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おっさん家!  作者: サン助 箱スキー
9章 必ずと誓った事
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若竹さんちの若芽君 0歳

若竹さんちの若芽くん〜。


 関東に残された最後の秘境、とある帝国の山奥。

牛小屋や付近の竹山を含む一帯のボス猫又の若竹夫妻に待望の猫又の子供が産まれた。


「よくやった!コレで私達の老後も安泰だ。」


「見て下さいアナタ。この毛足。きっと癒し系な猫又に育ちますよ。」


 他にも同時に産まれた猫はいるのだが、猫又は1匹だけ。古くから牛小屋付近を縄張りにする猫又夫妻にとっては何匹目の子供になるか覚えていないが、初めての猫又の子である。


「アナタ。この子に相応しい名前を考えて貰いましょう。」


「そうだな。丸兎様にお願いしようか。立派な跡継ぎになれるようにな。」


 そして、呼ばれて登場マルトさん。今日は顔だけ兎姿だ。


「若芽が芽吹く頃に産まれた猫又ですからね。この子には若芽彦と名を与えます。」


 付近一帯に住む猫達の親分になる事を祈って付けられた名前だった。


「丸兎様。まだ干し草は食べれませんよ。毛づくろいも出来ないのですから。」


「いやあ冬華さん。つい可愛くて。私が持っている食料と言えば雑草しか無いもので。」


 そんな母親や道祖神の会話をよそに、干し草にかぶりつく若芽彦。


「あらあら、飲み込んでしまいましたね。」


「ほんとですね。若芽彦、大丈夫?」


 まだ喋れない名付けの終わったばかりの息子に向かい大丈夫かと聞く母猫も少し気が早いようだ。




 同時に産まれた兄弟姉妹とスクスク育つ若芽彦。

今日は尻尾をフリフリしつつバッタを追いかけている。


「うにゃ!ふるニャン!うにゃ!」


 生後ひと月半の若芽彦にはバッタの方が1枚上手のようで飛び掛る瞬間に逃げられてしまう。


「うにぁ……逃げられた……」


 どんどん牛小屋から遠ざかる事も気にせず、バッタや蝶を追い掛ける若芽彦。無邪気なものである。


「てふてふ!まって!てふてふさん!まって!」


 待てと言われて待つ獲物はおらず、どんどん竹林から離れてしまう。


 そして……


「う〜ん。パパさんやママさんの匂いがしない……ここはどこ?ボクは若芽彦。」


 迷子になった若芽彦。話し掛けたのはヒヨドリ。

ヒヨドリは何も答えない。若芽彦の事を意に介さず、巣のまわりで鳴いているだけ。


 2日ほど経過したのだが、若芽彦は迷子のままである。


「お腹減った……足が痛い……お水飲みたい……」


 小さな木のウロに隠れて小さくなる若芽彦。

実を言うと300m程離れているだけの牛小屋付近では両親が必死に探していると気付いて居ない。


 そして雨が降ってくる。


「お水……濁ってて美味しくない……冷たい……」


 木のウロに隠れていなければ、周りに住む、世代が違う兄姉猫に見付けて貰えたのだろうが、経験の足りない若芽彦にはそれが分からない。


「うにゃ!黒い奴だ!アレは危険だ!」


 木のウロに深く潜り込む若芽彦。

近付いて来たのはカラス。子猫の天敵である。


 ウロの中を漁るカラスは若芽彦の背を嘴でつつき、背中に怪我を負わせるも、若芽彦の前足の一撃、子猫の尖った鋭い爪で顔を傷つけられ逃げて行った。


 その音に気付いた父親が猛スピードで若芽彦の元に走ってきた。


「パパさん!怖かったよー!」


「おお……無事だったか。心配させて……こっちに来なさい若芽彦。」


 怒られると思った若芽彦だったが、パパさんは優しく、濡れて怪我をした若芽彦の毛を綺麗につくろってくれている。

そのうち母や兄姉が集まって来て、牛小屋まで沢山の護衛が付いて若芽彦は帰宅するのであった。


 だが……


「パパさん、ママさん……頭痛い。目もシパシパする……喉も痛い……」


 雨に濡れて体を冷やしたからだろうか、熱が上がり、背中に受けた傷は化膿してしまっている。


「丸兎様はもう既に癒しは出来ぬ。このままでは若芽彦は……」


 若芽彦に名前を付けた事で、以前より更に薄くなってしまったマルトさん。猫又夫妻にも心配されているようだ。


「ダメ元で頼んでみましょう。何もしないよりは……」


「そうだな……」


 その後、若芽彦は癒され、人間に保護され、たまに網戸を破って脱走して来ては、自分の縄張りを牛小屋とは反対方向に広げている。


 若芽彦の大人になっていく姿を遠巻きに見る父と母は……


「玉を取られてしまったか……」


「そのうち丸兎様が土地神になられますよ。そうしたら治して貰いましょうよ。」


 成長して行く若芽彦の事を、遠くから見守っているのであった。



 

次回9章エピローグです。


読んで貰えて感謝です。

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