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おっさん家!  作者: サン助 箱スキー
閑話 鬼の目に涙
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エピソード2 人の目に涙

普段と作風が違いますが、閑話なので許してください。


 ヤポーネ王国謁見の間、場内の人間全てが慌ただしく動く中で将軍と4人の冒険者が最後に攻める鬼達に対する作戦を打ち合わせて居る。

その場所に書記官の長が近付いて来る。


近付いて来た書記官の長は、冒険者達を真っ直ぐに見つめ深く一礼をしてから話しかける。


「ディグニティの御一同よ、それぞれのお名前を聞かせてくれないだろうか?」


唯一言葉を話せる男に訪ねるも。


「俺達は人間の姿を捨てた時に名前も捨てたさ。気にすんな。ディグニティそれだけ覚えといてくれ。」


まるで4人の総意と言わんばかりに、間髪入れず答えた。


「そうか、忘れぬ。必ず国史にディグニティの名を刻もう。新しき国の成り立ちに貢献した英雄として。」


「何言ってんだ、まだなんもしてねえ。そんなもんは終わった後に考えてくれや。それに英雄なんて柄じゃねえ、俺なんて只の冒険者だ。元百姓のな、だから百姓とでも書いててくれ。」


そのやり取りの後ろをジョゼッペと呼ばれた医療の長が、王の治療を終えて玉座の前を通り過ぎようとした時に将軍が呼び止める。


「ジョゼッペよ、王の時間は後どれくらい残っておる?」


とうに50を回っているが、何一つ衰えの無い屈強な体格の将軍を小柄な老人の医療の長が睨み付けながら。


「もって、あと二週……だが。私の命を全てを使ってでも、この戦が終わるまでもたせる。急げよカイゼル。」


「そうか。迅速に、最大限の配慮をしつつ迅速に終わらせるつもりだ。王を頼んだぞ。」


先程の言い争いなど、どこ吹く風。引けぬ事をぶつけ合う故に争う事もあるが、どちらも同じ方向を向いて信頼し合っている者同士。いや、あの場に居たものだけでは無く、国中の、人間の民も含めて全ての人間が同じ方向を向いているのだが。


「お前が私財を全て注ぎ込み手に入れてくれた世界樹の葉……全ては使わぬやもしれん。」


「そうか、それ程か……それ程に残されておらんか。如何程余る?王に使わぬ分は、この四人を最後の日まで維持する事に使ってくれぬか?」


王の為に用意され、王の意識を保つ生命線とも言える世界樹の葉。それを一介の冒険者に使えという。


「無論、そのつもりでこちらに持って来た。お前が必要と言うのなら。その四人が今回の戦の決め手になるのであろう?この国の医療の長として、責任を持ってこの戦の最後の日まで……いや終わらせた後にも薬が続く限り維持する事を約束する。」


そしてジョゼッペと呼ばれる医療の長が冒険者一人一人と握手を交わしつつ、ありったけの魔力を注ぎ込んだ解呪の魔法を唱える。

しかし呪いが強過ぎるのか、ほんのわずか呪が綻んだだけで、ほとんど変わっていないように見える。


「王の事もある、そなた達だけに全てを注ぐ事が出来ぬ。しかし、全力で対応する。よろしく頼むぞ。」


冒険者達に向かい頭を下げた後に、身の内全ての魔力を絞り出し、通常の魔道士なら気絶する所だが、強い意志で耐え、ふらつく足取りで謁見の間を退室して行った。


その後ろ姿を見て、腐った身体の冒険者が将軍に話しかける。


「なあ将軍様よ、俺達もこの国に産まれていれば……こんなにならんで済んだんだろうか?」


その問いに眉間に刻まれた縦のシワをさらに濃くした将軍が。


「何処に産まれても同じよ。だから変えようとしている。だから変わろうとしているのだ。」


そうかと答えて冒険者達は謁見の間から退室して行った。






 戦の始まりから今日で5日。既に鬼の一族を残して、国内に住む人間以外の人種を老若男女全てを捕虜として確保した軍隊に及んだ被害は、死者0負傷者3人何れも軽傷と言う、戦の被害と言っても良いか分からぬ数字が並ぶ。


「この度の作戦の被害は、どれほど出ている?」


将軍が、既に作戦のほとんどを終えて本陣に集まってきた各方面の指揮官に問う。


「北西方面死者負傷者共に0であります。全ての他人種を西側国境近くの収容施設に移送済で、その私財全ても同時に移送済みかつ麦の粒1つ奪うことなく、身体を一片も陵辱する事も無く北西方面作戦完了であります。」


「北方面および北東方面におきましては、抵抗した種族がいましたが、こちらに2人負傷者が出るも既に鎮圧済。北西方面と同じく、他人種に死者0負傷者1名、鎮圧したおりに擦り傷を数ヶ所与えてしまいました。既に、どちら側の負傷者も治癒魔法にて治療済であります。抵抗した数人を拘束しましたが陵辱略奪など一欠片も無く西側国境近くの収容所に移送済みであります。」


「北西から南に掛けて、他人種は3人の灰土精人(はいドワーフ)の老人のみでしたので死者負傷者共に0と言いたい所ですが、炊飯の折に熱い汁を冷まさずに食べた者が口の中を火傷したので負傷者が1人、既に治療済であります。それと灰土精人の老人達が生まれた土地をこの年で離れるくらいなら殺してくれと言ってきましたが人間とのハーフである事を考えると今回の作戦における対象では無いと考えて、現地にて保護しております。流れる血の半分が他人種だからと戦後何かしらの暴力を受ける事の無いように、特に規則を重んじる20人の屈強な若者を護衛として付けております。」


そう答えた3方向の方面隊指揮官の答えは、戦と言って良いのかと問われる戦果なのだが。


「そうか、あの御三方は共に生きる道を選んでくれたか。そのまま護衛は継続せよ。この国が先に進む時に必ず必要な人材だからな。

既に虜囚の収容所より先の行き先はダナウェルに任せてある。交渉で獣王国に奴隷として生きる人間との交換を予定しているので1人の犠牲も出すこと無く、そしてこちらにも1人の命の犠牲も出さずにこの(いくさ)の最後の(たたか)いに挑める事を誇りに思う。」


その場に居る全ての人間が将軍の次の言葉を待つ。


「我々人間は、他の人種とは違う。我々の起こした戦を正当化する事すらせぬ。他人種共に見せつけてやれ。有史以来最も犠牲少なき戦を。有史以来初の、ひとつの人種による国家を作り上げた種族が人間であると。明日を休息にあてて、明後日の未明に全軍を持って最後の戦いに挑む、その戦いで多数の犠牲が出るであろう。明日の愛する者の為、明日の我が子の為、明日の友のため、明日の親の為。そして世界中の人間に希望と言う物を与える為に生命を惜しむな。」


静かに、しかし力強く語り掛ける将軍。そしてその言葉を受けて、この場の全ての将官が何一つ言葉も発することも無く、ただ1度敬礼をしてそれぞれの集団えと帰っていく。世界最強と言われる一角、ニカラの鬼との戦いに備えて。




 この戦の本陣となる天幕の中に残る人間は5人、カイゼルと呼ばれる全軍の将と4人の冒険者。明日の戦の最も大切な事を伝える為に残った5人である。


「明日の戦で貴殿達に頼む事は、4人の鬼を抑えて頂きたい。集団儀式魔法4発分の時間を稼げるか?」


冒険者に問いかける将軍は、先程の力強く語り掛けた時と真逆の弱々しい声で話しかける。


「4人でいいのか?俺達4人なら数十の鬼でも殺せるが?」


その答えを聞いて顔を真っ直ぐに冒険者に向けて、先程より少し強い口調になり。


「あの一族に引導を渡すのは、全てこの私の責任でなくてはならぬ。それにそなた達ですら数人位が関の山であろうよ。」


「そんなにか?それに、なんか因縁でもあるのか?」


「因縁など何も無い。ただ……

45年前に獣人共との戦で村を焼かれ両の親を失い、森の中をさ迷い歩いていたこの俺を家族に迎え入れてくれたのがニカラの今の族長と言うだけだ。そして鬼の中で25年の時を共に過し、共に学び、共に競い合い、家族であり、幼なじみであり、学友であり兄弟であった。」


「そんな関係なら、他の人種のように他国に逃がす事はしねえのか?」


静かに、しかし強く答える将軍に、冒険者が疑問に思った事を問いかける。


「あれをどの国に逃がした所で、居場所などあるまいよ。西の獣王の国に逃がせば先王の仇と追われ。北の聖教国に逃がせば異端者と追われ。また他国に行った所で、変わらぬさ。この国の中だったからこそ生きてこれたのだ。」


「紡ぐ民ニカラ。本当の歴史を知る術を知り、本当の血を見る事の出来る一族か……」


「そうだな、我が国の初代国王が提唱し、そして国の法に記載された言論の自由。そんなものが他国にあるか?」


そういわれ生まれた故郷を思い出す冒険者。


「ねえな。俺の生まれた国は、貴族に少しでも文句を言えば嬲り殺しにされてたぜ。」


「だろうな、それが普通の世の中の権力者と言うものだ。」


1度目をゆっくりと閉じ、もう一度開けた目には1つの弱気も見えなくなった将軍がさらに続ける。


「今回の戦の決め手は、集団儀式魔法にある。中級以上の集団儀式魔法に特化した魔道士2000名、2つに分けて連続で放てるように訓練してある。そして集団儀式魔法50発分の魔力を補充出来る魔石を各人に既に配布済だ。」


「1000人規模の集団儀式魔法50発?そんなか?」


「あの一族を舐めるな、幼子ですら100kgを超える裸石を軽々と持ち上げる膂力の持ち主達ぞ、それを守る皮膚の硬さは人間の纏うどんな鎧にも勝るとも劣らぬ。特に貴殿達4人に頼むことになる現役の若鬼……

この四人に邪魔をされずにいれば、我々の勝ちは揺るがぬのだ。」


「その4人の鬼とは?」


「1人目はアカと呼ばれる者だ、その者の矢は杭の太さ長槍の長さ。そんな物を放って5km先の胡桃を正確撃ち抜いて来る。」


将軍の言葉を聞いた冒険者の中で弓を背に持った両目とも無い者が他の冒険者達に拳を合わせて天幕を後にする。


「あの者は?」

「矢合戦になるんだろう?どうやって杭を撃ち落とすか考えに行ったんじゃねえか?」

「そうか……」


んで他は?と問いかける冒険者に、将軍は次の相手を思い出すように伝える。


「クロと呼ばれるひときわ体格の良い大きな鬼だ。その膂力山も動かすと言われる剛の者。手に持つのは金剛木の丸太で作られた棍棒なのだが、1度振るう度に大地を穿ち、大岩を軽々と砕いていく。」


それを聞いた残り3人の冒険者の中からフルプレートメイルを着けた異常に大きい穂先の槍を持つ冒険者が残り2人に拳を合わせ、先程の者と同じ様に天幕から出ていく。


「そしてハクと呼ばれる巫女姫だ。」

「女か?」

「そうだ、だが女と侮るな。昨年の大祭の折に尻を撫でた獣王に平手打ちを食らわした女ぞ。獅子王と呼ばれた者がその時に拗られた首が原因で死に至っておる。あやつは息をするのと同じように舞いながら魔法を操る。膂力と相まってかなり厄介な鬼だ。」


「女が相手なら、お前だな。」


そう言って背に大槌を背負う仮面を着け帽子を被る者と拳を合わせる。合わせた後に大槌を背負う者も天幕を後にした。


「何故女ならあの者なのだ?」

「あれが女だからだ。鬼達は正面から来るんだろう?そう言う生きもんだもんな。女には女をってわけだ。」


「しかし1人で大丈夫なのか?如何に大槌を振り回す人間離れした膂力であっても、鬼達からすれば普通以下の力しか持たぬはずだぞ?その者の魔法はまるで息をするかの如くなのだが?」


「あれの被ってる帽子、1辛ダンジョンの85階層で手に入れた物なんだけどよ。集団儀式魔法なんてとんでもねえのは無理でも、ほぼ全ての魔法を霧散させる能力を持つ神器だぜ。」


「そうか。ならば最後に貴殿に頼みたい事は、最も強き鬼、アオと呼ばれる鬼だ。」


「強えのか?」


「ニカラの鬼達に青という色は、特別な色でな。青き月になったニカラチャを指す色、その英雄と同意とする名なのだ。ニカラの鬼達の名付けの儀式と言うものを聞いた事がないか?」


名付け……名付け……と呟く冒険者に将軍が続ける。


「鬼達の名は生まれた時に既に決まっている。それを1歳を迎えた日に名付けの儀式と呼ばれる物で産まれながらに持つ名前を知るのだ。青き月が産まれて既に六千に近い年を数えるニカラの歴史の中でアオと名付けられた者は奴1人……。

強いぞ……英雄ニカラチャに勝るとも劣らぬ戦闘力とあの一族の中で呼ばれておった。若き日の私の1番の友だ。」


「そうか。そいつは、どんな戦い方をするんだ?」


「クロと呼ばれる鬼と同じく金剛木の丸太を振り回してくる。しかしあの者の強さはそこでは無い。正面突破を最上とする鬼達の中で唯一、虚実を交えて勝つための全てを使ってくるぞ……」


そうか、それは殺り甲斐があるなと答える冒険者、答えた後に天幕を出ていく。


すまぬ我が友我が家族よ……

小さく呟いた将軍の目から一雫の涙が流れていた。






次回 閑話エピソード3 鬼の手に丸太


読んで下さってありがとうございます。

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