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おっさん家!  作者: サン助 箱スキー
閑話 蟲魔王になった少年
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閑話 マヨネーズを作る蟲魔王

立派なマヨラー魔王です。


 東郷少年がモーブの自宅の地下倉庫に引き篭った後の事。


 数年の間に魔族や魔物は、アトラ大陸の霊峰を中心とした南北に伸びる中央山脈から最西端の海岸線までを人種との交渉により獲得する事になった。



 交渉とは言うが、最盛期で1億程の人種が住んで居たのだが。

交渉時には2千万程に数を減らした人種には、交渉と言う名の無条件降伏であった。



 殺意の波動に目覚めた東郷少年が振り撒いた、膨大な魔力は深淵の森を含むアトラ大陸に降り注ぎ、深淵の森を中心とした地域に住む魔族や魔物達には命を育む糧となった。




 人種側の所有する事になった大陸東部の山を削り、渓谷は完全に埋め尽くされ、標高8000m級の山脈がアトラ大陸の東西を2分する。



 過去に世界を東西に分けたベルリンの壁のように。



 殺意の波動に支配されていたとは言え、蹂躙の記憶の残る東郷少年の心の傷が癒えるのには相当な年月が費やされた。




 東郷少年が地上に出て来たのは引き篭ってから100年と少し、100年以上ずっと暗い地下室で過ごしていた、膝を抱えて頭を掻きむしり、己の行動を後悔しながら……



 その間、東郷少年の生活の面倒を見ていたのはモーブとタマオ、そして魔将の1人サマンサ。


 なぜにサマンサなのか? それはモーブとタマオが用意した野菜や果物が東郷少年に話しかけるから。


「美味しそうでしょ?魔王様。今が1番の食べ頃ですよ。」


「魔王様、食べないと体力が無くなりますよ。僕は栄養たっぷりだから食べてた下さいな。」


「魔王様、今年の私は自信作なんですよ、魔王様の糧になる為に頑張って育ちましたよ。」



 話し掛けてくる植物達が東郷少年を魔王と呼ぶ度に悪寒や嘔吐が東郷少年を襲う。



 そして東郷少年の心は沈み込む。




 植物達は、殆ど何も食べずに魔力を振り撒く東郷少年の頭部の角が、徐々に小さくなっていく事を心配しているだけだったのだが。


 魔王と呼ばれる度に己の行った行動が恐ろしくなり、塞ぎ込む東郷少年に唯一食べられる物を用意出来たのがサマンサだけだったからだ。


「和真様、今日の卵は火食鳥の無精卵ですよ。大丈夫です、誰の命も奪いませんから。」


 サマンサが膝を抱える東郷少年に、手作りの料理を運んでくる。

 唯一、東郷少年に話し掛けてくる事が無い食材を使った料理を。


「サマンサさん、ありがとうございます……。」


 日本に住んで居た頃は、日焼けして小麦色を超えて、しげる色をしていた東郷少年は、長い間地下倉庫に(こも)り、日の光を浴びて無いので青白く不健康そうな顔色になっている。


 唯一食べれる食材が完全栄養食品の卵だった事が、東郷少年に唯一の救いだった。



 今日も東郷少年が地下倉庫から出て来る事は無理だと思われていた。


 だがサマンサの持ち込んだ料理を、しっかりとたいらげたと聞き安心する2人の魔物、モーブとタマオ。



「和真、今日もモフっていいよ。すべすべにしてきたから。」



 タマオが東郷少年の膝の上に乗る、乗った後に東郷少年がタマオを軽く抱きしめる。



「和真ぁ。今日は西の河原の近くで生まれた、真っ赤なお尻の猿の子供の話をするだよぅ。」



 魔力の流れが正常に戻り、人に荒らされる事の無くなった深淵の森の今の姿をモーブが東郷少年に面白おかしく伝えようとする。



 あの日から100年程が経過して、東郷少年が呟いた一言で地下倉庫からモーブとタマオに無理矢理連れ出される事になる。



「マヨネーズが欲しいな……。」



 モーブとタマオにはマヨネーズが何なのか分かっていなかった、しかし何かがしたいと東郷少年が呟いたのは、あの日から100年程が経過して初めての事だった。


「なら手に入れよう。マヨネーズってのが何か分からないけど和真は知ってるんだよね?」


「オラとタマオさんと和真と3人で探しに行くだよォ。」


 そうですよね、こんな所で縮こまってたらダメですよね、と呟いた東郷少年にモーブとタマオは何処までも優しかった。




 東郷少年がモーブの住処から出て最初に目にしたのは、沢山の魔物や魔族達。


「魔王様、うちの子と再開出来ました。本当にありがとうございます。」


「魔王様、消え掛けてた僕を助けてくれてありがとう。」


「魔王様、あなたに受けた恩を少しでもお返ししたい。」


 魔王様、魔王様、魔王様……。


 沢山の魔物や魔族達、動物や昆虫達、様々な植物達が東郷少年の姿を見て、ありがとう、ありがとうと笑顔で話し掛けてくる。


「和真ぁ、アレで良かったんだァ。和真が作ったんだよォ、みんなの笑顔を絶やさない森を作ったんだよォ。」


「和真、手を振ってあげてよ、みんな待ってたんだよ和真が出てくるのを。」


 モーブやタマオに言われた事が、東郷少年の心を軽くしたのか、魔王と呼ばれても塞ぎ込む事は無かった。



 東郷少年が集まっている者達に手を振ると。



 深淵の森の東側が、歓喜の声に満ち溢れた。




 それからの数年、東郷少年は精力的に働いた、公私共に。


 卵生の魔物や動物達の無精卵を貰い、海水を煮詰めて作った酢と、植物達から提供された植物油を使って、マヨネーズ作りを始めたのと……。



 「和真様、すごく元気ですよ。またお腹の中で暴れてます。ほらまた蹴った。」



 見た目も美しく、理知的で穏やかな女性、塞ぎ込んで居た頃に献身的に自分を助けてくれていたサマンサに恋心を抱くのは当然の事であった。


 サマンサの方も満更では無かったようだ。


 殺戮と蹂躙の雨をアトラ大陸に降らせる程に強く、しかし何処までも優しい心の持ち主である東郷少年をいつの間にか支えてあげたいと思う程に好きになっていたようだ。


 もう東郷少年と呼ぶ事は出来ないのかもしれない。


「和真様の子供が産まれたら、きっと良い子に育つんだろうね。」


「今の魔王様と先々代の魔王様の末の娘であるサマンサの子供だ、ゆくゆくは魔王を受け継ぐ者になって欲しいが、健康に育ってくれれば何も言うことは無い。」



 小悪魔のポロと獅子頭のライ造が、サマンサの大きくなったお腹と、そのお腹に手をあてがう蟲魔王を、にこやかな目付きで眺めている。


 アトラ大陸の60%程の土地を人種から完全に独立させた交渉の時に見せた魔将としての威圧感等は欠片も見せずに。


「和真ぁ、新しいマヨネーズが完成しただァ!ピリッと辛いマヨネーズだども美味いだぁよぉ。」


「沢山走ったから足がパンパン、和真癒して!」


 ハムスターが動かして遊ぶようなランニングホイールに多数の歯車を使って付けたホイッパーを動かしてマヨネーズの材料を混ぜていたタマオ。


 ホイッパーを操作してマヨネーズの質を均等にしていたモーブ。


 2人の魔物は深淵の森1番のマヨネーズ職人になってしまった。


「モーブさんタマオさん、天元大陸に渡る為の交渉もいい方向に動きそうです。大亀の一族が海路を使う条件に提示してきたのは、マヨネーズを付けた野菜を(たま)に食べさせて下さいだったので。」



 深淵の森の樹木達が健康になり過ぎたせいで地面に光が届かなくなった事で、雑草達から少し苦情が来ていた。


 そして樹木達から、最近太ったから剪定してくださいと言われて剪定した樹木と言うか、大量の木材が余り始めた深淵の森。


 天元大陸最大の木工ギルドに、剪定した木材を持ち込めば、かなりの金額を得る事になる。


 そうして得た金銭を使い、各大陸より魔物や魔族、絶滅しかけている動物達を保護して深淵の森に移住させている。



 アトラ大陸に広がる深淵の森は、まだまだ許容量を超えていない。



「もうすぐマヨネーズの品評会があるだよぉ、それまでに最高のマヨネーズを作るだよ和真ぁ。」


「この間は火竜の卵だったけど、今度は風竜の卵で作ってみようよ和真。」



 深淵の森の魔物や魔族達は、かけて美味しい、飲んで美味しいマヨネーズに、どハマりしているようだ。


 奪われる立場だった深淵の森に平和が訪れている。



大亀さんは聖獣スッポンさんの一族です。

タマオさんとモーブさんの作っているマヨネーズはカラシマヨですよ。


読んで貰えて感謝です。


次回 閑話 蟲魔王 最終話


いつもの様に閑話が終わった後に補足情報があるキャラと閑話に出て来たキャラ紹介を挟んで6章に突入です。

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