閑話 森を彷徨い辿り着いた土精人
ゴブリン語覚えてゴブリンの村へ。
人の手の入った里山とも言えそうな森の中。
ダンジョンの最深部から転移罠によって飛ばされた四人が歩いている。
「コリンナ義姉さん、食い物はどれくらい残ってる?」
「最深部の転移装置で帰るつもりだったから、そんなに残ってないのよ、火酒だけはある程度残ってるけど。」
獣道と言うには整地された道を宛もなく進む四人。
「しかし、この森は不思議な場所だな。食える実がなる木が多すぎやせんか?」
「確かに色々な果実や木の実がなってますけど、動物が少ないのが気になりません?」
この森に転移して来てから数時間歩いたのだが、鹿の魔物と爬虫類の魔物を見たくらいで、殆ど動物が居ない事が気になるようだ。
「水の確保はせにゃならんて、肉は無くても木の実で飢えは凌げるだろうからな。」
「しかし水が何処にあるのやら。これだけ歩いても見つからないのであれば、道を歩いても仕方ないのじゃ無いのか?」
四人の表情が暗くなる、いかに酒好きで火酒が残ってると言っても、やはり水が無いとどうにもならないようだ。
「おっ!野ウサギがおるな。アルトさん、狙えるか?」
「夜飯の確保に一矢頼む。」
「あいよ、ちょっと木が邪魔だけど、これくらいなら……」
狙いを付けて矢を放つ……しかし……
矢が当たる直前に野ウサギを抱えて矢を避ける緑の物体……
「ゴブリンだ、武器を構えろ!」
1匹見たら100匹居ると思え、そんなゴブリンを見て武器を構える。
転移した時に持っていなかった物は、一緒に転移しなかったようだ。
仕方なく身に付けていたサブウエポンで応戦しようと手斧と片手槌を構えるドルトムントとゴスペル。
腰に付けた魔法触媒でもあるメイスを構える、左手の丸盾は外していたので持っていないコリンナ。
背に背負っていたので持ち込めた金剛木から削り出した弓を構えるも、矢の数が心もとないアルト。
しかしゴブリンは、四人を見て一目散に逃げて行った。
四人に安堵の息が漏れる。
逃げたゴブリンが集落に辿り着いて直ぐに、胸に抱えた野ウサギを離しつつ大声で叫ぶ。
「鉄の武器持った人が来た。早く女と子供と老人を逃がせ。」
集落の男達が手に棍棒を持つ。
鉄の武器に対抗するには心許無いが、これがゴブリンの正しいスタイルだと言わんばかりに。
「どんな人が来たのよ、私が交渉してあげるわよ。」
集落の中の1つの家から出てきた女性が慌てて棍棒を構え戦いに行こうとするゴブリン達を引き止める。
この女性、森精人である。
ゴブリンの集落にエルフ?なんて思った人。
後で説明するから気にしないでくれ。
「背の低い鉄の臭いのする髭の生えた人だった。エメリーさん、交渉で何とかなるのか?」
「鉄臭い髭ならドワーフでしょうけど、どうせ私と同じ転移罠で来た類でしょ。迷ってるだけだろうから、こっちが攻撃しなきゃあっちも戦おうとしないわよ。」
一応武装はしときなさいよ、とエルフに言われ棍棒を持った大人のゴブリンが20名ほどエメリーと言う名のエルフと一緒になってドワーフを見た場所に向かい出す。
女子供老人達が心配そうに見ている。
「心配そうにしなくても、森の中なんだから大丈夫よ。なんかあったら私の植物魔法で拘束するし、怪我をしても回復魔法で何とかしてあげるわよ。」
おお!有難い。さすが森の人。と言う声を聴きながら、ゴブリンから尊敬の眼差しを向けられるエメリー。悪い気はしていないようだ。
ビョルルルルルルと鏑矢の音が四人の頭上に鳴り響く。
エルフの使う交渉を求める鏑矢の音を聞いて、四人が警戒を解く。
「おーーい、そこのドワーーーフーーー。聞こえてるー?」
「聞こえておるぞ、そっちはエルフかー?」
四人が見たものは、ゴブリンを従えて先頭を進む女のエルフ。
後ろに着いてくるゴブリンは、手に棍棒を持ち腰蓑を巻く普通のゴブリンが20体。
「そのゴブリン達は、何じゃ!攻撃するつもりか?」
「そんな事する訳無いでしょ、あなた達がこのゴブリン達の縄張りに勝手に入ってきたんでしょうが。さっさと武器を納めてよ。怖がってるわ、鉄の匂いに。」
エルフに言われて武器を納めたドワーフ四人。
着いておいでと言われてゴブリンの集落へと向かう。
「ここは四大陸の何処かじゃないわ。まだ発見されてない新大陸と言いたい所だけど、それも違う。海の水が塩っぱいからラスト大陸に近い場所なんだろうけど、そんなに広い大陸じゃないわ。ちょっと大きい島って感じかしらね。」
そんな場所で何しとる?なんて聞かれたエメリーが答える。
「この島はね、失われた植物って言われる四大陸じゃ絶滅した植物が沢山生えてるのよ。そんな所に来て研究しないエルフなんて居ると思う?」
「相変わらずエルフは自由人ですねえ。どんな研究をしてるのですか?」
木工大好きアルトが木の特性を一番に知っているエルフと気が合わない訳がなく、集落に着く頃には仲良くなっていた。
「鉄を使う土の人、違うな……技術を培う人。歓迎する、ようこそチョモの集落へ。」
数年前に迷い込んできたエメリー以来、久方ぶりの外からの客に目を輝かせてゴブリン達が歓迎の宴の準備をしている。
このゴブリンの集落、青い月になった魔族の女王パンチョモと同じ血族。ゴブリン最大氏族チョモの一族であった。
宴が始まり四人の持ち込んだ火酒も出された、滅多に聞く事の出来ない四大陸の話を聞いて興奮するゴブリン達。
初めて見る火酒を舐めて目を白黒させているゴブリン達。
薄い石の上で焼いた木の実を頬張るドワーフ四人。
ドワーフ四人に、この場所がどう言う集落なのか説明するエルフ。
宴の夜は進む。
「あんた達四人、この場所でしばらく暮らしなさいよ、四大陸の常識が崩壊するから。」
「常識とは、なんだ?既にゴブリンに対する考え方が変わったのだが。」
エメリーの言葉に答えたのはゴスペル。
他の三人も同意なようで、頷いている。
「試しに野ウサギの事を聞いて見なさいよ。おーーい、オイモ。ちょっとこっちに来て。」
オイモと呼ばれたゴブリンの男の子が野ウサギを抱きながら近付いて来る。
「野ウサギが貴方達ゴブリンにどういった者なのか教えてあげて。」
エメリーに言われた事を考えながら話すゴブリンの男の子。腰蓑すら付けていない、すっぽんぽんである。
「野ウサギは大切な隣人だよ。だってこいつら危ない事に凄く敏感なんだもん。危険が近付いただけで、大きな耳で察知して巣穴に逃げ込むから、それを見て警戒するんだ。」
「食べないのか?野ウサギを。」
四大陸のゴブリンと言えば野ウサギどころか、死肉まで漁る雑食なので、気になって聞いたのはドルトムント。
「食べるわけ無いだろ、野ウサギだよ。沢山沢山、森の恵みがあるのに、なんで野ウサギを食わなくちゃいけないんだ?大切な隣人なのに。」
「ありがとうオイモ。もういいわよ宴にお戻り。」
そう言って、ゴブリンの子供に干した柿を1つ与えるエメリー。オイモが宴に戻って行った後に四人の方に振り返り。
「太古からの生活を受け継いでるゴブリンって肉や魚は食べないのよ。と言うか、この生活スタイルがゴブリンの当たり前なのよね。」
豊かな森の恵みを、必要なだけその日に採取する。
季節が変わればそれなりに違うものが食べられる。
お腹いっぱい食べて、恵みをもたらす森の整備をする。
その日暮らしだけど、ちゃんと生きていけてる。
「なんで四大陸のゴブリンが雑食か分かる?」
四人のドワーフは言葉に詰まる。分かりかけているが、声に出してしまうのが怖かった。
「人が生きる森を奪ったからよ。農地を作るために豊かな森を切り開き。綺麗な水を独占して。鉱物を掘るために山を削る。」
言葉に出せなかった事を言われて衝撃を受ける四人。
「畑を荒らすのだって、元はと言えば住む場所を奪った人のせいじゃない。なのに、畑を荒らす害獣、見つけたら殺すのが当たり前。間違ってると思わない?この集落を見たら。」
言葉に出来ないらしい四人、冒険者をしていればゴブリンの集落を殲滅する依頼など、当たり前のように受けていたからである。
「ここでしばらく暮らしなさいよ。そうすれば、どれだけ自分達が傲慢だったか分かるから。」
どうせ帰る方法を探すのにしばらく暮らさないといけないのだが。
四人のドワーフは、四人共に首を縦に振った。
青い月に薄雲がかかって怪しく光っていた。
エルフ出ましたよ。このエルフ本編にも出てます。探して見てください。
武器を作らなくなる前に、肉を食わなくなります。
次回予告 鍛えた鋼の肉体が唸る。
読んで貰えて感謝です。