ニヤけた猫と俺
まだ実家から出ていませぬ、中々先に進めない進まない。
ドアをすり抜けると、そこは真っ白な世界でした……
自分でも何を言ってるか分からないけど、そう表現するしか無いくらいに部屋の中が真っ白なんだ。
なんと言うか……
冬の朝に雪が降って一面真っ白な感じが一番近いかな。
近いってのは何かが積もって白いんじゃなくて、置いてある物全てが白っぽくなってるんだ。
唯一白くなってないのがテーブルに乗って二足歩行じゃなくて、この場合歩いてないから直立不動かな?でこっちを見てるガンモ……すげー違和感。
扉を上半身だけすり抜けて、まるでお金持ちの家に飾ってある鹿の剥製みたいになりながらガンモを見つめ返すと。
「さっさと入ってきてや、なにボケっとしとんねん。それとも何か?理解できひんくてフリーズしとるんかいな?」
なんで関西弁なんだろうって思いながら全身部屋に入った瞬間に何回分か分からない前世の記憶って奴が一瞬で甦って来て。
「お久しぶりです、あれですか?今回人間だったから、次はミジンコとかですか?」
と、普通に聞き返してしまった。
そう、目の前に居るガンモの中身は、輪廻転生を繰り返して魂の格を上げてる最中の下っ端神様候補の次の転生先を決める神界的な所の人事部の中間管理職的(中間管理職と言うけどめちゃくちゃ凄い権能を保持しておられる)な神様だった。
色々な生き物(ゾウリムシの時も有れば、カピバラだった事あるし、ひどい時は、日本庭園の苔の一部で庭師さんに取り除かれて死亡)を経験して色んな生き物からの視点を知り入社試験的な物を受けてる最中だったのを思い出してミジンコですか?って聞いてしまったけど……
愛猫のガンモの体を借りてる目の前の転生課の課長的な神様が猫がやっちゃダメな感じのニヤケ方で。
「おめでとうさん、今回で解脱ポイントが貯まったから晴れて解脱やで。喜びや!ちょっとか前みたいに産み付けられた場所の地面がコンクリで伏せられて、いざ成虫になろうと這い上がって見たもののコンクリが邪魔でセミになりきれんまんま7年無駄にして死んでしもたセミの幼虫とかもうならんから。」
嫌な事を思い出させるなぁなんて思考が逸れそうだったし、どうやったら猫の表情筋でそんなにニヤニヤ出来るんだ?てくらいニヤニヤしてるのが凄く違和感がある。
でも、掛けられた言葉を反芻して、じわじわと達成感が湧いてきた。
そして出た言葉が。
「何処に配属されるんでしょうか?」
世知辛いかもしれないが、これも現実?だ。
やっと輪廻転生の輪から解放されたけど自分の目的を成就するには、まだ神格が足りないわけで……
神格を上げようと思うと。色々な雑用から始まって、それこそ輪廻転生していた期間が短く感じられる程の時間を下積みをするか、何かしらの生物から凄まじい信仰を集めて一気に神格を上げるしかないんだ。
だけど生前(一番古い前世から今生まで)信仰されるような事もたいしてやってない俺だから後者は無理で、必然的に下積みから始める事になる。
「アレやで、いつもの様に決めたらええんちゃう?(ニヤニヤ)」
「アレですか……。」
ソレは過去に俺を、ミドリムシやピロリ菌、象のウンコに咲いた花、地面に落ちたは良いけど干からびて死んでしまったミカンの種等々。
散々っぱら苦しめてくれたアレが、またしても俺の目の前に召喚される瞬間だった。
ここまで読んで貰えて嬉しいです。