お粥
お粥です
部屋の中で何を煮ているのか気になったマリー。
男の子の看病をする間に、多少の娯楽も必要だと先日オランダの貿易商から購入した1冊の異国の本を翻訳している。
その本の翻訳を殆ど終えて、夫のしている事が気になったようだ。
「ところでルイ。それは何?そんな黒くてドロドロの物を口に入れて大丈夫なのですか?」
「大丈夫だとも、先日付け届けをしてくれたオランダの貿易商から聞いた料理だ。はるか東の果てにある国では、病人にこのような料理を食わせると聞いたのだよ。」
「だからって、わざわざその国の物を使わなくても、ライスなら国産を使えばいいんじゃないか?」
作っているのはお粥。使っているのは日本の米、当時はまだ黒米だったそれを使い粥を煮るオーギュスト。
「そこは雰囲気と言う物を大事にしたいじゃないか。この梅干しと言う物も……」
マリーとハンスは顔を顰める。梅干しを食べた時の事を思い出したようだ。
「折られたのか抜けたのか、乳歯の1本も残っておらん。そんな者にライスの粥は良いようだ。麦粥のような臭みも無い。少しずつであるが毎日食べてくれる。」
少年の口元に粥を運ぶオーギュスト……少し疲れたような顔になっているが、徐々に回復の兆しを見せる少年の事を考えたら、休んでいる事が出来ないようだ。
「ルイ。私が変わります。まったくもう、男の方はこれだから。」
火傷の痕で融着していた唇は医師により切開されており、ある程度開くようになっているのだが、切開した傷口が気になるマリーがオーギュストに変わり少年の口に粥を運ぶ。オーギュストに寄り添いながら。
「初恋は叶わぬと言うが、失恋した相手に目の前で旦那とイチャイチャされるのは……」
2人の空間を醸し出しているのを見てハンスが呟くが聞こえていない。
お互いに頬を染めながら、器を持つオーギュストと匙を持つマリー。相思相愛のようにしか見えない。
2日後……
「どうしたんだオーギュスト……その髪型は……」
「あらまあルイ。面白い髪型になりましたね。」
丸坊主になっているオーギュスト、2人に見られて恥ずかしそうである。
「この子の襟足に生えた毛を見れば、私の毛と殆ど同じ色をしている。だから私の毛でカツラを作ってやろうと思ってな……やっぱりこの髪型は変か?」
「短髪もお似合いになりますのね。さすが私の愛しい旦那様。」
「なあオーギュスト……笑っていいか?ダメだ……堪えきれん……くっ……」
ハンスの笑い声が部屋に響こうとした時に、少年が目を開けて少し身じろぎする。
「動きました!目を開けていますわ!」
「なんと!おい少年!分かるか!意識はハッキリしておるか!」
大笑いするタイミングを逃したハンスだったが、少年に向かい大声をあげるオーギュストのそばに行き……ガスッと脇腹に……
「叫ぶなオーギュスト。お前は獣か!静かに……」
声に反応したのか少年が3人を見た。
自分の意思でハッキリと……少ししか開かぬ右目と、ハッキリと開けた左目で。
「ハンス……脇腹に膝はいかん……痛いじゃないか!」
丸坊主のルイ・オーギュスト。その後に安心したのか崩れ落ちてしまう。それもそのはず……
獲物と言った日から今日で8日目、その間一睡もしていなかったのだから。
読んで貰えて感謝です。




