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第31話 その時、頭に浮かぶのは――


 『外』は、危険だ。

 そして、ふたりと過ごす日々は俺にとって、何よりも大切な、かけがえのないものだ。


 確かに、『外』に出たから得られた思い出も沢山あった。ミーナちゃんがウチに来てからは特にそう。けど、だからこそミーナちゃんとの別れは辛かったし、また会えたときは嬉しかった。


 楽しい思い出が多ければ多いほど、大切だという気持ちは重みを増して、守りたい想いは強くなっていく。


 咲月が帰ってこなかったとき。俺の脳裏には一緒にミントティーを飲んだ時の涼やかな笑顔が浮かんだ。その手に灯る、あたたかい熱も。


 咲夜が誘拐されたとき。俺の頭にはジェットコースターに乗った時の咲くような笑顔が浮かんだ。『楽しかったね?』という柔らかい声も。


 ふたりが気を失ったとき。俺の中にはもう二度とこんな思いはさせない、という決意が灯った。

 だから、だから……



「これでよかったんだ……」



 俺はその日一日、胸の中に残るわだかまりを掻き消すようにバイトに打ち込んだ。

 そのおかげか『筋がいい』と褒められ、凄まじい集中力を『これならすぐに即戦力だ』と太鼓判を押された。

 そんな日が二日、三日と続き、バイトに明け暮れる日々を過ごして一週間。俺は深夜か早朝かわからないぼんやりとした時間帯、白んだ街をひとり家路についていた。


(さすがに入れすぎたかな?けど、家に帰ればふたりが迎えてくれるんだ。これくらい……)


 なんてことない。


 今の俺には、ふたりが【(いえ)】にいてくれれば、それでよかった。それ以上は、何もいらない。


(今日の夕飯、何かな?夕飯って言っても、もう朝飯か?咲月、『チンするからいいよ』って言ってるのに、しょっちゅう遅くまで待ってるしな……)


 そんなところが可愛いんだけど。


(咲夜、今日はちゃんと寝れたかな?『哲也君も休まないとダメ!一緒じゃなきゃ寝ないからね!』なんて子どもみたいな駄々こねて……)


 ま、そんなところが可愛いんだけど。


 ふたりのことを考えると、それだけで心がふわふわと軽くなる。足取りも軽くなって、また頑張ろうって気持ちになる。


(さ、帰ったらシャワって飯食って、三時間寝たら次のバイトか)


 今日もやるぞ!と意気込んで横断歩道に足を踏み入れた、その瞬間――


 パァアアアアッ――!!


(え……?)


 眩しいくらいの光が、視界を覆い尽くす。

 同時に聞こえる、鼓膜を裂くような急ブレーキ。


(信号、青だったよな……?)


 そう、だよな?そうだった気がするけど、そうだったっけ?そうだったと、思うけど……



 轢かれたもんは、しょうがない。



(え、これ、どうすんの……?)


 遠ざかっていくドライバーの『大丈夫か!?』。痛みを通り越して熱くなる身体。感覚を失っていく脚。ぼやける視界。俺の脳裏に浮かんだのは……


 眩しいくらいの、双子の笑顔――

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