閑話・人魚さんと魚人さん
人魚は人魚です。魚人は半魚人とでも言いましょうか、そんな感じです。
人魚や魚人が身体を綺麗にする為に上陸する蒼大陸南東部の海岸。先日、太刀魚人魚を舐め逃した、【青い魚】3人の見張りの日が、やっと訪れた。
「マダラ。タラの皮をかじらせるにゃ。ポムはひもじいにゃ。」
「しー!やっと現れたにゃ!美味しい魚人ランキング不動の1位。常にセンターを確保し続ける甘鯛魚人さんにゃ!」
「にゃんと!甘鯛魚人!逃がす訳には行かないにゃ!」
海岸の見える森の中から3人が移動し始める。猫だから音も立てずに気配も殺して。
しかし、常日頃から、ひもじいひもじいと言っているポムには、じっくりと気を付けて進むなどと、にゃん族から常に1番人気な甘鯛魚人が目の前に居るせいで、我慢出来なかったようだ。
「甘鯛魚人様!今日は宜しく御願いしますにゃ!」
1人飛び出して行って、襲い掛かる訳でも無く、甘鯛魚人の目の前まで走って来て、ジャンプからの土下座。所謂ジャンピング土下座と言う奴である。
「おお!にゃん族。丁度良い所に来てくれた。鱗に挟まった寄生虫が痒かったのだ。」
鱗の有るタイプの魚人からは嫌がられてないにゃん族。そんな事を知らない3人は襲い掛かるつもりだったのだが……
「んにゃ?逃げないかにゃ?」
「何故にお前達から逃げないといかんのだ?脅威等何も感じぬのだが。」
ポムの顔が驚きに染まる。
「にゃんと!甘鯛魚人様!ありがたやー。」
トラ吉とマダラも甘鯛魚人の言葉が聞こえてたようだ。猫だから耳は良い。嬉しそうに走って来て、甘鯛魚人達の前で拝み出す。
「なんと心の広い魚人さんにゃ!ありがたやー。」
「よろしければ、にゃん族全員を連れて来て良いかにゃ?お爺にゃんにも舐めさせてあげたいにゃ。」
30人程の甘鯛魚人は、にゃん族のザラザラの舌でも気にならないようで。
「毎回襲われる度に思っていたのだが、襲い掛からずに普通に来てくれたら、我々は掃除をして貰う側だ。喜んで迎え入れるのだが?」
そんな甘鯛魚人の族長の言葉は聞こえていない。既に他の甘鯛魚人の下半身を舐め回しているから。
「寄生虫さんは海に帰るにゃ。この鱗の汚れた部分は甘鯛魚人さんの、タンパクだけど繊細な味が染み出てるにゃ。非常に美味にゃ!」
「こんにゃ幸せは他ににゃいにゃ!延々と舐めていられるにゃ。」
ポムとマダラは甘鯛魚人達を舐め回す事に集中していて、トラ吉は他のにゃん族を呼びに行ったようだ。
ダンジョンコアから毎日供給される、トウモロコシの粉を水で溶いた物を器に入れて、にゃん族全員が甘鯛魚人達を舐め回しながらゴハンを食べている。
古き主の力が薄れて、少しずつコアから供給される食事の質も量も減り続けてしまったにゃん族達は、甘鯛魚人の味を堪能しまくったようだ。
「2ヶ月に1度は、この海岸で鱗の掃除をする。その時に尋ねて来てくれたら、鱗くらいいくらでも掃除を御願いしたいのだが。」
甘鯛魚人の族長の言葉で、にゃん族全員が狂喜乱舞し始める。ありがたやーと拝みながら。
別れ際ににゃん族全員で正三角形に並んで祈り始める。
「美味しくにゃる!」「長生きするにゃ!」「また来て下さいにゃ!」
にゃん族特有のスキルである。正三角形に並んで祈れば、微妙な願いなら叶うと言う、世にも奇妙なスキル。古の主からダンジョン管理の特典に渡された物である。
甘鯛魚人の味が美味しい物に変わり。甘鯛魚人が捕食される確率が減り。「2ヶ月に1度は」と言った甘鯛魚人が1ヶ月に1度尋ねて来るようになる。
それくらいの願いなら全員で祈れば叶うみたいだ。
それから数日。10辛ダンジョン何も無い洞窟に変化が訪れる。
「にゃんだあれは!化け物が居るにゃ!」「綺麗にしたダンジョンが汚されて行くにゃ!」「追い掛けてとっちめるにゃ!」
付喪神付きル〇バ、にゃん族達には化け物に見えたようだ。
「マダラ!盾を構えるにゃ!トラ吉牽制は頼むにゃ!ポムは弓で……」
二足歩行をしているが、手は猫だから……
「盾を持てないにゃ!」「ナイフがすり抜けるにゃ!」「矢を持ってないにゃ!」
可愛らしい肉球なので、掴めない……
古の主との契約で尖った爪や牙を失ってしまったにゃん族。武器を使えなければ狩りが出来ないのである。
「トラ吉が犠牲になるにゃ!トラ吉を踏み台にしてマダラも犠牲になるにゃ!ポムは後ろで応援しとくにゃ!」
【青い魚】リーダーであるポムの指示は酷いもんである。
ゴミを貯める部分が穴が空いて、吸い込んだホコリを撒き散らすル〇バ。それに近付かないように尻尾で掃除をするにゃん族達。普段より広範囲に汚れてしまう為に、皆の尻尾の毛が擦り切れて、みすぼらしい尻尾に成り果ててしまった。
そして……
「人魚さん達は、あんまり舐めさせてくれにゃいにゃ。ポムは魚人さん達の方が好きにゃ。」
「僕だって魚人さん達の方が好きだにゃ。でも昨日来たばっかりにゃ。次に来るのは何時になるかわからにゃいにゃ。」
3人の見張りの日である。トラ吉とポムは寝そべりながら雑談中である。マダラと言えば……
「来たにゃ!今日はマグロ人魚さんにゃ!美味しい人魚ランキング3位だにゃ!2人とも飛び掛る準備をするにゃ!」
そう言ってマグロ人魚を狙う3人が、シメジとモモちゃんと慈王君に出会うのは、この直後の事である。
「狙うにゃら子供の方が良いにゃ。」「舐め回される事に拒否感のにゃい方が成功するにゃ。」「四の五の言わずに、飛び掛って舐め回すにゃ!」
自称冒険者パーティー【青い魚】今日も楽しそうである。
トウモロコシの粉を水で溶いた物は……
う〜ん猫の餌にしていいのだろうか?
次回は8章プロローグです。
読んで貰えて感謝です。




