第2話
連続投稿です。
あれから4年がたった今でも、今日も今日とていつもの森の大きな木のところへ来る。
最初のほうこそ豆だったりができたりつぶれたりしたが、打ち続けていれば体もなれるのか、できなくなった。つぶれた豆も若さという再生力で気が付いた時にはきれいさっぱり消えていた。
かれこれ4年も打ち続けているのに眼前の大木は木の表皮がはがれているだけだ。果たして、俺の力が弱いのか、はたまたこの木の耐久力が異常なのか。
1年前からは木の棒を腰に携えた状態から下段から打ち上げるという居合の練習もし始めた。右手から強く握り、勢いよく、素早く打ち上げる、そして腰に戻す。その動作を繰り返し行った。
ずっとやっていた打ち下ろしは、一撃一撃を大事にし力を上げるものだとすれば、この居合はより速度を上げるためだ。
「ハァアッ!ッ!フッ!」
黙々とやり続け、着実に、そして確かに俺の腕は上がっていった。
更に年々違和感も出てきた。何か奇妙な気配というかオーラというか波動を感じるのだ。実体こそないものの、確かに実感ができる得体のしれないもの。
両親に聞いてみると、それこそが両親がいつも使っている魔法の根源たる魔力というのだ。まだ10歳にも満たない年齢で魔力を実感できるものは少ないのだという。一般的には12,13歳くらいにやっと魔力を感知できるらしい。魔法という俺の新しい才能に両親は泣いて喜び、新たに魔法を教える家庭教師まで雇った。
そして、そこで初めて魔法というものを改めて知って、魔法の狡さというかすごさを知った。魔法で回復できたり、遠距離の攻撃や炎や水または雷などの超常現象はもちろんのこと、極めれば魔力の流れなどで回りのことがわかるのだという。それは魔力というものは生きているものすべてに宿っているからに他ならない、草木も動物も魔物もそして人間もすべてが持っているらしい。その魔力量の違いでわかるということらしい。まあ、それにはかなりの才能や努力も必要だが。
そんなこんなで魔法について力説したものの俺にはあんまり意味はなかった。ただ少し魔力を感じ取れただけで魔法を駆使する才能は持ち合わせていなかった。俺には数ある属性の中で雷が扱うことが出来ると家庭教師が言っていたが、満を持して出てきたのはただの静電気。そう、あれだ。寒い乾燥した冬にドアの取っ手などに触れるとバチっと来る程度のやつ。嫌がらせにしかならない。
何度も試せど試せどそれしか発動しない。
つまるところ俺に魔法の才はなかったようだ。というわけで家庭教師の魔法使いはやめてしまった。親は慰めてくれたけど、別に悲しくはなかった。もっと大きな魔法を使ってみたかったという気持ちがないわけではないが。まあ、できないことはしょうがない。
そんなこんなで俺は10歳の誕生日を迎えた。朝食の席ではお祝いの言葉をもらった。
「おめでとうございます。お兄様。」
「ありがと、アイ」
俺の一つ下の妹アイリアだ。愛称からアイと呼んでいる。俺と同じターコイズのような青い瞳と亜麻色の髪をセミロングにして耳あたりにある淡い青の花飾りが気品を感じさせるとともに、愛くるしさもある。将来大人になったら美人になるというより、ずっと可愛らしいままだろうなと思う。本当、自慢の妹だ。
「お前にもそろそろ我々辺境伯家の役目である魔獣退治も知ってもらわないとな。
「承知しております、父上」
これは、去年の俺の誕生日を迎えてから父、リカルドに常々言われてきたことだ。
そう俺の家系は辺境と名のつくことから王国からも離れていて町もどちらかというと田舎寄りだ。何しろそれは王国に入る害獣や魔物などを未然に防ぐために狩っているのがこの辺境伯家ということだ。もちろんそれだけが仕事ではないが。隣国との関わり、輸出入や国境としての役目もある。田舎だが、辺境伯はなかなか大変なのだ。
その家の長男なのだ、俺は。面倒くさいことはやりたくないな。あ、そうだ4年前に生まれた5つ下の弟レイルが跡継ぎになれば万事解決じゃないか。そして、俺は自由に生きる。すまん、今は何も知らないだろうけど、俺は応援してるぞ。
おいしそうに朝食を食べるレイルと目が合った。俺は優しくほほえんだ。あとは頼んだぞ。
というわけで、今日は父とその部隊の騎士たちと一緒に魔獣退治に行く。といっても、見学、見るだけだ。そりゃもちろん、貴族の長男坊、ましてや10歳になったばかりの子供にこんなことさせるわけはないのだ。これはいわゆる社会科見学。父たちの雄姿を見せてもらうためだ。普段どのようなことをして、どのように戦っているのか。それはもちろん俺も知りたい。
この世に転生してからこの方、ずっと家にいたからだ。いつも言っていた森も管理が行き届いていて公園のようなものだし。魔物なんか人っ子一人いない。
外の世界を見たことがないからこそ、この機会はありがたくもあった。初めて、人以外のもの、人外の力、魔法を見ることができる。好奇心が抑えきれなかった。父たちも同行することから、俺の安全も確保されている。怖いことは何もない。
「万が一はないとおもうけど気を付けてね。リオンちゃん。」
「わかりました。母上。」
「小さい頃の時のように、ママって呼んでくれていいのよ。リオンちゃんぐらいの年頃はまだかわいげがあっていいんだから。」
ははは、と苦笑気味に返す。男だというのにちゃん付けする母。名はウィレーヌ。アイリやレイルもそうだが、俺のこともめちゃくちゃ可愛がってくれる。過保護と思えるかもしれないが、子供思いの優しい母だ。
朝食を食べ終え、準備をし、遂に、魔獣退治に行く時が来た。