第一章 第七節 決意
【第一章 第七節 決意】
採石場での仕事の後、他の囚人はみな疲れ切って寝静まっている。
他の囚人同様、疲弊しきって横になっていた俺に隣の部屋にいたオルドが話しかけてきた。
オルド「お前は知るべきなのだ。この国やお主の体のことをな」
スバル「何・・・何だって・・・?」
俺はオルドの言っていることがよくわからなかった。
しかし、オルドは構わず話を続けた。
オルド「お主はこの国のことはどれくらい知っておる?」
俺はソフィアやガイードに聞いたことをオルドに話した。
オルド「なるほど、最低限は聞かされているようだな。ではスバルはなぜ周辺諸国に領土を脅かされてるこの国がなぜ今まで生き残ってこれたと思う?」
考えたこともなかった。
ソフィアも言っていた周辺祖国に脅かされているため勇者である俺に救って欲しいと・・・。
スバル「俺のような転生者を定期的に召喚しているのか・・・?」
オルド「いや・・・異世界からの召喚というのはそんなに簡単で便利なものではない」
たしかに俺が召喚されたとき、ローブの男達は驚いた様子だった・・・。
スバル「では、なぜなんだ・・・?」
オルド「このラフィンデル王国は元々優秀な魔道士を輩出する国じゃった。魔力の高い者は国に大きな利益をもたらす存在として他国にも重宝されたのじゃ」
また魔力か・・・何度も聞かされた言葉だ。
スバル「魔力が高い者がそんなに偉いのか?」
オルド「そうじゃな。この世界で魔法は切っても切れないものじゃ。戦いだけではなくありとあらゆる所に魔法は使われておる」
オルド「例えば、この採石場にしてもそうじゃ。囚人に対して看守の数が少ないとは思わんかね?」
スバル「た、たしかによく考えたら、逃げようと思えばいつでも逃げれるような・・・」
俺は作業中の採石場の様子を思い出していた。
兵士は数人が監視しているだけだったし、こっそり抜け出してもバレないように思えた。
オルド「まぁ採石場の外には魔物もいるからの。身一つで逃げるリスクはかなり大きんじゃが、そもそもワシらの付けている足かせには魔法封止と追跡魔法がかけられておる」
スバル「そ、そうだったのか・・・」
魔物もいるのか・・・今初めて知ったぞ・・・。
この世界について知らないことがあまりにも多すぎる。
オルド「この独房にも感知魔法がかかっているから破壊して逃げようなど考えるんじゃないぞ」
いや・・・するつもりもないし、できもしない。
部屋の壁を見て俺は心の中で思った。
オルド「優秀な人材を他国に輩出することで中立を保っていたラフィンデルが現国王に代替わりしてから国の方針を変えたんじゃ」
オルド「優秀な魔道士を国内に囲って、魔導兵器の研究に没頭し始めたのじゃ」
スバル「魔導兵器・・・?」
オルド「魔力をエネルギーにした兵器じゃ。大量の魔力を消費するが通常の兵器に比べ段違いの破壊力を持っておる」
オルド「その魔道兵器によって周辺諸国と渡り合うだけの軍事力をこの国は手に入れた・・・しかし、そこで問題が起こった」
オルド「魔道兵器用の魔力の確保じゃ、国の優秀な魔道士の魔力を使う訳にもいかない。そこで奴らは・・・」
オルドはいったん間を置いた。
スバル「・・・?」
オルド「・・・奴らは人間から魔力を吸い上げエネルギー化するための装置を開発したんじゃ」
そ、それってまさか・・・俺は王宮の魔導研究所の中にあったあのポットを思い出していた。
スバル「俺の時は魔力の数値を測定するって言っていたが・・・あれがもしや・・・」
オルド「やはり・・・やはりお主もあの装置に入ったんじゃな」
スバル「お主も・・・ってことはオルドも?」
あぁと軽く返事をしてオルドは話を続けた。
オルド「ここや奴隷街の人間の多くは検査という名目で魔力を奪われたものも多くおる。犯罪者や下流街の者をな・・・」
オルド「しかし、強国と渡り合うため国は更なる魔力を求めた、しかし多くの民の魔力を吸い上げるにはリスクが多すぎたのじゃ」
オルド「魔力というものは枯渇しなければ、時間を置くことで回復するものだが、あの装置は人の持つ魔力をすべて吸い上げてしまう」
オルド「そこで国は召喚者に目をつけた異世界の門を通り膨大な魔力を持つ人間、しかもこの世界の人間ではないお主の魔力をな・・・」
なんということだ・・・最初から俺の魔力が目当てで・・・使い捨ての電池のように考えていたのか。
スバル「そ、そんな・・・」
ショックで俺は言葉がでなかった。
オルド「魔導兵器、魔力の搾取、お主の召喚・・・すべて現宰相であるソフィアがバロン王に進言したことじゃ」
オルド「奴はもともと一介の宮廷魔導師に過ぎなかった。それが魔導兵器計画の進言により宰相まで登りつめよった。今や国王も奴の傀儡にすぎぬ」
スバル「ソフィア・・・あいつが・・・!」
俺を嵌めたソフィアに対して悔しさと怒りが沸き上がってくる。
スバル「何が勇者だ!ふざけやがって!!」
オルド「これがこの国の真実じゃ・・・異世界から来たお主には何も罪はない。この老体が謝ったところでお主の怒りは収まらぬと思うが、この世界、この国の人間としてお主に謝罪させてくれ・・・本当にすまなかった・・・」
俺には見えなかったが壁の向こうでオルドが頭を下げている気がした。
スバル「オルドは何もわるくないじゃないか。やめてくれ。でもオルドはなぜ俺にそんなことを教えてくれるんだ?」
オルド「お主がここに来たときに看守達が話しているのが聞こえた。お主が転生者と偽った無能者だということ、罪に問われ奴隷街に落ちたこと、そして二週間後にコロシアムの予選にでることをな」
オルド「お主には諦めて欲しくないんじゃ。この国の人間として、罪深い我々のためにもこの地の底から這い上がって欲しい」
オルド「だからこんなところで朽ち果ててはいかぬ。気力がなくてもそこに置いてある飯を食べて体力をつけるんじゃ」
スバル「オルド・・・どうして俺をそこまで気遣ってくれるんだ・・・?」
オルド「さっきも言ったとおり罪滅ぼしじゃ。魔導兵器を設計したのはこのワシじゃ、ワシももともとは宮廷魔導師じゃったからな・・・」
俺は自身の耳を疑った。
スバル「な!?じゃあなんでこんなところに!?」
オルドの話が本当なら俺をはめた奴らの仲間のはずだが怒りは湧いてこなかった。
それ以上に疑問が大きかったからだ。
オルド「ワシは・・・当初ソフィアの魔道兵器策は国のためになると思っておった。」
オルド「エネルギーを確保するために民を利用することを知るまではな・・・ワシが魔道兵器を造ったせいで多くの民やお主を傷つけてしまった・・・」
オルド「ここに落とされたのはソフィアの魔力搾取策に反対したためじゃよ。ソフィアはワシの魔力を奪いここに落とすことによって邪魔者を消しただけでなく、魔導兵器の設計者であるワシをここで軟禁することで情報が外に漏れるのを防いだんじゃ」
オルド「しかし、そんなこと何の言い訳にもならん・・・本当にすまなかった・・・」
スバル「もういい・・・」
俺の言葉を聞いてオルドは黙ってしまった。
スバル「オルド、あんたは悪くない。俺が・・・俺が必ず何とかする・・・そのために俺は必ずここから這い上がってやる・・・!」
オルドの告白に俺は気力がみなぎっていくのを感じた。
俺は鉄格子の傍に置いてあった夕飯の器をガッと掴み流し込むように食べた。
スバル「さぁ、今日はもう休もう。明日も作業があるからな」
オルド「あぁ・・・スバル、ありがとう・・・」
オルドは声を震わせながら答えた。