行きの口調で返す。俺の両端に無骨な鎧を被った若い青年とベテラン風の騎士が2人。どうやら俺の護衛に専念して戦闘には何か特別なことがない限り参加しないらしい。こちらの戦力は十分にあるということだ。
陣形を組みながらまた奥へ奥へと進んで行くと、気持ち悪い空気に襲われた。いや違うこれは空気じゃない。
これは魔力だ。匂いなどがあるわけでもなく、頭に直接に不快な気持ちが入り込んでくるような。
そこに父の怒号が鳴り響く。
「前方に魔物を確認!目標のハイウルフだ!総員、定位置につけ!」
「「「はっ!!」」」
今回の討伐目標、ハイウルフ。この森一帯にいたハイウルフの天敵がいなくなったせいで過剰に繁殖して、人里近くのここまでやってきたようだ。
先程の陣形をより密集させこちらも固まってハイウルフどもを迎え撃つ。
ハイウルフは群れで戦う魔物だ。一頭のリーダーを中心に縦横無尽、四方八方から襲ってきて獲物を狩る。
であるからしてこちらが固まって迎え撃つのも当然と言えた。
さすが魔物と言うべきか、騎士たちが剣で迎え撃っても「ガキン!」とそのもふもふの見た目では考えられないような硬さを誇るようだ。
「ウォォ!フン!」
父が襲いかかってきた一頭のハイウルフを剣で剛力に打ち下ろして地面に叩き落として倒した。他にもまだまだ群がってくるハイウルフたちには一閃横薙ぎをして1度距離を取り、息を着く。
今まで父の戦闘など見たことなどなかったが中々に勇ましくかっこいいものだった。言うなれば鉄壁。守りに重点を起き、相手の体力を削り摩耗させ、その隙を見逃さず必ず仕留める。そんな剣だった。
これは父に限ったことではなく、この騎士団全員に共通することだった。この剣術こそが、我が家に代々伝わるレーベアス流だ。もちろん俺の、レーベアス家の祖先から始まった剣術だとされるからだ。昔はよく王国の盾として一役買っていたらしい。
しかし、先程の父のような剛力で倒すのは例外で、他の騎士たちは間接や目といった比較的刃が入りやすいところに剣を差し込み相手を弱らせてからもう一度たたっ斬ると言ったのが主だった。
そりゃそうだろう。誰もが父のような大きな体躯に恵まれてるわけでも、剛力を併せ持つ訳では無い。
そうして父、他の騎士たちの戦いに目を剥くようにして見ていた。夢中で、最初の方は気にしていた血生臭い匂いも今はどうでも良くなっていた。すると、あらかた討伐したのか騎士たちの動きがなくなってきた。当たりを確認して他に残りが居ないか確認しているようだ。
「ふぅ、今回は意外と早く終わりましたね」
「きっとリカルド様もリオン様にいい所を見せたかったのだろう。」
「もう、終わったのか?」
「ええ、そうですね今日はあとハイウルフから牙や爪、毛皮などの素材を取るだけで終わりそうです。武器や装飾品など色々使えて便利ですからね」
青年の騎士が俺に説明してくれるように言う。戦闘も終わった事だしと、ここでひとつの頼み事。
「良ければでいいのだが騎士殿の剣を少し触らせてくれないだろうか?」
「剣ですか?勿論いいですよ、もう魔物も近くには確認近くには確認できませんし。今日これから使うことなんてないでしょうしね。」
「感謝する」
「重いと思うので気をつけてくださいね」
青年の騎士が腰に携えた剣と鞘を俺の眼前に差し出してくる。両手で受け取るとズシンとしっかりとした重量感がある。もし、毎日の稽古をやっていなかったら持つこともできないだろう。剣身を鞘から少し引き抜き刃先を見る。俺の護衛で一切戦闘していないから血なんかの汚れもない銀色の剣。この世界で初めて間近に見る剣に興奮していた。
だからか、俺も俺の方へ猪突猛進で向かってくる一頭の影に気づかなかった。
騎士団も一段落ついて警戒を怠ってしまったのか、潜伏していた一頭のハイウルフが俺を囲む包囲網の中に侵入された。
「リオン!」
父の呼ぶ声が聞こえる。
ハイウルフは真っ直ぐ俺に向かってくる。1人だけ武装をしていないからか、小さいからか、それとも一矢報いてやろうと思ったのか。はたまたその全部か。
人間じゃないから俺には分からない。けれど俺もただでやられる訳では無い。
やるならやってやろうじゃないか。
もう既に抜いた状態から斬り下ろすのでは間に合わない。とするならば、ここはひとつしかない。
拝借した剣を腰に携える。左手で鞘を握り、右手で柄を握りしめる。やはり居合には適していないな。両刃、いわゆるソードは。何より重いし、引き抜きずらい。
ハイウルフがジャンプして飛び込んでくる。その鋭利な爪剥き出しにして襲いかかってくる。
それに合わせ前方の右足に力を込め、左手で鞘を後方へ引き、右手で柄を一瞬で引き抜く。その時の勢いを殺してしまわないように両手で微調整をし、最短で剣身を露出、抜刀する。下段からその鋭利な爪へと打上げる!
居合、
ー即、抜、ざっ
ガキィィン!!!
硬っ!てか重い!
当たったと同時に弾き飛ばされた。衝撃の反動で右腕が痺れる程の痛みが走る。しかし間髪入れず、弾かれた勢いを殺さずに回転、剣を両手で掴み、その遠心力を利用して次は上から思い切り振り下ろ...
...そうとしたところで、大きな一撃がハイウルフに襲いかかり倒れてしまった。父の攻撃だ。
俺の渾身の両手振り下ろしは宙を待ってしまう結果となった。地面を斬ってサクリと心地の良い音がする。ハイウルフは動く気配もなく、絶命したようだ。
「リオン、大丈夫か!?怪我はないか!?」
「はい、無事です。怪我もありません。」
駆け寄ってくる父に大丈夫だと笑って返すと、安堵したように息を吐いた。
「良かった、肝が冷えたぞ私は。それよりお前、今の剣は...」
「あ、あの、護衛の騎士殿に頼んで拝借したのです。もう安全だろうからって、私が言ったことですから、彼は悪くないのでどうか責めないでやってください。
そのあとは頭が真っ白になって、必死に抵抗しようと無我夢中で何が何だか...。」
「...そうか、お前が無事で何よりだ」
青年の騎士を庇うようにして俺は、言った。父は何か言いたげだったが、それ以上は何も言ってこなかった。
家に帰ると、事情を聞いた母が、父をこっぴどく叱り、俺は泣いて抱きしめられた。まあ、父はいつも母に頭が上がらない。今日も家族は平和だった。
居合っていいですよね...
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