出雲へGo
電車じゃ無いですよ。車の旅ですから。
足早に伊勢神宮を後にした俺達は、西に向かって移動し始めた。
「伊勢は懐かしいか?お主は金鬼だったのであろう?」
「懐かしいですね。山の形は変わってないですが、私が住んで居た頃と比べるのはどうかな?と思いますがね。皆が極貧でしたからあの頃は……」
「すまんな……手を回せんで。中央集権化の波に押されて日ノ本が変わり始めた時期であったからのう。あの頃のワシは死者を送るのにひたすら働いていたのだ……」
「伊勢に住んで居た頃のお話を色々聞いてみたいですね。ニノさんは何をしていらしたので?」
あの頃は……
「とかくヒヒイロカネを作ってましたね。岩を食べてヒヒイロカネを出す。出したヒヒイロカネと食べ物を交換して貧乏人達に配って回って、たまに攻めてくる大和の軍勢を追い払ってたくらいですね。」
「一時期ヒヒイロカネが大量に出回った事があったが、お主の仕業だったのだな。納得が行ったわ。」
「ああ、解脱した後の講習会で習いましたね。全国に散らばったヒヒイロカネは、後に集められて冥界の地下に封印されたと。」
鈴鹿峠をケンとメリーのGTRレプリカが走り抜ける。玉藻御前を走って追い掛けてた頃の懐かしい気持ちが湧いてくる。
「ここら辺で物部様の矢を受けたんですよ。あの辺に生えてた木の上で弓を構えてましたね。」
あんまり変わってない山の地形……懐かしいな。
「確か大獄丸殿もここら辺の出自だな。付き合いはあったのか?」
「もちろんですよ。殆ど毎日遊んでましたね。今で言うと5人組の戦隊モノのヒーローのように、変なポージングとかして……その時の主人は指揮官役でしたよ。」
懐かしいな。
「と言っても悪の5人組役でしたが。龍玉に出てくる牛乳特戦隊のように。厩戸皇子様はいつも遊びに来られていて、私達を倒すヒーロー役だったのですよ。」
いつも突っ込まれてたな。赤鬼の大獄丸、青鬼の水、緑鬼の風、黒鬼の隠形……なのに金ピカの俺。
「赤青緑黒と来たら桃色だろ!なんで最後が金ピカなんだよ!って毎度良い感じのツッコミをされてましたね。厩戸皇子様ってツッコミ属性だったんでしょうかね?」
「ああ、今でも10人同時にボケられても的確にツッコミを入れてくる程に生粋のツッコミ属性だな。雛壇芸神などと良くフリートーク系の動画を作って動画配信しておるわ。」
うわ見てみたいなそれ。
「神在月に出雲に来れば、その時の全員に会えるぞ。日ノ本の神の大忘年会でな。」
「忘年会なんですか……」
「それの後片付けが3ヶ月、忘年会の準備が8ヶ月掛かるのだ。妻と2人でやっておるからな。」
「私は毎年初日に伺わせて頂いてますが、初日から最終日まで居座る方も居られるのですよ。」
うわ……1ヶ月丸々忘年会に参加とか凄いな……
「昨年は仙桃が入荷した事で大騒ぎになってな。ビンゴ大会が過去にない程の盛り上がりを見せたわ。」
あんた達は天元大陸のエルフか!ってツッコミそうになったけど我慢した。
鈴鹿峠を越えて、滋賀県の栗東市まで国道一号線で来たんだけど……栗東インターで名神高速道路に乗ってからマルトさんが何かに気付いて疑問符が浮かびそうな顔をしてる。
「あれ?大竹和尚とニノさんは仲が良かったのですよね?会えばいつも怒られてたので友人だったとは思えませんでした。」
ん?誰だ大竹和尚って?俺も疑問符を貼り付けた表情になったと思う。
「はははっ。気付いておられない。大竹寺の大竹住職が大獄丸様の現世でのお姿ですよ。」
「げっ!スキンヘッドの脳筋住職じゃないですか!アレが大獄丸?」
「剃っておるのだ。と怒られるぞ。毘沙門天殿にその様な事を良く言えるわ。」
………………マジか。大獄丸が毘沙門天?確かに、えぐいくらいに強かったけど……
「ちょっくら現世に戻るわ!と気軽に現世に戻ったのだが……なかなか神界に帰って来なくての。江戸時代の中期頃であったか、痺れを切らした玉藻御前に焼き殺されて強制解脱しておったわ。」
うわ…………可哀想、頑張れ大獄丸。
「まあ、嫁の記憶を封印して1人現世に戻って、千と数百年遊び回って居たのだから誰も文句は言えんのだけどな。」
「え?嫁って……」
「やっぱり気付いておられない。毘沙門天様の奥様が玉藻御前様ですよ。マダカ国に居た頃は仲睦まじい夫婦って有名だったらしいですよ。」
だから玉藻御前ってほぼ毎日大獄丸の家に遊びに来てたのか?まじかー!
「玉藻御前の非道っぷりを抑えられるのが毘沙門天殿しか居なかっただけだ。アレらを見合いさせてくっつかせるのにシッダールタ殿がどれ程苦労した事か……」
「たまに忘年会で愚痴っておられますね。過去のどんな苦行より苦行だったと。あれを最初に経験していたら長い時間を掛けて悟りを開かずとも、速攻で悟りを開いて解脱出来ていたとかなんとか……。」
どんだけだよ……
「知らない事が多すぎますけど、知らない方が良かったと思う事も沢山ありますね……」
その後も出雲大社に着くまで色々と話をした。
いつの間にか自然と国さんって呼べるようになってたし、何故かマルトさんも大国主様を国さんって呼ぶ様になってた。
なんと言うか……職人時代の兄弟子って雰囲気なんだよ大国主様って……マルトさんと俺が弟弟子って感じでさ。結構楽しかった。
「ニノさんは木造建築が好きなのですよね?伊勢神宮の見学などしなくて良かったのですか?」
「ああ、伊勢神宮なら専門書も持ってますから。神界詳細版をGmazonでお取り寄せしまして、それに今の伊勢神宮なら何回も行きましたし。」
日本の古い建築物は殆ど資料を持ってるよ。だって好きなんだもん。神界版の専門書はめちゃくちゃ詳しく詳細が書いてあって、アントニウスさんと再現可能なのかちょくちょく相談し合ってる。
「良し!今日は開いてたな。気分で休む店だから心配だったのだ。」
小汚いボロい崩れそうな建物に、小さな看板が出てて、出雲蕎麦ありますって書いてある……そこに入った国さんが……
「ベルゼビュート。出雲蕎麦セットを3人前頼む。」
え?ベルゼビュート様……
「ベルゼビュート様ですか?初めましてニノと言います。いつもレシピ動画でお世話になってます。」
めっちゃ清潔感のあるイケメン。でも建物は小汚い……
「ああ、良く精進料理等にコメントをくれる異界の見習い神か。毎回丁寧なコメントをありがとう。半分炎上しているコメント欄で探すのは苦労するが、毎度褒めてくれるのは有難い。やる気も出る。」
おお!読んで貰えてるのか。丁寧なのは、アオさんと2人で感謝の気持ちを綴ってるからだな。
「いつか出会えたら渡そうと思ってた物があったんです。受け取って貰えませんか?」
畑に作り方り過ぎた世界樹の葉ね。そこそこ大きなダンボール箱いっぱい渡しといた。
「おお!傷付いた者達に食わせる薬膳料理に使わせてもらう。気を使ってくれてすまんな。」
めちゃくちゃ丁寧な人だった。
蕎麦を食べ終わって、3人で出雲大社にやって来たんだけど……
「蕎麦の話はもういい。あまり広めてくれるなよ。人気が出過ぎるとテューポーン殿に怒られるでな。出雲蕎麦を楽しむ会の会員でも無いのに広めるな、とな。」
そんな会があるのか……
しかし出雲大社に向かわないで、違う方に歩いていく国さん……なんでだろ?
「そっちは人間用だ。着いてくれば分かる。」
「ニノさん。驚きますよ。地球で唯一のダンジョンなんですから。」
なにそれ?
「さあ、ここが入口だ。」
そう言って示されたのは、公衆トイレの大きい方の入口……
「神がドアノブに触れたら、ダンジョンに繋がるのです。行きましょう。日本神自慢のダンジョンなのですから。」
「マルト。自慢に思ってくれたらワシも嬉しいぞ。頑張って維持している甲斐もあると言うモノだ。」
ドアを開けたら…………
「旅館かよ!」
目の前に老舗って言われそうな旅館みたいな建物が建っていた。
読んで貰えて感謝です。
昨晩は早くに寝てしまって、この回の半分くらい書いて投稿出来ませんでした。申し訳ない。




