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おっさん家!  作者: サン助 箱スキー
3章 調味料が欲しいです
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3章プロローグ2

ふぅ更新完了。


 七世紀頃の鈴鹿峠。


 真っ白な体に九つの燃える尾を持つ大妖が走り抜ける。

目指すのは鈴鹿峠に居を構える天下の大罪人・大獄丸の住処(すみか)。峠の頂きに大妖が到着した直後の第一声がこれだ!


「大学芋!いるんでしょ!ちょっと出て来なさい!出てこないと峠全部に火をつけるわよ!」


居丈高に反り返って、その尾の焔を激しく燃え上がらせる。

その声を聞いて大学芋と呼ばれた大罪人・大獄丸が鈴鹿峠の頂きに向い返事をする。


「街道側におる!こちらに来い!もうすぐ通るぞ!」


声が聞こえた瞬間に移動したのか、大獄丸の返事が終わる前には大獄丸の横に来ていた。

そして真っ直ぐ東を睨み付ける大獄丸に向い。


「ねえ、ホントに金メッキの奴って死んじゃったの?ねえ、なんで泣いてるのよ!ねえ!ねえってば」


詰め寄りながら大妖が問い掛けている、涙に溢れた目を拭う事もせず呟くように大妖に向い。


「もうすぐ通るさ、静かに見てろよ。今生の別れだ騒ぐなよ。」


と、諌めようとする。しかし怒気を隠そうともしない大妖の九尾の白狐が。


「今生の別れとか何よ?もう死んじゃってるんでしょ?騒ぐなよとか誰に言ってんのよ!騒がないわけないでしょ!うざ!チョーゼツうざっ!」


と更にその顔に怒気を重ねている。


しかし大妖が言い終わる前に見えた鈴鹿峠の東から登って来る三人の鬼と1人の人間を見ながら大獄丸が応える。


「来たぞ、あれだな……っておい!行くなって!」


止める大獄丸の言葉も終わらぬうちに九尾の大妖が走り出す。その後に紅葉の葉を一枚残して。






 鈴鹿峠を西に進む三人の鬼と1人の人間の一行の前に一陣の風が土埃(つちぼこり)を巻き上げながら吹き抜ける、吹き抜けた後に現れたのは目も覚める程の美しい女人。

しかしその後ろに巨大な焔を灯した九つの尻尾を(たずさ)えていて、人でないのが一目瞭然である。


「何故に我らの旅路の邪魔をする、返答いかんによっては如何に九尾の大妖とて押し通るぞ。」


そう答えたのは先程の土埃を一行に向かぬよう風を操り受け流していた風と呼ばれる鬼。

押し通ると言われた事に不機嫌さを隠そうともせず、舐め回すように一行を見た後に大妖がこたえる。


「ふーん……ねえ風、あんたくらいに押し通られる程落ちぶれちゃいないんだけど?てか何よ?水も隠形もやる気?あんた達とあたしの相性ってわかってる?」


その美しい顔に怒気を孕んで言葉を続ける、その姿が美人であればあるほど違和感を拭えない。


「風は私の焔を強くするだけでしょ?あんたに何をされたって痛くも痒くもないわ。それに水、あんたくらいの水術だったら何も出来ずに蒸発してしまうのが落ちよ。あと隠形、あんたくらいの実力で化かし合いを挑んで私に勝てるつもりかしら?」


自信満々に言葉を放つ大妖に向かって進み出たのは、一行の中の最も小さき人間だった。

旅装に身を包んで、その腰にヒヒイロカネの短刀を()くも、抜くことも無く大妖の前に進み出て。


「なにゆえ我らの旅路を塞ぐのか?我らが旅をするのに、そちに何か問題でもあるのか?」


そう聞いた人間を見て大妖が何かに気付いたようだ。


「あれ?金メッキの主って女の子じゃなかった?あれ?それって男装よね?確か名前は……」


名前を思い出そうとする大妖に向い、少し小柄な旅装の人間がこたえる。


「以前の名前は既に棄てた、だからその名を呼ぶでない、それがアレの望じゃ。そしてその時に甘えも捨てた、それに女であることもじゃ。」


そう言って水と呼ばれた鬼が抱える桶を見る。

大妖も、小柄な人間のその言葉に何か思う事もあったようで。


「ふーん……何よその覚悟を決めた顔っての、ばっかじゃないの!と言うか、そこの水!あんたの持ってる首桶の中身見せなさいよ!」


そう言い放つ大妖に向かい水と呼ばれた鬼が応える。


「なにゆえだ、キサマとコヤツは殺し合う仲だったでは無いか!」


問われた水と呼ばれた鬼が大妖に向い警戒を解くことも無く叫ぶと。その尾に灯した大焔を小さく収めて。


「死に顔が見たいだけよ、信用出来ないって言うんならあんたが持ったまんまでいいわ。風!蓋を開けなさい。」


あくまでも上から目線で、大妖が風と呼ばれる鬼に視線を向ける。

だがしかし、その問いに答えたのもまた人間だった。


「なにゆえに?なにゆえ死に顔が見たいのじゃ?」


その顔に悲しさを孕んで小さき人間が、大妖に向い目を逸らすことなく問い掛けると。


「そんなの決まってるでしょ?私の全力の焔でも焼けない防御特化の金ピカピンの金メッキがどんな死に顔してるか見たいだけよ!」


そう言われて水と呼ばれる鬼と風と呼ばれる鬼に人間が見せろと目で指示を出す。


水と呼ばれた鬼が桶を大妖に向け、風と呼ばれる鬼が蓋を取る、そして中身に目を向けた大妖が。


「ふーーん……安らかな死に顔してるじゃない……ふーーん……そっか〜……」


何か納得したような顔になり人間に向かい話しかける。


「ねえ、あんた達って何か大きな事をするつもりなんでしょうけど、そこは聞かないわ。だって私って化かす(あやかし)でしょ?私に計画を伝えたら何処に漏れるかわかんないし。」


そう言って後ろを振り向いた。尾の先の焔が小さきものに変わっている。振り向かぬままに人間に対して大妖が問い掛ける。


「あともう1つ、あんたの名前教えといてよ。そのうちまた伊勢海老でも食べに行くわ。」


その言葉に小さき人間が、胸を張りこたえる。


「今は中臣鎌足(なかとみのかまたり)という名を名乗っておる。いつか我らの念願叶った時に尋ねて参れ、その時は腹いっぱい伊勢の海老を馳走しようぞ。」


その言葉が終わる前に一陣の風が吹き抜ける、吹き抜けた後に残ったのは耳に残った覚えておくわの言葉と1枚の菊の葉だった。



 数日後の鈴鹿峠。

大獄丸の住居(すみか)の門前で大きな尾の九尾の白狐が化けた女人と、この峠の主である大獄丸が西を見ながら話している。


「ほんとうに行っちまうのか?大陸に渡ってもいい事なんかなかったんじゃないっけ?」


聞いた大獄丸に、少し機嫌の良さそうな声で大妖がこたえる。


「ちょっとイライラしてるから軽く暴れて来るだけよ。ほんと軽くね。」


九尾の白狐の答に少し安心したのか、その事を問い詰めることも無く大獄丸が更に問い掛ける。


「次は何時こっちに来るんだ?」


考えているのか考えていないのか分からぬ表情を作り大獄丸の方を向き。


「わかんないわよ、でもアレね。私っていつも飛んで来てるでしょ?でも今度帰って来る時は船旅って言うのやってみようかな。遣隋使船って言うの?あれに乗ってさ。」


そう言う九尾に大獄丸が頭を掻きながら。


「俺にそんなの聞いてどうすんだよ?分かるわけないだろ?」


美人に化けている大妖が、恥ずかしそうに頭を搔く大獄丸の額を指でつつきながら心配するような口調になって。


「ちょっとは政治の勉強とかしたら?脳ミソまで筋肉で出来てるんだったかしら?そんなだから後先(あとさき)考えずに行動して、口減らしに捨てられる予定の子供とか、死にかけてる病人とか攫ってきて、育てて治療して生きる術を身に付けさせて、働き手を求めてる東に送り出したりして、悪い事してる訳じゃ無いのに、やり方が悪いから大罪人とか言われちゃうんでしょ?」


その言葉に何も言えず、恥ずかしそうに頭を掻き続ける大獄丸に向かって更に言い放つ。


「んで、あんたその髪型どうしたのよ?めっちゃキモいサラサラストレートがお気に入りだったんじゃないの?」


気に入らない事があるとちょいちょい燃やしてアフロにしてやった髪型が何時もの髪型と違う事にやっと気付いたようだ。

気付かれた事に少し嬉しそうに大獄丸がこたえる。


「ああ、ちょっと前にな金の奴に言われたんだ。ゆるふわ系の方が似合うんじゃないか?ってさ、だからゆるふわパーマにしてみた。」


しかしどう見ても大阪のおばちゃんパーマネントである。

だがそれを見て大妖がキモいとか気持ち悪いとか生理的に無理とか否定的な言葉も言わずに。


「ふーーーーーーん……。」


と何か納得したような顔をして大獄丸に向かい。


「そう言えば金メッキのビンタって酷いもんだったわよ、何あれ羽毛で殴ってんの?ってくらいソフトタッチだったし。」


酷い言われようである、サイテーとか言ってたはずなのになと大獄丸が思いつつ。


「防御に特化し過ぎて攻撃力上げるの忘れてたんじゃねえか?」


今は亡き友人にフォローを入れていた。




 しばらく沈黙した後に大獄丸が美女から狐の姿に戻った大妖に向い。


「でもさ俺の事を大学芋って呼ぶなよ、峠の皆に示しがつかないんだから。」


そう言って自分が住む鈴鹿峠の中にある小さな集落を見る。


「わたしにちゃんと名前を呼ばれたいなら、もう少し良い男になってからね。それじゃ行くわ、何時までもこんな事してたって始まらないからね。」


そう言う九尾の白狐に向かい、少し寂しそうに。


「またな、帰ってきたら顔くらい見せに来いよな。」


そう言った大獄丸に向かって何時もなら不機嫌さを貼り付けたような顔が少しほころんで。


「伊勢海老食べに来る途中に寄るわ。でも気を付けなさいよ人間が集まるとそれだけで脅威だわ。」


そんな助言をしてくる。だが脳筋の大獄丸とて鈴鹿峠の(ヌシ)


「そこは、分かってるって。んじゃな。」


そう言って(きびす)を返して家に戻ろうとする大獄丸に背中を向けて。振り返ることも無く。


「じゃあね、また会いましょう大獄丸。」


大空を駆け抜けて去っていった。

鈴鹿峠の頂きで後に残された大獄丸は。


「恥ずかしい!ちょー恥ずかしい!あいつ顔だけは特級品なんだもんなぁ……ってか名前!」


その言葉にこたえる者もおらず鈴鹿峠につかの間の静寂が訪れる。





 その頃我らの主人公はピロリ菌に転生していた。




 どうだったでしょうか?2章で書き残した事を書いてみました。ホントは外伝にするつもりだったんですけど、本編に出したかったのでここに書きました。


中臣鎌足って色々なエピソードがありますよね。綺麗な顔をしていて女の人だったとかって所を使わせて頂きました。


次回から3章本編開始です。

異世界の聖域と呼ばれる自然豊かな地方なのに、小麦粉を作りたいから石臼を、オートメーション化したいから水車や風車を、その部品を作る為の木工旋盤を作らせてファンタジーをぶっ壊して行きます。調味料を手に入れるのが、かなりファンタジーになる予定です。

そしてついにスケキヨ型の角を持った鰻の正体も明らかに!


ここまで読んでもらってありがとうございます。


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[一言] ピロリ菌は草
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