閑話 隠形鬼
初期から決まってたのが、やっと出せました。
天智八年 (669年11月14日)近江・大津宮
「千方様……死んじゃったな。どうするよ?」
そんな言葉と共に涙が止まらぬ水鬼。
「オレは少し旅をするよ。この国を全部見て回りたいから。」
最初に答えたのは風鬼。やはり風鬼も涙が溢れている。
「権力を握った不比等が心配だ、私くらいは付いていてやらねば。肩を落とす葛城様もな。だから近江に残る。」
「そうか、隠形が残るなら安心だな。それじゃ俺は千方様の次の生命でも探しに行こうかな。」
水鬼の言葉に風鬼も隠形も頷く。
「見付けたら知らせてくれよ。なんとしても会いに行く。」
「オレもオレで探しに行くよ。こんな所で終わらせたら金に申し訳無いからな。」
元は千方の四鬼のうち、残った三鬼。
それぞれの行く道は決まったようだ。
「いつかまた集まろうぜ。」
「どっかで金も生まれ変わってんだろ?そのうちアイツも交えてな。」
「俺は都に居る、何時でも尋ねて来い。」
そうして隠形鬼だけが都に残る。
己の主が黄泉へと旅立ち、数年後には主の愛した人間も追うように黄泉へと進むが、その後何世代も子孫を陰日向に支えて生きる隠形鬼。
世の中が平安の世に変わって、人に紛れる為に人間アバターを手に入れ、今も平安の都で生きているようだが。
「おお、水。久々じゃないか。見つかったか?」
水鬼も人間アバターを手に入れて、人の見た目になって尋ねて来たようだ。
「東を探しても、何処にも居ねえんだ。伊勢か志摩に居ると思って最初は探したんだがな。」
山伏の見た目の水鬼の話で肩を落とす隠形。
やはり人間には生まれ変わっていないのだろうかと肩を落とす水鬼。
「他の地域も探してくる。とりあえず奥州にでも行ってみるかな。」
「おお!それは良かった。私は九州に転勤になってしまったんだ。」
出る杭は打たれる。隠形鬼の姿のまま活動していれば何の問題も無かったはずだが、しかし人の世に紛れる事を選んだ隠形鬼。
天智の帝の世から、朝廷の中枢で活躍して来たのだから、例え身分の低い人に姿を変えても、メキメキと頭角を現して、ある程度の権力を手に入れていた。
「あんまり目立つなよ。お前ほっかむりどうした?」
「金に言われてたんだ。全然隠れてないじゃん、殆ど出てるだろそれって。なんてな。人間の見た目を手に入れてその時に止めたさ。」
懐かし名前が出た事に水鬼も少し笑顔になる。
「風の奴も最近人間の見た目になってるし、金の奴も案外人間に生まれ変わってたりしてな。」
この時の金鬼と言うか主人公は、鮭に生まれ変わっていて、川を遡ろうとする直前に捕まり塩鮭にされている所で、お腹の中の白子は、白子料理になっていたりする。
「それだといつかまた会えそうだな。」
「会えると良いな。」
そう言って次の目的地へと旅立とうとする水鬼。
しかし1つ忘れて居たようで、隠形鬼に大きな声で問い掛ける。
「俺は山伏だから名前なんて水のまんまだけど、お前はなんて名乗ってんだよ?」
その言葉に、元隠形が水鬼と同じ様に大きな声で答え返した。
「菅原道真だ。大宰府に赴任する事になった。次に尋ねて来る時は大宰府に尋ねてこい。」
そして、更に時間は進む。
「自分、ちょっとやり過ぎちゃうか? 暴れるんは構わへんけど、祟り神になってしもたらアカンわ。」
冥王が直々に出張って来る程の祟り神になってしまった隠形鬼こと菅原道真。
「とりあえずそうやな、運動音痴になる呪い!」
冥王の呪いを受けて、剣の達人だったはずなのだが、棒切れ1本振り回すのにもぎこちなくなってしまった。走るのもめちゃくちゃ遅くなって、女の子走り?って聞きたくなるようなフォームになってしまっている。
「ハデっちゃん。この馬鹿俺にくれよ。」
くれと言われて簡単に渡せる物では無いのだが。叔父に多少引け目のある冥王……仕方なくあげたようだ。
「おい、馬鹿鬼。てめえ頭は良いんだろ? 祟り神になった罰だ、ハデっちゃんの副業の手伝いでもしろし。」
そう言って冥王の副業、解脱する魂の転生課で働く事になる。
「頭が良いんだから、教育係とかどうだ?」
「それくらいならええんちゃう?最近は解脱しようとする奴も滅多におらんし、暇になりそうなんやけどな。」
そう言って、新しい神の初期教育係にされてしまう。
役職は、転生化・バイト主任。微妙な立場だな。
更に時間は過ぎ、出雲にて。
「Heyよーオキナワ!アイラブ沖縄!青い海と珊瑚礁!ィェーィ!」
なんて歌いながら「油断してくれたらありがてえ、何かやらかしたら例え上級神でも仕留めてやる」とか考えているとかいないとか。
白いイノシシです!奴です!
この話は、主人公を金鬼にと決めた時には既に決まっていました。
金鬼と決めた時はまだダーツにするか流鏑馬にするか決めかねて居た頃なので、かなり初期に決まっていた話でした。
読んで貰えて感謝です。




