S.M.Zのお使い 天元大陸 4 老エルフvs金持ちエルフ
金持ちエルフは誰かわかるでしょうね。
ビンゴ大会も終わってしまった。
そして、その後に夕日を見ながら黄昏ているアントニウスさんとエメラルダさん……
「私達に何一つ手に入らないなんて……」
「エメラルダ。こうなったらエメリーの家に同居するしかないのでは?」
エメリーさんの顔が引きつっている……
新婚なのに来るなと思っているようだ。
そうこうしていたらエルフの集団の中から、エルフの中では珍しい、年老いたエルフがアントニウスさんの傍に近付いてくる。
「アントニウス。お前の私財全てを投入して土地を手に入れるのじゃ。世界樹の巨木が育つ程の広大な土地をな。」
そんな事を言われた。
しかしアントニウスさん、星神と悪ノリしたり、意気揚々と木工に関するアレやコレやをしていたりで色々と思う事もあるようだ。
「アトラ大陸のように、他種族を追いやる気か?それは出来ん。いくら爺様の頼みでも無理だ。」
「何故に無理だと言う? お前ほどの金持ちなら簡単な事じゃろ?」
多分エルフの中だけでなく、天元大陸全体を見渡しても、アントニウスさんに勝る金持ちなど数人しかいない。
「馬鹿を言うな。世界樹が巨木になっても大丈夫な程の土地を用意するとなると、そこに住んでいた生き物はどうなるのだ?」
キツイ目付きで己の祖父を睨み付けるアントニウスさん。
「それではお主、エルフの悲願が達成出来なくても良いと言うのか?」
そんな問い掛けに、一瞬足りとも考えることも無く。
「何かを犠牲にして達成しなければならないと言うのなら、私は鉄や土や石と共に生きるさ。爺様達は聖域で何を学んだのだ? ただ欲望のままに植物を見ていただけか?」
横にいるエメラルダさんもエメリーさんも、慈王君やシメジまでも、2人のエルフのぶつかり合いにドキドキしている。
「年老いて衰えたと思うなアントニウス!」
「引導を渡してやる頑固頭のクソジジイ。」
その言葉と共に、2人の戦いが始まる。
かたや、日々研鑽を積み続けて種族の宿願達成の為に人生の全てを費やした、千年を生きた天元大陸最強のエルフ。
かたや、天元大陸に住むエルフ全ての生活の面倒を見ている、天元大陸トップクラスの金持ちエルフ。
どちらが勝つなんて、誰の目にも明らかだった。
しかし……
「爺様。もっと世界を見ろ。」
植物に拘束されたのは老エルフ。
「我々エルフや植物だけの物では無いのだ。」
老エルフの植物魔法は、積んだ研鑽が分かる程に同時に様々な木々を動かしていた。
「こんな小さな雑草にも、こんな小さな名もなき花にも……」
対して、金持ちエルフの方はと言うと、動かしたのは路傍の小さな草花。
「世界樹と同じ様に、命が宿っているのだぞ。」
そんな草花がアントニウスさんの魔力を受けて、大木の枝や根を全て弾いてくれた。
そして、老エルフすら拘束してしまった。
「ニノ様に頼み込んでみる。それまで待て。」
そう言って、老エルフの拘束を解かずにアントニウスさんは1人で転移門へと入って行った。
「うわあ、アントニウスさんってカッコよかったんですね。」
モモちゃんが見た事あるアントニウスさんと言えば、転移門で聖域に来た直後に、地面に生えている雑草を見てハアハア。
そのまま、1本ずつ雑草を見ながら森まで数日掛けて辿り着き、森を見てハアハア。
たまにキリッとしていると思えば。
枯れた霊木や分けて貰った仙木を材料にして、ニノ様と何かを作っている所くらいである。
そんな風にモモちゃんが感心していると、エメリーさんが何かに気付いた。
「パパが曾祖父様に勝てるわけないって思ったのに、やっぱりズルしてたわね。」
その言葉を聞いて、その場の全員が老エルフを見ると、草花が勝手に動いて拘束を解いて行く。
そして……
「エメリーさん、聖域に帰ってますね。植物用栄養活力液を貰えるそうなので。」
そう言って、根っこで歩きながら転移門を潜って聖域に帰って行った。
「そりゃ普通の樹木じゃ霊草に勝てるわけないわよ。」
アントニウスさんは、常に聖域の植物を懐に入れている。
誰にも内緒で。
アントニウスさんは、普通のエルフですから、戦闘特化型の老エルフには勝てませんよ普通ならね。
読んで貰えて感謝です。




