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おっさん家!  作者: サン助 箱スキー
5章 レシプロエンジン完成しました。
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丸兎昔語り 今に繋がる丸兎の尊

丸兎さんの昔語り最終話です。


 それじゃ寝ましょうか?と言って夜の海を見ていたマルトさんが布団に入る。


俺も座敷に敷かれた布団に入る、ふかふかの布団が気持ち良い。


同じ布団を買おうかな?アカさんとエメリーさんの為に、とか考えてた。


「道祖神になった後も大変だったのですよ、テューポーン様が任地まで連れて下さったのですけどね……」




   兎が神になった理由(わけ)後日談。



 出雲大社を出た後に、冥王と名乗った神が兎の新神に話しかける。


「なあ丸兎。お前の大好きだった茂助は、もう次の生命に生まれ変わる準備をしとるから会えへんけど、忘れたアカンよ。」


解脱して神になった兎は、言葉を出す事が出来るようになったらしく。


「忘れる訳がないです。でも……」


でもと言った兎に反応したのはテューポーン。


「そうだ、ハデっちゃん。茂助アバター作るから写真撮ってきてよ。」


そう言って冥王を、使い走りに使おうとする。


「ポンおじの頼みだからな、仕方ない。半年程前の写真でも用意してくる。」


テューポーンの頼みに答える冥王ハーデス。

その姿が少しだけ歪んだ様に見えたが、次の瞬間には、存在が消えていた。


そして数分後に現れたのは西〇運輸のトラックに乗る配達員。


「まいど!お荷物お届けに来ましたで。ってポンちゃんか。なんだよ、急いで来たのに損した気分や。次に行くから、ほれハンコくれ。無ければサインでもええよ。」


サインを書いた後に配達員がトラックに乗り込んで、走り出したと思ったら、空を飛んでいなくなった。



 テューポーンは、受け取った封筒に入っていた写真を。


「この写真を……」


アバター製造用3Dプリンターに備え付けられたスキャナーを操作して、冥王から送られた写真をスキャンしてアバター作成開始ボタンを押す。


「お前がどうやっても忘れないように、茂助アバターをやるよ。二日くらい作成に時間が掛かるから、歩きながら行くか。」


そして兎を撫でながら歩き出すテューポーン。

胸に抱いた兎の毛並みを堪能しながら。




 「ひたすら2日の間、モフられましたよテューポーン様に。全身くまなくね。恥ずかしい部分も全部。」


「うわぁ、兎って触りすぎたらストレスになるんじゃ?」


薄暗い部屋で隣に寝てるマルトさんが少しだけ光った。


「それがですね、嫌じゃ無かったんですよ。茂助さんに抱かれてるような気分になりましたからね。」




 村に辿り着いたテューポーンと丸兎の尊は、まず最初に土地神の社に向かう。


向かった先でテューポーンが激しく怒り出す。

抱いた兎に怒気を孕んだ神気が行かぬように気を付けながら。


「あぁ!居ねえじゃねえか、何処に行ってんだ水鬼は!あの糞野郎。消し飛ばしてやんぞ糞が!」


そう言ったテューポーンの目の前の地面に、複雑な魔法陣のような物が浮かび上がる。


召喚されたのは、この地域の土地神である水神、元は千方の四鬼と呼ばれ、水鬼であった者である。


「糞野郎!てめえ土地神の癖に、なんで任地を離れてやがんだ。消し飛ばしてやんぞ糞が!」


 召喚された水神が一瞬で五体投地になる。


今は、義体ではあるが、創造神・大地の神ガイアの全てを受け継いだテューポーンの怒気に震えるばかりで何一つ喋る事など出来ない水神に向かい。


「離れた訳を話せ、消し飛ばすのはそれからだ。」



 千方様が転生して生まれ変わった女人が、遊郭に売られてしまったので、その女人を守護していたと答えた水神。


少しだけ怒気が収まったテューポーンが水鬼に言葉を放つ。


「お前の仲間の風鬼でも隠形鬼にでも、見に行かせりゃ良かったんじゃねえか!土地神の癖になんで土地を離れんだよ。土地神が居なけりゃ天災も人災も暴れ放題だろうが!この荒れ果てた集落を見てみろ。お前が招いたんだ!」


イライラするテューポーンが兎を撫でながら言葉を続ける。


「糞鬼!丸兎(コイツ)が土地神になるまで、この土地を離れんな。古い主人の子孫が住む土地の土地神になりたいなんて、水事(すいじ)しか出来ねえ水神の癖に、土地神よりも上の神格の神の癖に、無理を通してなった癖に。ふざけんなよ糞野郎が。」


汚い言葉使いだが、消し飛ばす事は止めたようだ。


「オリュンポスの(かす)共に穢され侍に荒らされた集落を、お前の全力で生き返らせろ。出来ない時は、お前の一族全てを存在から消し飛ばして()るからな。」




 石像の前に兎を抱きながら歩いて来たテューポーンが胸に抱いた兎を降ろす。


「アバターの使い方は分かるようにしてやった、思い出せ。あっちの雑木林に何人か子供が隠れてる。あいつらの事も頼んだぞマルト。」


茂助の二人の子供を含む18人の子供が隠れていた。皆が痩せて汚れて、見るも無残な姿なのだが。


「はい!茂助さんの望んだ、長閑な景色を護ります。あの子供達も一緒に。」


「うん、気負わずに頑張れよ。んじゃまたな。」


ノシノシと口で言いながら手を振り身体がぶれるテューポーン。ぶれた後には何も存在してなかった。



 水鬼……生きてたのか……

あれ?神になってるって事は死んでるのか?わからん……



 水神が途方に暮れている(やしろ)に1柱の神が舞い降りる。


「みずぅぅぅぅう、無事でござるかあぁぁぁ!」


元は千方の四鬼の1人、風鬼で今は風神となった者。


「なんなのだ今のは、日本所では無い。アジア全土が、会いたくて震える人のように震えておったでござる。」


「テューポーン様に怒られちまった……でもよ、茂助の姉の、お(せん)の所に居たって言ったら、優しくなったよ。」


そして峠の方から、走ってくる者がもう1人。


「水、風。生きてるかー!なんだあれヤバ過ぎるだろ。」


おお!大獄丸と言った二人の神に「今はその名は使っておらん」と言いつつ二人の話を聞く大獄丸が変化している坊主。


「そうか、俺もここに寺でも作るかな。ガキ共が生きてんだろ?なら村も再建出来るさ。人間は(したた)かだからな。」


手伝ってくれるか?と風神と大獄丸に言う水神に


おう!と答える二柱の神。


そして時代は流れ行く。



 平成30年某日、日本列島を未曾有の豪雨が襲う。


「マルトさん、消えそうな身体で無茶をするな、棚田は諦める。」


「何を言うのですか水神様!諦められるわけないでしょう。この丸兎の尊の全てを注ぎ込んででも残してみせます。残しますとも!」


既に祈られる事も無くなって二十年を超える、元々の素体が非力であった事も災いして、存在が保てなくなった丸兎の尊。


「糞が!守っても変わんねえじゃねえか人間なんか!マルトさん、()めることは()めた。骨は拾ってやる。気合いで耐えるぞ。」


空を見れば、鬼の形相で風神が日本列島に掛かる雨雲を吹き飛ばそうとしている。



山から流れる鉄砲水を己の権能で霧散させ続ける水神。

殆ど祈られる事も無くなって居るので最大出力を出す事もできず。


海に出て風を吹かせば、日本列島に異常な程の雲が掛かる事など無いのだが、管轄が違うので列島の上空に来た時にしか対処出来ない風神。


今にも地すべりを起こそうとしている斜面の近くの家に住む老人達を1人1人背負いながら、寺へと避難させる大竹和尚。


そして我らの丸兎の尊は……



「この棚田はねえ!茂助さんの子孫が代々受け継いできた私の大切な思い出なんですよ!負けませんよオリュンポスの神々なんかに、壊されてたまるもんですか!私の全てなんです。」


存在が消えそうになりながら、薄く透ける体を何一つ顧みずに動く。

棚田の崩れ落ちそうな石垣を1つ1つ自分の存在を削り埋めて行きながら。


 そうして夜が明ける。


「マルトうじ、お別れでござるなあ……」


「マルトすまんな、俺たち男鬼は癒しが使えんのだ。」


「兎よい、お前が護った全部、オレが護り続けてやるからな。」


元の形が地蔵だと分からぬほどに風化した道祖神の像の傍らに座り込む、薄く透ける丸兎の尊。


「いえいえ、満足ですとも。最後まで、この風景を護れたんですから。」


三人の神に答える道祖神。もう残された時間は数日あるかも分からぬほどに希薄な物になっていた。



 その日の夕方。


「おや?若竹の黒芽の親分さんじゃないですか?どうしました珍しく奥さんと子供さんを連れ…………。」


牛小屋の裏山に居を構える猫又の若竹黒芽彦が息子の若芽彦と、若芽彦を咥えて運ぶ妻の冬華姫を連れて道祖神の像までやってきた。


「早くこちらに。そんなに力は残ってませんが、何とか良縁を見つけます。」


ああ、もう明日の朝は見れないでしょうねこの景色を……


棚田を眺めながら、目ヤニで目が開かず、風邪をひいて鼻もつまり、腹の中で寄生虫が暴れ周り、怪我をした背中に蛆が湧く若芽彦を、最後の力を使って癒す。

このまま数時間でももって下さいよと思いながら。


 その時に石像の前の畦道を歩く男。

田崎家の次男、田崎和信。


「あれ?牛小屋の所で何時も寝てる黒猫と三毛猫?珍しいなこんな所で。」


逃げていく猫二匹を見て呟いた。そして……


「うわ!子猫!弱ってるじゃん。玉ねぎなんか掘ってる場合じゃなっかったな。どれ病院行くか。」


そう言って背中の傷が癒えた若芽彦を抱え上げる。

唸る若芽彦の爪や乳歯で手が血だらけになるのだが、気にもしていない様子。


「玄翁で指を叩くより痛くないよ、暴れんなこら。病院連れて行ってやるからな。」


そう言って手に持っていた玉ねぎを地面に置こうとする。

その時に石像に気が付いたようだ。


「あったなあ、そう言えば……こんな石像。」


蔦が絡まる石像を見て呟く。


「仕方ない、ちょっと待て子猫。」


そう言って右手で蔦をむしり取り、地面に置こうとした玉ねぎを石像に備えて、片手だけだが祈る。


「なんの神様か知らないけど、この猫ちゃんと育てます。玉ねぎはお供え物に置いていきますね。」


そう言って家に戻っていく、拾った猫を車で1時ほど走らなければいけない、離れた街に向かい動物病院に連れて行く為に。


そしてその時に石像の傍らで座り込んでいた丸兎の尊の神気が回復する。


「はははっ、生き残れましたよ。」



 それでですね、ニノさんのお葬式の後に手を併せに……


「あら、寝ちゃってますね……。」


隣の布団で寝息を立てる我らの主人公。


「ニノさん。あなたのお父さん、今の私にそっくりじゃないですか?あなたのお兄さんの子供の頃って茂助さんの子供の頃に瓜二つでしたよ。」


寝ているニノに向かい話しかけるマルトさん。


「あなたは母親似ですから少しだけ系統が違いますけど、それでも茂助さんの子孫なんですよ。」


薄暗い部屋にマルトさんの小さな呟きだけが響く。


「私は、あの時走った事を何一つ後悔していません。空腹に耐えかねて腐った足を引きずって巣穴から出た後に山犬に食われるだけだった私を身を呈して護ってくれた茂助さんの子孫を見守れてますからね。」


小さく点っていた麦球も消して布団の中に潜り込む。


「茂助さん、あなたに何一つお礼も言えませんでしたけど、今の私は幸せですよ。歩けない私を抱いて移動させてくれてた茂助さんみたく、優しくなれてますかね?」


そう呟いて、寝息をかき始める。


指宿海〇ホテルの一室は、今日も平和です。




これから先の物語でもマルトさんは活躍しますよ。


前話に感想を頂いた晦様、どうでした?

ハッピーエンドでしょ?


読んで貰えて本当に感謝です。


次回から、普段通りのコメディーに戻れるかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] むぐぅ⋯⋯。 兎がそれでいいのならいいけど(口尖らせてほっぺたふくらませながら)。 でも作者は許さん。 て言うか、148話までの流れのとこは二度と読めない⋯⋯。 吾輩は猫であるも初めて読ん…
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