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おっさん家!  作者: サン助 箱スキー
6章 惑星パンツ初のメイド・イン・パンツ製オートバイ爆誕
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閑話 風鬼

 風鬼です。



 平成10年某日



 平成の時代になっても、たいして何も変化の無い山奥の村の棚田近くで、具足姿のイケメン男子が知り合を訪ねようと、手にキャベツの葉を持って歩いている。


「今宵も月が綺麗でござるのう。」


「ですね、風神様。こんばんわです。」


 道祖神の石像の横で立ち上がって挨拶をして来た、みすぼらしい服装のみっともない丁髷を付けたおっさんが目的の人物。


「マルトうじ、体調はどうでござるか? これはつまらない物でござるが、食べて元気を出して欲しいでござる。」


 そう言って手に持っていたキャベツの葉を渡す風神。加食部位を切り取られて、後は朽ち果てるだけだった根に近い葉を数枚手に入れて来たようだ。


「申し訳ないです。こんなに良くして頂いて。」


「あまり気にしてはいかんでござる。こんな物しか用意出来ぬ拙者が悪いのでござるよ。」


 過疎化、激疎化。なんと呼べばいいのだろう。

山間部の数件程しか無い村だからか、若者は1人も残っておらず、年寄りのみしか住まぬ地域の道祖神に同情しているようだ。


「8年前に長男さんが大学に、3年前には長女さんは私立の高校に、それに遅れて3ヶ月後には次男さんも就職して県外に出てしまいましたし。子供が居なくなれば自然と消えて行きますよ、お祭りなんて。」


「マルトうじが弱っていると色々と不便なのでござるよ。消えて貰っては困るでござるから、何かしらの神器を申請しておくでござる。」


 キャベツの硬い葉を食べているマルトさんを見ながら、何か出来ないか思案する風神。

 しかし神器を作れる者達は冥府の底でスローライフを楽しんでおり「明日から頑張る」と毎日のように言って作ろうとしてくれないので、困ってしまっている。


「天照様も最近は引きこもっていらっしゃるでござる。ここ数百年、出雲にすら遊びに来ないゆえに、神気を分けて貰う訳にもいかんでござるし……。」


 そんな話をしながら、ゆっくりと時間は流れる。


 平成18年年末


「マルトうじ。次男坊が帰って来たらしいでござるな。子供は連れて来たでござるか?」


「それが、独身のままでして、仕事も辞めて実家の農作業の手伝いと日雇い仕事をやるようなので、恋人どころか日々の生活に追われる事になるかと……」


 結局の所、過疎化の波は止まらず、平均年齢が65歳を超える地域になってしまった村に若者が1人帰って来た所で何にもならんと思案し始める。


「しかしですね、毎日全ての家を見回ってくれるおかげで、孤独死する年寄りが居なくなりましたからね。そこだけは感謝ですよ。」


 全ての家と言っても9件しかないでござるとは、言えなかった。



 平成20年某日


「風神様、どうしたのですか?顔色がわるいですよ。」


「スマンでござるマルトうじ。市町村合併のせいで地名を覚えるのにタジタジなのでござるよ。拙者は隠形程に頭の出来は良くないでござる。」


 関八州全域を監視しつつ、日本全土の風を支配する風神、肉体労働の方が得意なのである。


「しかしオリュンポスの神々にも困ったものでござる。冥王様の別宅兼店舗があるゆえに、直接手出しはして来ぬでござるが、それでも間接的にちょっかいを掛けて来てるでござるし。」


 領海から外を制圧されてしまったので、海上で活動する事も出来ない風神は苦悩している。


「水が古き主を見守ってくれているのは分かるのでござるが、そろそろ水神として仕事して欲しいでござるよ。そうなれば制海権も取り戻せるのでござるが……」


 ちょくちょく任地を留守にして、風神に代理を頼む水神に、ちょっとだけ文句のある風神。


「確かに300年ぶりに生まれ変わったとか言って、ちょこちょこ街に出掛けてますね。」


「毎週のように写メールが送って来るでござる。」


 懐かしいカメラ付きの初期のガラケーである。




 そして、令和になって。


「マルトうじ!仙桃は入荷したでござるか?」


「ええ、今回は若返る奴も5個程入荷しました。」


 マルトさんの言葉を聞いて、飛び上がりそうになる風神。


「やっとイザナミ様の依頼が終わるでござる、ホントにキツかったでござるよ。」


「そんなにですか?」


 ほっと一息ついている風神は、マルトさんの質問にキリッとして答えた。


「拙者の業務報告の度に言われてたでござる。若返って美貌を取り戻せたら、何人か部下を付けてあげると。」


「おお!それは良かった、ブラック過ぎて心配だったのですよ。」


 社の前に設置してある自動販売機でお茶を2本購入してマルトさんに1本渡した風神。


「週167時間の就業時間から解放される未来に乾杯でござる。」


「週の休み時間が1時間しか無かった激務が終わる事に、乾杯です。」


 それもこれも、あの荒ぶる御神が仙桃を持ち込んだり、日本各地に旅をするのが悪いのでござるとは、言わなかった。


「しかし、この自動販売機はどうしたのでござるか?」


「ああ、それは。ニノさんが開発した、世界を移動出来る転移門機能が付いた自動販売機ですよ。1回100円で世界の壁を越えられます。」


 マルトさんの言葉で、頭が痛くなる風神。


「あの御神は神器まで自作で作り出して、更に山奥の草むらに放置するとか、常識と言う物をわかってないのであろうなあ……」


 マルトさんが気を利かせて「神器を作る為の重要な素材であるヒヒイロカネなら、ニノさんって自力で作れますからね」と言われなかったおかげで、過去の盟友・金鬼だと気付く事も無かった。




 本編で水鬼が日本に帰還するまで気付きませんよ。


読んで貰えて感謝です。

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