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EP.17 美人双子と恋バナ


「じゃあ、行ってくるね。咲愛也も学校気をつけて?」


「うん。お父さんもね」


 玄関を出る直前、お父さんは私を振り返った。


「咲愛也、大好きだよ?」


「――っ!」


(ちょ……お父さんのそういうところが、恥ずかしいんだってば……)


 返事を躊躇する私の脳裏に、みっちゃんの言葉が浮かぶ。


(自分の言葉で、きちんと……)


 みっちゃんに背中を押されるように、私は口を開いた。


「うん……私、も……」


「――っ!」


 お父さんは一瞬目を見開いた後、ゆる~っと笑って出ていった。


「うん。私も、やればできる……じゃん?」


 素直になれた自分を褒めてもらおうと自室に戻ると、みっちゃんの姿は無かった。


「あれっ?みっちゃん?」


 急いでリビングに顔を出す。


「おかーさーん!ねぇー!みっちゃんはー?」


「おはよう、咲愛也」


「おはよー!咲愛也!」


 ぎゅうっ。


「ちょ、ふたりとも朝からあっついよぉ……」


 お母さんもおばちゃんも、私のこと大好きなんだよね。

 キレイでスタイルいいから女の子としてはリスペクトしてるんだけど、朝からこうだと甘すぎて困っちゃう。


 私はぎゅうっと抱きしめられる腕を振りほどき、ふたりに向き直る。


「もー!朝からベタベタしてくれるのはみっちゃんだけでいいのぉ!」


「え~?咲愛也つれな~い」


「咲愛也、ついに親離れ?」


「もうしてるって!親離れ!」


「「え~??」」


 にやにや。


「ふたりともその顔やめて!それよりみっちゃん知らない!?」


「道貴君ならさっき、『忘れ物をしたので取りに帰ります。お世話になりました』って言って帰ったわよ?」


「咲愛也によろしくって、言ってた。『また学校で』だってー」


「えっ」


 私は瞬時に理解する。


 ――逃げられた……!


(そんなぁ!この後は『見つつ見られつ!ドッキドキ生着替え披露会』からの『イチャイチャネクタイ締め新妻プレイ』を楽しもうと思ってたのに……!)


「どうして止めてくれなかったの!?」


 詰め寄ると、ふたりは一層顔をにやつかせる。


「あ~。ひょっとして咲愛也逃げられたの~?」


「ふふっ。道貴君の嫌がることでもしたのかしら?」


 くすくす。


「――っ!違うもん!そんなんじゃないもん!」


「へぇ……?じゃあ、みっちゃんには朝からベタベタしてもらえたのかな?」


「かな?」


「うっ……!」


 正直言うと、物足りない……!


 確かにキスはしてくれたけど、軽く数秒触れるくらいのふわっとしたキスだったし。高校生でお泊りしたんだから、もうちょっとこう、大人っぽいやつでもいいんじゃないかな……なんて。欲張り過ぎかな?


「ううう~!私に何が足りないのぉ!?」


 頭を抱えて声をあげると、再びくすくすと笑われる。


「やっぱ積極性じゃない?」


「ええっ!これ以上!?」


「あら。そんなグイグイなの?」


「いや、咲月。それは見ればわかるでしょ?」


「十分押してるつもりなんだけどなぁ!?ねぇねぇ、どうすればいいの?どうすればいいの?」


 教えて美人双子先輩!

 縋るようにエプロンを掴むと、頭をぽんぽんと撫でられた。


「別に、焦る必要ないんじゃない?咲愛也はそのままでも十分可愛いわよ?」


「でもぉ~!それだとこうして逃げられてるじゃん!?」


「あ、やっぱ逃げられたの?」


「うわ~ん!言わないでよぉ!ってか『やっぱ』って思うくらいなら止めてってばぁ!」


「う~ん。咲愛也の味方はしてあげたいけど、みっちゃんは猫カフェの猫じゃないからねぇ?あんまりしつこくされると疲れちゃうかも?」


「そんなぁ!」


「ふふっ。押してダメなら、引いてみるのもいいんじゃない?北風と太陽の話、小さい頃読んであげたの覚えてる?」


「覚えて、る……」


(押してダメなら、引いてみる、か……)


 私はその言葉を反芻する。


「私にも、できるかなぁ?北風と太陽作戦……」


「うーん。やってみないとわからないんじゃない?恋はトライ・アンド・エラーだよ?なんでも試してみなって。犯罪にならない程度にさ?」


「そうね。普段ベッタリな咲愛也が急によそよそしくなったら、道貴君どうなっちゃうのかしら?それはそれでおもしろそ――ごほんっ。なんでもないわ」


「あのさ……真剣に考えてる?楽しんでるでしょ?私は大マジメなんだよ?ガチ恋なんだよ?愛しくて愛しくて夜も眠れないんだよ?」


 ジト目を向けると、ふたりはサッと顔を逸らす。

 そして、後出しのように付け加えた。


「わかってるって。わかる、わかる。アレはツライよねぇ?こんなに好きなのに、どうして傍にいないんだろうって。想いが込み上げて、ついつい捕まえて監禁したくなっちゃうよねぇ?」


「そうそう。それに、いざ捕まえるとそわそわしちゃって落ち着かなくて。手を出したいのに出せなくて。自分が自分じゃないみたいに、もどかしいのよね?」


「「うん、うん」」


「ええ~……それ、こないだ見たドラマの話じゃなくて?」


「「本心だけど?」」


「…………」


(何そのアブナイ思考。お母さん達って、恋バナしてるとたま~に変なスイッチ入るんだよね。でも、監禁かぁ……)


 それって、朝から晩までみっちゃんと一緒ってこと?


「…………」


 ごはん『あーん』して食べさせあって、遊んで、おんなじベッドでお昼寝して。

 お風呂で背中流してあげて、手作りの晩御飯も『あーん』して、『美味しい。さすが咲愛也、いいお嫁さんになれるな?』なんて言われちゃって。

 夜もおんなじベッドで、昨日みたいに……いや、それ以上――


「…………」


 何ソレ、良くない?


「…………」


 ――ハッ……


「咲愛也?咲愛也がその気なら、わたし達はいつでもなんでも、応援するよ?」


「ふふっ。やってみるの?北風と太陽作戦」


 楽しそうな、ふたりの笑顔。

 ほんと、いくつになっても仲良くつるんで私やお父さんのことからかって……

 しょうがない双子だ。

 けど――


「ねぇ、ふたりとも。作戦……協力してくれる?」


 私がそう聞くと、双子は揃って頷いた。


「ふふっ、もちろん!」


「咲愛也の為なら……」


「「喜んでぇ~!」」


「もー!ウチは居酒屋じゃないよぉ!」


 私は元気よくそう言うと朝食を平らげて制服に着替えた。


(学校でみっちゃんに会ったら……)


 ――作戦、開始だ……!

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