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おっさん家!  作者: サン助 箱スキー
9章 必ずと誓った事
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エリザベート

エリザベートさんです。


 ニノ少年が王太子や王太子妃、異国の侯爵候補などに愛情を注がれて育っていた頃、他の人間達がニノ少年にどのような態度だったのかと言うと、まずオーギュストの妹エリザベート。後にルイ16世一家と運命を共にするマダム・エリザベートと呼ばれる事になる女性。


「お兄様。義姉様。何故に私がニノにご飯を作ってあげたらダメなのですか?私だって料理を覚えたのですよ。」


 この時はまだ10歳。料理と言うがまともに作れる物はお湯だけ……


 エリザベートは常日頃から10歳年齢の離れた兄オーギュストが手に入れた獲物を狙っている。


「ねえ笑って。なんで呆然としてるの?貴方は私が貰うのですから。未来のご主人様に微笑みかけなさい。」


 8歳になり、ふっくらして来たニノを、事の他気に入っているようだ。殆ど毎日遊びに来ている。


「ほら、この焼き菓子は私が焼いたのよ。直火で焼いたから真っ黒になっちゃったけど……食べられるわよ……たぶん。」


 食べられるだろう、だがしかし……お腹を壊すだろう。


 天真爛漫な少女にタジタジのニノ。対するエリザベートと言えば……


「貴方の仮面は身分を隠して民を救うヒーローの物よ。貴方の右手は凄い武器が隠れてるの。悪者はアイツよやっておしまい。」


 ごっこ遊びに夢中……可愛いものである。


 アイツと言われたのは、オーギュスト……


「さあニノ。私を倒せるか?ハッハッハ。どうした?来ないなら……こちらから行くぞっ!」


 妹も大好きなオーギュストは、ごっこ遊びに付き合うようだ。それを見ているマリーのお腹が少し動いて、それを言われるまで続いた。


 この当時、ニノに対して優しい顔をするのは彼らだけであった。


 同年にフランス国王となったルイ16世に育てられ最も王の身近に居る孤児の少年。そんな者が貴族社会で優しくされる訳が無い。


 普段はオーギュストの後ろを着いて周り、従者として活動しているが、それはプライベート時だけの事。オーギュストやマリーが公務の時間は、オーギュストの私室から1歩でも出れば迫害の対象となった。


 仮面を取られ、義手を奪われ、カツラを剥がれ化け物と言われるのは日常茶飯事。酷い時は首から下に殴打を受ける。特に使用人仲間達が酷かった。


 誰にも言うなと口止めされ、数年前を引き摺り生きているニノには、それが恐ろしくてたまらなかった。


 そんなある日の事。


「まあ、貴方は何をしているのかしら?それはお兄様の持ち物で、いずれ私が貰う物よ。フランス国王の妹が受け取る物を、貴方は傷付けると言うの?」


 たまたま習い事が早く終わったエリザベートが、オーギュストの私室に隠れて帰宅時にニノと2人で驚かしてやろうと考えて、何時もより早く部屋に来た時、ニノは侍従長に折檻を受けている所だった。


「いえ、エリザベート様。この者が悪いのです。何度教えても茶の1つもまともに入れる事が出来ないのです。」


 テーブルに用意された茶を見るエリザベート。


「あら?これかしら……」


 そう言って一気に飲み干すのだが……


「私がお兄様に入れて差し上げたお茶よりずっと美味しいわ。負けた気分よ、何だか悔しいわ。だって私が入れると雑巾の絞り汁や濡れた犬のような匂いがするのですもの……」


 侍従長もドン引きである。


 因みにその時の茶は、妹大好きお兄様が全部飲んだ。数時間後には腹を下したのだが。


 萎縮していたニノと、機嫌を損ねれば即木靴で脛を蹴って来るエリザベートから侍従長は逃げ出したようだ。


「ねえニノ?痛かった?どうかしら?」


「はい……エリザベート様。」


 他に誰も居ない時は名前を呼んで良いのよ、と何度も命令したらしく、こんな時は名前で呼ばれる。ニノに名前を呼ばれた事が嬉しそうなエリザベートが……


「そう。それなら……痛いの痛いの飛んで行けー!」


 そんな事を言いながらニカッと笑うエリザベートの前歯は、1本抜けていて少しおマヌケだった。



読んで貰えて感謝です。

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