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ある日の急遠足  作者: 本当誠
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その日僕たちは本当に遠足に行ったんだ

その日僕たちは本当に遠足に行ったんだ。

 それはある晴れた日の朝だった。1時間目の国語の時間だったと思う。朝日先生が急に遠足に行こうと言い出したのだ。クラスのみんなは当然きょとんとした顔になった。

「先生、何急に変なこと言ってんの?そんなの無理に決まってるじゃん。みんな何の準備もしていないんだし。それに学校に許可も取っていないんでしょ。」しっかり者の勇太が言った。みんなそうだそうだとはやし立てている。

先生はこほんと一つ咳払いをしてから、

「どうしてそんなに簡単に決めつけるんだい?」といった。

「許可はもうとってあるよ。それに準備なんて何がいるんだい?おやつかい?飲み物かい?お弁当かい?心の準備かい?そんなものは必要ないよ。なんていったって、人間は飲まず食わずでも3日間、水さえあれば1か月生きられるって話だからね。」先生は得意そうな顔で言った。

「先生、遠足に行くって言ったってどこに行くの?」真面目な大野くんが言った。

「恐れ山さ。」静かに言った。

「えーーー!!」クラスのみんなが一斉に叫ぶ。

「お父さんとお母さんが化け物が出るから、絶対にあそこには近づいちゃダメだって言ってたよ。」泣きそうになりながらチカちゃんが恐る恐る言った。

そうだそうだとみんなが騒ぐ。

「おだまりなさい。」先生が静かに言った。

「先生はね、皆の心の中にあるその恐怖心を取り除いてあげたいんだよ。その恐怖心は今は小さな澱だけれども、それがいずれ成長して君たちに害を与えないとも限らないからね。小さな芽のうちに摘んでおいた方がいいと思ったんだ。」真剣な眼差しで先生が言った。

みんなキョトンとした顔で聞いていたが、やがて先生がそういうんならそうなんだろうと納得したようだった。



 時刻は午前10時を回ったところだった。

「さあ、出発するよ。」と先生が言った。

もうそのころの僕はいつのまにか不安な気持ちからどこかワクワクした気持ちに切り替わっていて、紗耶香ちゃんとか光男君とか他のみんなもそのように感じられた。


 バスは僕たち41人の生徒が乗るには幾分狭いようにも感じられたが、実際に乗ってみると広すぎもせず狭すぎもせず、先生と合わせて42人補助席も使用せずにぴったりと人数分おさまった。先生の隣の席には誰が座るのかとちょっとした議論も巻き起こったが、僕が紗耶香ちゃんと健太郎くんと協議した結果、僕が乗せてもらえることになった。それは以前行われた運動会や、クラス会で他の生徒だが、磯山さんや次郎くんに役を譲ったことに対しての正当なる報酬だったのだと思う。

 

 そうして42人全員が乗り込むとバス出発した。運転手さんは善良そうな眼鏡をかけた太ったおじさんだった。僕たちが乗り込むとひとりひとりに対してこんにちはと笑顔であいさつしてくれた。


 先生は僕に窓際の席をゆずってくれたから僕はありがとうと言った。

「先生、恐山までにはどれくらいで着くの?」

「そうだね、順調に行けば1時間位で着くよ。」

「そうなんだー。楽しみだなー。」

「あのな、勇人。今から行くところには、実際化け物が出るんだ。楽しむのも大事だけど羽目を外し過ぎるなよ。」

「え?化け物出るの?恐れる必要なんてないって先生言ってたじゃん。」僕は驚いて聞いた。

「そうだ、勇人。実際化け物は出るんだ。でも、その化け物自体を恐れることはないって先生は言いたいんだ。逆にいうと勇人はその化け物をみたことがあるのかい?」

「ううん。ないよ。」

「見たこともないのに何故恐れるんだい?」

「え、わからないよ。」

「見たことがないから恐いんだよ。だから、実際にその目でみて触れてその存在を確かめる必要があるんだ。そうでないと一生怯えて生きて行かなきゃなろなくなる。」先生は、どこか遠くを見ていた。

「そっか、わかったよ先生。でもみんなにもそのことを伝えなくていいの?」

「そうだな、先生うっかりしてたよ。」そういうと、先生は立ち上がってみんなの方を振り向いた。

「みんなー、聞いてくれ。」そういうと、さっきまで騒いでいたみんなはどうしたんだろうという顔をして静かになった。

「今から行く恐れ山には化け物が出るからな。」

「えーーーっ!!」先生が言うなりみんなは絶叫した。中には泣き出す子もいた。

「先生、恐れる必要なんてないっていったじゃん。」たけしが責めるように言った。

「そうだよ。確かに言ったよ。でもそれは、怪物を恐れる必要はないと言ったんだ。」

みんな、うそつきー!だとか、ひとでなしー!だとか、けだものー!だとかひとしきり騒いでいたが、そのうち疲れて眠ってしまったようだ。



 「みんなー、起きろー。」優しい声で先生が呼びかける。

「えー、もう着いたのー。」まだ寝たいのと、化け物が怖くて行きたくないのとでみんな渋っているようだ。

「そうだよー。おりたおりたー。」先生に促されてみんな渋々降りていく。

 降りてみると、そこは緑色の絨毯を敷いたようなきれいな草原だった。

「え、先生、山に来たんじゃないの?」夢子ちゃんが聞いた。

「そうだよ、ここは恐れ山だよ。バスで7分目まで登ってこれたからね。ここは、恐れ山の7分目にある緑の息吹高原というところだよ。」

「へー、そうなんだー。でも、本当綺麗なところだよねー。わたし、最初天国にきちゃったのかと思ったー。」

「バスが事故ってかい?」

[違うよ。何言ってるの、先生。」笑いながら夢子ちゃんは言った。

「みんなおりたかー。」と先生が聞き

「はーい!」とみんな元気よく返事をしたが、降りていない生徒は返事ができないだろうと僕は心の中で突っ込んだ。

「じゃあみんな2列になってなー。」

「はーい!」

僕は近くにいた流れで夢子ちゃんと一緒になって歩くことになった。

「よろしくね。」と夢子ちゃんは微笑んだので、僕はうん、と俯き加減で返事をした。僕は密かに夢子ちゃんに想いをよせているのだった。



 しばらく列を組んで歩いていると段々と木々が生い茂り、森のようになっていった。カラスやフクロウがカーカーとかホウホウだとか鳴いている。夢子ちゃんは怖いと言っていたが、僕は大丈夫だよと励ます。それでも夢子ちゃんは怖がっているようすだったので、僕は夢子ちゃんの手を引いて歩くことにした。夢子ちゃんは恥ずかしいよと言っていたが、実際には僕の方が何百倍も恥ずかしくて顔から火が出ているのではないかと思った。耳や顔が真っ赤になっているのを夢子ちゃんに悟られなければいいのだが。


 そのうちにあたりの木々はいっそう生い茂り、まわりは暗くなってきた。まだお昼のはずなのに木々が生い茂り過ぎて日が中まで入ってこないのだ。

「先生、真っ暗だねー。」と夢子ちゃんが言った。

「そうだね、真っ暗だねー。」と先生も言った。

いつの間にか、鳥たちの鳴き声はギャーギャーだとか、シャーシャーだとか、人の悲鳴にも似た物騒なものに変わっていた。



 小一時間ほど歩いたころでしょうか。みんな疲れたよーだとか、もう歩きたくないよーだとか言っていたのだが、前方に紳士のような人影が見えたのでした。その紳士はシルクハットをかぶり、タキシードを着て笑っているようにみえました。

「ようこそ。」とその紳士は言いましたが、それっきり何も喋りませんでした。あたりはいつの間にか沈黙に包まれていました。

「彼が化け物と呼ばれている人だよ。」と先生が言いました。

「えー!」とみんなが叫びました。僕も心の中で叫びました。何故なら僕たちが思っていた化け物のイメージからはあまりにもかけ離れていたからです。それは、とても優しい目をしたおじさんにしか見えなかったのです。でもたった一つだけ違和感がありました。それはどれだけ近づいてもおじさんは一向に影のまんまだったのです。それでも、目だけは優しく光って見えました。



 しばらくしてからまたおじさんは「ようこそ。」と言いましたが、また黙ってしまったので僕はたまらず、「ここはどこなんですか?」と聞いてしまいました。おじさんはしばらく考え込んでから、困ったように残念ながらわからないんだと言いました。僕は何故自分でもわからないのにおじさんは、ようこそと言ったんだろうと不思議に思いました。普通ようこそとは自分の所属している場所に対して相手に向かって使う言葉のはずだから。


 僕は思い切っておじさんに何故自分のいる場所がわからないんですか?と聞いてみました。するとおじさんの瞳が悲しそうに光りました。僕は聞いてはいけないことを聞いてしまった気がしました。


 しばらく経ってから「おじさんには記憶がないんだよ。」とおじさんが何も言わないので先生が言いました。僕たち一同は驚いて一斉におじさんの顔を見ましたが、おじさんは困ったように笑っているようにみえました。やはり僕は聞いてはいけないことを聞いてしまっていたようです。僕はたまらず、ごめんねとおじさんに言ってました。

「何も君が謝ることはないんだよ。」とおじさんは言いました。

「おじさんは、このことに関してなんら悲観的な見方をしていないし、むしろ楽しんでいる位なんだ。何故なら、見ることや聞くこと、体験することが、おじさんになった今でもとても新鮮に感じられるからね。それはとても嬉しいことなんだよ。」僕にはおじさんのその言葉が強がりを言っているようにしか聞こえませんでした。実際おじさんの表情はどこか寂し気で額には玉のような脂汗のようなものが浮かんでいました。

「おじさんは嘘をついているね。」と僕はたまらずに言いました。おじさんは驚いたように目を見開いて僕を見ました。

ふー、と深い息を吐いてからおじさんは言いました。

「やはり君にはばれていたか。君にはどこか会った時から心の中を見透かされている気がしていたんだ。その通り。私は心のどこかで今の自分が本当の自分ではない偽物の自分でいるような気がして、空しい気持ちを消せないでいたんだ。それにバラバラになってしまった私たちの欠片もまた、私とひとつに戻ることを望んでいる気がするんだ。」

「バラバラになってしまった私たちの欠片?」僕はおじさんの言っている意味が分かりませんでした。

「そう、私はある日夢を見たんだ。自分がバラバラになって、勿論肉体的な意味ではなくて、精神的な意味でね、私たちの欠片が世界中に飛んで行ってしまったんだ。それは今の私と同じように黒い影のようだったね。正確には分からないけど100人位はいた気がするな。」

「100人?」僕はその数の多さにビックリしてしまいました。そして、おじさんのことをなんだか哀れに思えてきて、助けたくなってきました。

「おじさん、その100人のおじさんを、探しに行こうよ。」僕は、思わず言っていました。

おじさんは驚いたような顔をしていましたが、やがてあきらめたように言いました。

「ありがとう、君は優しいんだね。でも探すといったってどこを探すのだろう。私には全く手掛かりがないんだよ。」

「本当に手掛かりはないの?」と、ふいに夢子ちゃんが言った。

「もしかしたら、思い出の場所にいったのかもしれないよ。」

「思い出の場所?」訝し気におじさんは言った。

「思い出の場所は記憶がないから、わからないんだ。」とおじさんは悲しそうに言った。

「おじさん。」と思いつめたように夢子ちゃんは言う。

「おじさんには本当に記憶がないのかな?」訝し気におじさんは夢子ちゃんを見つめる。

「きっとおじさんの影さん達はおじさんと今も繋がっていて、どこかでおじさんのことを待っていると思うよ。」そういうと夢子ちゃんはごめんなさいと呟いて、照れたように下を向いて俯いてしまった。

 夢子ちゃんにはどこか昔から不思議なところがあった。ある時は僕が食べた朝ごはんを、その時は納豆ご飯となすの味噌汁だったのが、完璧に当てたりして僕がびっくりしているのをうふふと嬉しそうに微笑んでいたり、ある時は天気予報では晴れだと言っていたのに雨が降りそうだねーといった2時間後位に本当に雨が降ったりするのだった。

 おじさんはしばらく考え込んでいたが、やがて

「実は最近夢でやたらと私を呼ぶ声がするんだ。その声は八丈島と言っていた。私の気のせいだと思っていたが、もしかしたら、そこへ行けば何かわかるかもしれない。」と呟いた。

「きっとそうだよ、おじさん!」と僕は思わず言っていた。

「そうだよ、おじさん八丈島へ行こうよ!」と夢子ちゃんも続いた。

だが、おじさんは黙ったままで悩んでいる様子だった。

「でも、君たちに迷惑をかけるのは申し訳ないよ。」とやがておじさんは口を開いた。

「迷惑だなんて私たちは全然思ってないよ。むしろおじさんのお手伝いができると思うと嬉しくてしょうがないんだ。」と夢子ちゃんは嬉しそうに言った。

「俺は反対だな。めんどくせーし、」と横から健太がふいに言った。

「私も反対。なんであたしたちがそんなことをしなくちゃいけないの?」とめぐみも言った。そのようなことを次々というものが出てきた。

「わかった、行きたい人だけで行くことにしよう。行きたい人は手を挙げて。」と先生がいったが、結局手を挙げた人は僕と夢子ちゃんだけだった。

「そうか、じゃあ今日今からって訳には流石に行かないから、今週の土曜日に出発ということでいいかな。」と先生は言い、僕と夢子ちゃんは黙って頷いた。

 その後もみんなざわざわとざわついていたが、なんやかんやでみんなおじさんに挨拶をし手を振って帰ることとなった。


 家に帰ると母親がおかえりといってくれたので、僕はただいまといって2階の自分の部屋へあがっていった。僕は疲れたー、といってベッドに仰向けに倒れこむと今日一日のことを思い返していた。おじさんのこと、八丈島のこと、夢子ちゃんのことを。おじさんとは一体何者なのか。八丈島とはどういった場所なのか。なんで僕は夢子ちゃんのことが好きなんだろうか。勿論、顔は僕好みの少し垂れ目でふっくらとしている穏やかな顔つきも好きだし、いつも少し微笑んでいて日だまりのような温かい雰囲気も好きだし、少し天然でおっとりしていて穏やかなところも好きだし。考えてみると好きなところが無限に溢れてくるようで、好きな理由がわかり腑に落ちるのだった。そして、母に呼ばれて晩御飯を食べ、お風呂に入り、父と妹と3人でテレビのバラエティー番組を見て大笑いをしてから、眠りについた。


 その日の夜、不思議な夢をみた。それは夜の砂漠のようで風がビュービューと吹いていて、とても寒かった。僕はその砂漠の真ん中で背中を丸めてしゃがみ込み、膝を抱えてブルブルと震えていた。その時、僕に近づいてくる影があった。それはおじさんだった。おじさんは僕に近づくと何も言わずにニタニタと笑っていた。僕はなんだか無性に腹が立ってきておじさんに殴り掛かりたかったが、体が重くて動けずにただ震えることしかできなかった。それが悔しくて仕方がなかった。そこで僕は目が覚めたが悔しさだけが妙にリアルに残っていた。鳥がピヨピヨと鳴いていた。学校に行くと夢子ちゃんが隣の席で笑っておはようといってくれたので、僕も笑っておはようといった。昨日の夢の話をしたら夢子ちゃんは何故か驚いたような顔をして考え込んでいるようだったけど、授業のチャイムがなったのでその理由は聞けずにうやむやになってしまった。



 そして土曜日の朝がやってきた。とても空気が澄んでいて晴れた朝だった。お母さんに八丈島に行くということを前もって言っておいたけど、やっぱりその日の朝は心配そうにしていたから、大丈夫だよとだけ言って家を出た。家を出るとそこには夢子ちゃんがいたからおはようといったら、笑っておはようといってくれた。二人で並んで先生と待ち合わせの学校まで歩いて行った。その途中で寒いねとか、今日は楽しみだねとか言っていたけど後はずっと黙って歩いていた。5分ほど歩いたら学校の正門の前に青いスポーツカーが止まっているのがみえて、中から先生が出てきて、笑顔でおはようといったので僕たちもおはようと返した。

「おじさんは、八丈島で先に行って待ってるよ。」と先生は言った。そして、促されるままに僕と夢子ちゃんは後ろの席に乗り込んだ。先生は隣の席に誰もいなくて寂しいと冗談まじりに言っていたから、大人げないなーと笑って返しておいた。


 しばらく走っていると突然天井がウィーンという音をたてて開き、青空が見えた。僕と夢子ちゃんがワーすごーいというと先生は得意気な顔になったので、僕は更に大げさにはしゃぐことにした。でも実際青空の下でドライブするというのはとても気持ちのいいものだった。少し寒かったけど。


 30分ほど車で走ると羽田空港についてそれから登場手続きをして飛行機に乗り込み45分ほどで八丈島に着いた。初めての飛行機で何もわからなくて不安だったけど手続きは全部先生がやってくれたので良かった。八丈島に着くと何故かとても暑いように感じられて上着を脱ぐことにした。なんかよくわからない鳥が、カーとかギャーとか不気味に鳴いていた。


「ついたよ。」と先生が言った。

島という位だからもっと原子的な雰囲気を想像していたけれど、普通に車も走っているしコンビニもあるし都会的ですこしがっかりした。そして、夢子ちゃんもがっかりした風だった。

「流石に令和だからね。」先生が僕たちの心を読んだかのように呟いた。

「やあ!」少し離れたところからおじさんの声がした。おじさんは黒のタキシードを着ていた。もっとも、いつものように黒いシルエットであることに変わりはないのだが。

「おじさん、おはよう。」と僕たちは、口々に言った。

「今日は少し寒いね。」とおじさんは言った。

確かに秋に入ったばかりだというのにその日は真冬のような寒さだった。

「着いたはいいけどこれからどうしようか。」と先生は困ったような笑みを浮かべながら言った。僕たちは本当に何も考えずに来てしまったようだった。

「ちょっとよろしいですか。私に考えがあります。」とおじさんが遠慮がちに言った。

「私の夢の中では、とても高い塔のようなものが立っていて、そこの中から私を呼ぶ声がしました。それは今日のようにとても寒くて吹雪いている朝だった。それはまるで今日のような朝だったのです。」おじさんはどことなく自信なさげに言っていた。

「それならどこかその高い塔というのに行ってみようよ。」

「そうだね、じゃあ地元の人なら知っているかもしれないからちょっと聞き込みをしてみよう。」

そして、僕たちは近くにいたどことなく品がよさそうでふくよかな若い女に聞いてみることにした。

「すみません、少しお尋ねしたいことがあるのですが宜しいですか。」

おばさんは少し驚いたような表情をしていたけど、笑顔で何でしょういいですよと応対してくれた。

「この島のどこかに高い塔はありませんか?」と僕らは単刀直入に聞いた。

「そうねえ、高い塔というのはいくつかあるけど。」

「え、いくつぐらいあるんですか?」

「東西南北に一つずつあるわ。」

「そうなんですね!ありがとうございました。」僕たちは女に別れを言って立ち去ることにした、、、はずだった。

「待ちな!」ふいに僕たちを呼び止める声がしたと思ったらおばさんが目の前に立ちふさがっていた。

「まだ謝礼を受け取ってないよ。」女は驚くべきことを言った。

「謝礼って。」僕たちは唖然とした。

「人にものを尋ねたら謝礼を払うのが当然だろ。」

「そんなこと初めて聞きましたけど。」

「つべこべ言わずにさっさと謝礼を払うんだよ!」女はいきり立った。

「わかりましたよ。」僕はめんどくさくなったので、リュックの中からおやつとして持ってきていたプリンをとりだし、女に差し出した。

「あんたあたしをなめてんのかい?金をよこしなっていってんだよ!」

「金って。いくらお払いしたらいいんですか?」先生は戸惑うようにして尋ねた。

「そうだなー。」と言って女片手を広げた。

「500円ですか。」

「馬鹿言ってんじゃないよ。ガキの使いじゃないんだから。5万だよ5万。」

僕たちは更に唖然とした。

「5万って。ちょっと聞いただけなのにありえないでしょ。はっきり言ってあなたのやっていることはれっきとした脅迫という犯罪行為ですからね。」

「わかった。払わないってんだったら地獄の底までついていくからね。」

「勝手にしろ。」

ということでなぜか女は僕たちの後についてくることとなった。


「そうだなー、東西南北に塔があるならまずはどこに行こうか。」

「吹雪いていたっていうなら北がいいんじゃないかな。」

「そうだね、じゃあ北に行ってみようか。おい、女、北の塔にはどう行けばいいんだ。」先生は女に対してはいつの間にか乱暴な口調になっていた。

「5万。」女は無表情で答えた。どうしても5万円が欲しいらしい。

「どうしてそんなに5万円が欲しいの?」僕は思わず聞いていた。

「母が病気でどうしてもお薬代で必要なの。」そういうと女はおいおいと泣き始めた。

「そうなのか、それならそうと初めから言ってくれればいいのに。」そういうと先生はカバンの中から財布を取り出した。

「待って先生。」そういうと夢子ちゃんは先生を制止した。

「先生、この女の顔をよくみて。」そういうと夢子ちゃんは女の方に向かって指をさした。よく見てみると女はうっすらと笑っているように見えた。

「おまえー、騙したなー。」

「てへ、ばれたか。」そういうと女はペロっと舌を出した。先生はすこぶる騙されやすい性格のようだった。

「でも、素直に教えたほうが僕たちの目的も早く達成されて5万円渡すかもしれないよ。恩も着せられるし、へるもんでもないしさ。」と、僕は言った。

「なるほど、それもそうだね。」と女は納得したようだった。

「あたしについてきな。」そういうと女はおもむろに歩きだした。


しばらく歩いているととても高い塔がみえてきた。

「あの塔ですか?」僕はおじさんに聞いてみた。

「わからない。残念ながら、あんまり詳しい姿形は覚えていないんだ。」と、おじさんはとても残念そうに言った。

「そっかー、じゃあとりあえず中に入ってみようか。」と僕たちは言った。

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