目を突こう
目があ……
その日ルイ16世一家は……いや宮廷が喜びに満ち溢れた。国王夫妻に念願の男子が誕生したから。
産まれた男の子はルイ・ジョゼフ。
野望を打ち砕かれた者、祝福する者、誕生を祝して新生児用品を贈る者など様々な反応だったのだが、病弱であった。長く生きる事も無く数年後に命を落としてしまうのだが。
「マリー……良くやった……今はゆっくりと休め。」
男子出産に沸き立つベルサイユだが、我が子も可愛いが妻の身を心配するルイ16世。
「ふぅわぁぁぁ……ちっちゃい…………。」
産まれたばかりの弟を見て言葉を失うテレーズ。
「ねえテレーズ。可愛いわね……。見てこのちっちゃな手。貴女の産まれた時みたいよ。」
小さな掌をツンツンするエリザベート。
「ルイ……名前を付けてくださらないしら?」
出産の直後で乱れているマリー・アントワネット。
そして……
「ニノ。わかっているな?私はずっと近くに居る事が出来ない。お前が強くなってくれなきゃ困るんだぞ。」
「はいハンス様。今回の義手はかなり使えるかと。先日送られたこの胸当ても……」
右手に付けている義手が鋼鉄の義手に変わっている。普段はルイ16世お手製の木の義手を使っているが、袖と手袋で隠せる時は鋼鉄の義手に変えている。それも全て王と王の家族の盾になる為。
送られた胸当ては体に合わせて作られた鋼鉄の胸当て。マスケット銃の弾丸すら受け止められる物。
「私はアメリカに渡らねばならん。我が祖国の軍勢を率いてな。私が居ない間の事は頼んだぞ。」
小さく首を縦に振り、一家の身の回りの世話を始める少年ニノ。成長した体はまだまだ細いがしっかりと筋肉が付いている。
数日後……
王妃マリー・アントワネットを祝う為に、またオーストリアの女大公がお忍びでやって来た。
「う〜ん。孫はいいもんだねえ。どんな孫も目に入れても痛くない…………ってのは嘘だがね!目に入れたらなんでも痛いさね。」
忍び足で近付き祖母の目を突こうと構えるテレーズを牽制をしつつ、アントワネットの産んだ男の子をツンツンする女帝。
旦那のフランツ一世と言えば……
「これでフランスも一安心だな。おめでとうオーギュスト。」
影は薄いがしっかりとルイ16世と交流している。
そんなフランツ一世は、突然尋ねて来る直前までルイが読んでいた本が気になったようだ。
「オーギュスト……やはり君も人権に興味があるのかね?」
当時人権思想と言う物が流行り始め、民主化の波が小さいながらもヨーロッパにも発生していて、少しずつ世界の常識が変わり始める時代であった。
「義父様。これは面白いのですよ。他の人権に関する本より前に書かれた物でして、遠く東の果てに生まれた法なのですが……半世紀以上前に書かれた物だと言うのに……」
妻の私物にチラホラと増え始めた東洋の細工品。それを運んで来るオランダの貿易商から手に入れた1冊の日記に書かれていた物を翻訳した物の中に書かれていた法。
「原文では、ショールイアハレーミノゥレイと言いまして……」
生類憐みの令のフランス語翻訳版を義父に手渡すルイ16世。手渡された物を流し読むフランツ一世だったが、途中まで読んで、また最初から読み直すようだ。
「テレジア。テレジア。少しこちらへ。」
女帝と共に生類憐みの令の翻訳版を読むフランツ一世。読み終わった後に。
「捨て子や病人の保護か。当たり前の事だが当たり前が出来ていない。」
「私達の知らない極東にも賢人と言う者は居るのですね。教会の教えをこの様な法にするなど……」
「ええ。この日記に書かれているジェネラル・ツナヨシ。1度は会って話をしてみたかったですな。」
この数分後、後ろから近付く4歳の孫に目を突かれて、のたうち回るマリア・テレジアであるが、オーストリアの近代化に多大な影響を与えた女帝でもある。
読んで貰えて感謝です。




