マルトさん大暴れ
暴れます
祟り神に変質したニノや、呪いを撃ち落とすゼウスからマルトさんが相手にもされてなかったのは、マルトさんの神気が木っ端神のソレで、付喪神よりやや強い程度だったからなのか……何にしてもマルトさんがニノに近付けたのは幸運だった。
「捕まりませんよ、そんな遅い動きで捕まるもんですか!」
様々な呪や祟りを宿す膨れ上がった祟り神の体や、飛来する多数の雷霆を潜り抜けて走り続けるマルトさん。
テューポーンにやると言われた魔眼の能力を解放しているので、小さな隙間を縫うように縦横無尽に逃げ回りつつ、先程まで人の形を保っていた頭部に近付いて行く。
「違いますよ!田崎和信じゃないのくらい見えてますよ!」
事故直後の傷付いた田崎和信が見えているのだが、マルトさんの目は違う場所を教えてくれている。
「初期アバターは白人だったはずです。コレも違います。」
雷霆と祟りのぶつかり合う轟音、空間を埋め尽くす程の祟り、どちらも触れれば、マルトさんくらいの力なら瞬時に消滅してしまう程なのだが……
右へ左へ上に下に、スピードを緩めることも無く走り続けるマルトさん、ついにニノの祟り神に変質する直前の顔に到着する。
「何処が1番効果的なのか教えて下さい!ギフト【画竜点睛を知る】最大出力!」
スキルとは何か、ギフトとは何か、神力とは何か。
スキルとは神の能力をコピーした物、他者に分け与えられる能力。ギフトとは、神力を他者に分け与えられるようにした物、与えてしまえば己の権能から失ってしまう神力。
マルトさんの受け取った物はギフト。
ギリシャ神話だけでは無い、世界中のありとあらゆる神話の中でも最大最強クラスの神、テューポーンの目の一部、それをそっくりそのまま与えられたのである。
見えない筈が無いのである。
穴という穴から腐汁を垂れ流す、ニノの赤黒く腫れ上がった顔の前で発動したのは……
「喰らいなさい!私の最大限の癒しの力です!」
マルトさんの右手に込められた癒しの力、それが今やマルトさんの数倍は大きくなったニノの腫れ上がった顔、左の頬に……
バチコーンっ!
「左の頬を叩いたので右の頬もです!」
バチコーンっ!と今度は左手に癒しの力を込めて叩いた後に、マルトさんがニノの額に張り付いた。
「残りはここです!ニノさん!目を覚ましなさい!」
額の中央で全身から癒しの力を発動したマルトさん、必死にニノに語り掛けている。
「貴方はこんな事になって良い神じゃ無いんです!貴方は何も奪わないんでしょ!貴方は他者に与え続けるんでしょ!なんで祟り神なんかになってるんです。なんでこんなにおぞましい物に成り果ててるんです。戻って来なさい!」
祟が、呪いが、マルトさんの体を喰おうと迫って来るのだが、マルトさんに触れる直前で動きを止めた。
「うへぇへぇマルトさんには叶わないやぁ……もうしわけない……」
「ニノさん!ニノさん!意識が戻ったんですね!ニノさん!」
先程まではどす黒く濁って焦点の合っていなかった目に、微かに光が戻り、おぞましい叫び声を上げるだけだったニノの口から言葉が出て来た事に驚くマルトさん。
「ニノさん!次は何をすれば良いですか?手伝います!早く指示を、まだ終わってないんでしょ!」
「逃げて下さいマルトさん。もうダメみたいです。このまま聖域に帰ります。帰ってカンタ君に白い月に投げ込んで貰うので……」
白い月の外殻を残した理由でもある。
祟り神に変質してしまった自分が、癒される事の出来ない存在となってしまった時の保険に。
「何を言ってるんですか!帰って来なさいと言われていたでしょう!こんな姿で帰れと言われた訳じゃ無い事くらい理解してるでしょ!」
兎だから耳は良い、ちゃんとマルトさんには聞こえていたようだ。
そんな会話の間にも雷霆がニノの体を焼いているのだが……
「ダメですよ……マルトさんまで巻き込んじゃう。逃げて下さいよ……」
逃げろと言うニノだが……
「ニノさんまで……私を見くびらないで頂きたい!これだから特級神の方々は!私は木っ端神ですが……友神を……いえ、神友を置いて自分だけのほほんと生活出来る程物分りは良くないのです!最後まで付き合います!さあ!早く指示を!」
「やっぱり叶わないや……お願いしてもいいですか?」
マルトさんに癒されて顔の周りの祟りだけは制御出来るようになったニノ。次の行動をマルトさんに……
「私のタブレットを拾って下さい。行先はセットしてありますから、現地に到着したら……時を止めて下さい、それも設定が終わってますから……」
「ええ!それくらい簡単です!」
念力を使いニノのタブレットを拾ったマルトさん。
次の行き先は……1793年1月21日。
ルイ16世がギロチンの刃に命を落とす、その日だった。
読んで貰えて感謝です。




