第一章 第五節 訓練
【第一章 第五節 訓練】
俺たちは食事した後、食堂でリアーナと別れそれぞれの宿舎に帰った。
スバル「男女で宿舎がわかれているんだな」
ガイード「あぁ、街といっているがここはほぼ監獄みたいなものだ。奴隷街の人数を把握しておきたいために管理しやすいように中央広場や食堂のあるこの地域を中心に東西で男女で別れているのさ」
スバル「なるほど。昼夜問わず兵士が常駐しているのもそのためか・・・」
ガイード「そんなことよりもだ。スバル!お前、俺とコロシアムに出ろ!」
グイっと前のめりになって言った。
スバル「ち、近い近い!そもそもコロシアムってどういうことだ!」
ガイード「あぁすまんすまん!コロシアムっていうのはここより二つ上の中流街で数ヶ月に1回、行われる闘技大会だ」
ガイードの鼻息が荒い。
ガイード「その闘技大会で勝てば報酬がもらえる他、国が定めた回数勝ち上がればここから出られるんだぜ!」
俺はガイードの勢いに気圧されつつ押し返しながら言った。
スバル「い、いやガイード一人で出たらいいだろう。そのパワーがあれば負けなしなんじゃないか?」
俺のセリフにすっと冷静になったガイードが答えた。
ガイード「いや、コロシアムの武闘大会はタッグマッチなんだ。俺はここに堕ちてからずっと相棒になってくれそうな奴を探していたんだが信頼できる人間がいなくてな」
しかしとガイードは続けた。
ガイード「今までお前を見て、そして今日の嬢ちゃんの件を見ても俺はスバル、お前を信頼できるヤツだと確信した」
面と向かって言われ俺は恥ずかしくなった。
スバル「し、しかし、武闘大会って剣とか使うんだろう。武道の経験はあるが武器なんて使ったことないし、人殺しなんて俺には・・・」
俺は映画やゲームなどである血生臭い殺し合いをイメージしていた。
ガイード「安心しな!武闘大会は相手が戦えない状態にするか降参させれば勝ちだ。殺す必要はない。ほとんど死人も出てないしな」
頼む!とガイードに懇願された俺は迷った結果、しぶしぶ了承した。
スバル「ガイードには世話になってるからな・・・ただ、あまり期待するなよ」
ガイード「そうこなくっちゃな!」
ガハハと上機嫌にガイードは笑った。
俺もつられて笑った。
ガイード「お、やっと笑いやがったな!それでいいんだよ!それで!」
*
さっそく翌日から俺とガイードはコロシアムの出場を目標にスケジュールを組むことになった。
コロシアムへの出場枠は決まっており、城から見て南東にある俺たちがいる奴隷街の中でまずは勝ち上がる必要があるらしい。
そこで俺たちは仕事終わりにトレーニングをする約束をして仕事に入った。
ガイード「鉱山仕事の重労働はきついが、実入りもいい。仕事で体作りをして夕方からは技術を磨く訓練をするんだ」
なるほどと俺もガイードを見習ってつるはしをふるった。
そして昼休みになりガイードがもらってきてくれた飯をささっと食べてから席を立った。
スバル「それじゃちょっといってくるよ」
ガイード「くれぐれも兵士に目をつけられないようにな!」
わかったと返事をすると森でリアーナと合流した。
作業に入る前にリアーナにお昼に出され、とっておいたパンを渡した。
リアーナ「え?いいの・・・?」
スバル「どうせ食べてないんだろう?倒れてしまうぞ。ほかの人に見られる前に早く食べるんだ」
リアーナは少し焦ってパンを一生懸命食べた。
リアーナ「スバルさん・・・ありがとう!」
リアーナはニコっとわらってお礼をいった。
リアーナの素直な感謝の気持ちに俺は照れながらいいってと返事をした。
リアーナに薬草の種類を教えてもらい、それらしい草を摘み取っていく。
傷を癒すもの、魔力を回復させるもの。いくつか種類があるらしい。
スバル「それにしても、どうしてこんなに薬草がいるんだ?」
リアーナ「わからないけど・・・戦争に備えてるんじゃないかって・・・」
戦争・・・たしか、他国の脅威に常にさらされているソフィアが言っていたな。
鉱山で獲れる鉱石も装備や武器に加工されるらしいとリアーナが教えてくれた。
コロシアムで勝ち上がった選手を奴隷街から出すのも兵士として登用するためなんじゃないだろうか・・・。
死亡者が少ないのも貴重な人材を消耗させないためなのかも。
色々と考えている間に結構時間がたち、集めた草をリアーナに見せた。
リアーナは手際よく、薬草とそうじゃない草をよりわける。
結果あまり残ってないが少しは役に立てただろうか。
リアーナが持っていた籠を見てみると俺が集めた何倍もの草が入っている。
・・・さ、さすがに手馴れている。
スバル「す、すまん手伝うといってあまり役に立てなかったな・・・」
そんなことないとリアーナは強く首を振った。
リアーナ「一緒に仕事できると楽しいし・・・それに・・・スバルさんは優しいし・・・」
もじもじしながらリアーナは恥ずかしそうに言った。
気を使ってくれてるのであろうリアーナの言葉に俺はうれしくなった。
スバル「そろそろ、俺は戻るよ。あ、それと昨日のようにあの女たちに絡まれたら俺の名前を出すといい」
はい。と返事をしてペコリとお辞儀をしてリアーナは先に集合地点に向かった。
少し時間を置いたのちにガイードに合流して午後の作業を終えた。
仕事の後、食堂でガイードと飯を食べてるとパタパタとリアーナがこちらにやってきた。
スバル「リアーナ、うまくいったか?」
リアーナ「うん!今日はご飯食べれる!」
そういってお盆の上のご飯を見せてうれしそうに報告してくれた。
隣いい?と聞いたので快く返事をした。
ガイード「飯を食い終わったら訓練開始だな。今日は初日だからな。まずはお互い何ができるか確認しておこうぜ」
リアーナ「訓練?」
ガイード「あぁ、俺とスバルはコロシアムに出るつもりなんだ」
ガイードが説明してくれた。
リアーナ「じゃ、じゃあ・・・これ役に立つかな・・・」
そう言うとリアーナは周りに見られないように昼間にとったのと同じ薬草を俺達に見せた。
ガイード「嬢ちゃん、それは薬草じゃねーか」
リアーナ「スバルさんもガイードさんも鉱山で働いてるから怪我とか多そうだなと思って」
どうやら俺達のために昼にとっていた薬草を少しだけ隠して持って帰っていたらしい。
ガイード「こいつぁいい、この薬草は薬にせずこのままでも使っても効果はあるからな。思い切って訓練もできるぜ!」
スバル「ありがとう・・・!大事に使わせてもらうよ」
そういうと俺はリアーナの頭を優しくなでた。
自分の取り分が減ってしまうのに俺達のために持ってきてくれたことが何よりも嬉しかった。
リアーナ「んっ・・・あ、あの・・その・・・」
リアーナは照れくさそうに俯いてしまった。
しかし、嫌がってはいないようだ。
*
リアーナと別れた俺達は宿舎には戻らず街のはずれにきていた。
ガイード「よし、ここらへんでいいだろう。人の目にも付きにくいしな」
スバル「こんな所でやるのか?」
宿舎からも結構離れていて、暗くなると何も見えなくなりそうだ
ガイード「おいおい、スバル忘れちまってるのか?俺たちはまずはコロシアム出場のためにここで予選を勝ち上がらないといけないんだぞ」
スバル「あっ!」
ガイード「そうだ。この街の奴らも既にライバルってことさ」
なるほど、訓練を見せ手の内を明かすのは上策ではないということか。
スバル「なるほどな、で、今日は何をするんだ」
ガイード「前にも言ったがまずはお互い何ができるかを確認しておきたい。タッグマッチは個の力も重要だがコンビネーションや相性も大事だからな」
俺は前の世界にいたときにやっていた格闘技のことを説明した。
ガイード「なるほどな。打撃、投げ、関節技、一通りできるのは大したもんだ。だが・・・」
ガイード「戦争がほとんどない国だったってことは対武器に対しての訓練なんかはなかったんじゃないか?」
ガイードの指摘は正しかった。
俺がやっていたのはあくまでもスポーツとしての格闘技・・・。
ガイードの言うとおり武器を持った人間用ではないし、人を殺したこともない。
ガイード「まぁそう落ち込むな。予選までは1ヶ月、本選のコロシアムまではさらに1ヶ月ある」
そういうと拾った木の棒で地面に線を書いてスケジュールを書いた。
ガイード「最初はお前のやっていた格闘技の動きを見せてくれ。そのあとは俺と実践形式の訓練だ。武器を持った人間に対しての立ち回り方や対処の訓練をしよう」
スバル「そ、それだけで予選を通過できるのか?コンビネーションが重要なんだろう」
ガイード「おいおい、あくまでも俺たちの目標は本選を勝ち抜けることだ。だからこそ基礎が大事なんだろうが」
ガイードの言うことはもっともだった。
スバル「そうだな。わかった!ガイード、これからよろしく頼む!」
ガイード「あぁ、任せな!ここからだ。ここから俺たちは上に登っていくんだ」
こうして俺たちの訓練が始まった。
*
最初数日はガイードに説明された通り、お互いにできることの把握につとめた。
その後は木剣をもったガイードに対して武器を持った人間に対する回避や受け方を学んだ。
時間がないから剣や槍を新しく覚えるより、今の技術を磨いたほうがいいだろうという判断だった。
ガイードは俺の体力を考えて訓練メニューを組んでくれていたが鉱山仕事のあとの訓練はさすがに堪えた。
スバル「ガイード、お前は俺のことを一般人とは違うと言っていたが、ガイードこそ何者なんだ?」
訓練を開始してそれなりにたって俺はガイードのことが気になっていた。
武器の扱いにもたけ、訓練中の指示も的確、さらにこの体格だ。
かなりの強者であることは素人の俺でもわかった。
ガイード「あぁ~~・・・言ってなかったか。俺は元々この国の百人隊長さ」
百人隊長っていうことは100名規模の兵士を束ねる隊長ということになる。
スバル「な!?聞いてないぞ。通りで強いわけだ!で、でもそれこそなんでこんなところに・・・」
ガイード「いやぁ・・・なんだ・・・そのだな・・・」
なんだか煮え切らない
ガイード「貴族を思い切り殴っちまった。ガハハハ!」
笑いながら答えた
下流街で民をいじめていた貴族の一人を思い切り殴り飛ばしてしまったとのことだ。
元々優秀だったガイードは上司からも疎まれていたため、ガイードの言い分は通らず彼は奴隷街に堕とされたらしい。
スバル「チッ・・・この国はそんなヤツばかりなのか・・・」
聞いてて腹が立った。
ガイード「まぁ元々、この国は構造的にそういう人間が生まれやすい国ではあるな・・・」
階級制を敷いているこの国の人間は特に下に落ちることを嫌う、そして上の人間は下の人間を見下す構造になってしまっているのだ。
ガイード「まぁ、俺のことはいい。お前とも出会えたし。俺だってこのままここで燻っている気はないからな!」
さぁ訓練の再開だ!とガイードは仕切りなおした。
スバル「ガイード・・・」
俺は俺のことを信頼してくれたガイードのためにも強くならなければと心に強く思った。