8章 プロローグ
8章始まります
天元大陸・1辛ダンジョン腐敗山。夥しい数の不死属性の魔物が徘徊するフィールド型ダンジョン。
挑む者は、どんな強者であろうと、自らが死者の仲間入りする事を覚悟して挑まなければならない程の難易度である。
何処ぞのハザードなゲームのように、何度噛まれても回復して攻略出来る訳もなく、徘徊する魔物の体液1滴にでも触れれば、そこから死滅して不死者の仲間入りしてしまう。
難易度で言えば蒼大陸にある最高難易度と言われる人魔窟と同レベルなのだが、此方の方が難易度を低く設定されている。その訳は……
「聖女様、乙女の祈りを!」「勇者様、聖なる結界を!」
聖属性を操る事が出来れば、比較的楽に攻略出来るからである。だからといって完全攻略した者など居ないのだが。
聖域で星神が住人に対して、微妙な罰を与えている頃に、1人の勇者と1人の聖女、その2人を監視している数人の現地人は腐敗山の頂上付近まで辿り着いていた。
『ちくしょう。このまま進めば神の社に行っちまうぞ。どうにかして引き返さないと。』
勇者・水神勇鬼。本当の姿は水神。
太平洋を守護していた一族の末の子で、鬼と水神のハーフ。一族の長であった龍神が地球から追い出され、一族が離散していく中で、産まれて直ぐに幼い少女に保護されて育つ。
その時の幼子が老いて黄泉へと旅立ち、転生する度に見つけ出し、その都度傍で守り続けた義理堅い神である。
日本の神が何故に惑星パンツで勇者と呼ばれているか。
それは……
「水神君!ぼ〜っとしてたら危ないよ。」
「ああ、ごめん藤原。ちょっと考え事してた。」
己を保護して一人前の水神に至るまで育ててくれた人間、藤原千方。その女性の数回目の転生先。女子高生で聖女・藤原千夏。その子の同級生に扮して見守っていたら、クラスメイトと共に異世界に召喚されてしまった。
実を言うと、気付いていれば召喚を拒否も出来たのだが、授業中だった為に寝ていて気付かなかったのである。
「他のクラスメイトは楽しくやれてるかな?」
「アイツらやたら張り切ってただろ?無茶してなきゃ良いけど。」
この2人、学校では少し話す程度だったのだが、異世界に召喚された後、自分達に与えられたチート能力を確認していた所、2人で協力すれば、対アンデッド特化とも言える能力だった為に、不死属性の魔物のみが出現する腐敗山へ、元正教国の神官や聖騎士と共に攻略を依頼されて、挑んでいるうちに仲良くなったのである。
だからといって、お互いに異性として意識していないのだが。
「聖女様。勇者様。いよいよダンジョンボスのテリトリーに入ります。気を付けて。」
水神・水神勇鬼が、こっそりと神気を振り撒いているせいで、不死属性の魔物達は弱体化していて、そこに聖属性のみに特化した聖女の浄化スキルが乗れば、アンデッド達は近付く事すら出来ない。
飛んでくる体液は、水神の障壁に阻まれて分子1粒すら届かないようだ。
1辛ダンジョンのボスは、死龍。振り撒かれる神気で弱体化して、聖女の浄化に抗う事も出来ず、溶けてしまった。
「さすが藤原様と水神様。不死特化とは凄い物ですな。」
金髪のイケメン聖騎士に声を掛けられた2人。
ダンジョンボスを倒した後に現れた宝箱に群がる神官達。
そして……
ファンファーレが鳴り響く。
「おめでとう。先へ進みなさい。進んだ先で何も奪うな、さすれば望む物を与えん。」
そんな言葉と共に。
「今の声って日本語だったよね?」
「マジか!ヤバい。今の声はヤバい。」
ヤバいと水神が言った後に、腐敗山へ挑んだ一行は、何処かに転移したようだ。
ダンジョンコアの上に飾られていた蔦の絡まった看板に【何も奪うな。さすれば望む物を与えん。byテューポーン】と、日本語で書かれた電飾が怪しく光っていた。
読んで貰えて感謝です。




