第一章 第四節 転機
【第一章 第四節 転機】
数日後、俺はもともと体を鍛えていたこともありすでに鉱山仕事になれ始めていた。
午前中の作業が終わり昼飯を食べているときだった。
ガイード「だいぶ、仕事にも慣れてきたようだな」
スバル「あぁ、いつまでにお荷物ってわけにはいかないからな」
ガイードと話をしながら昼飯を食べていたら薬草採取組が戻ってきた。
ぞろぞろと薬草を集めていた人々が森から出てきた。
そして、その一番後ろにトボトボと俯いて歩いている女の子に目が入った。
スバル「あの子・・・」
次々と兵士に自分の成果を報告していき、最後にあの女の子の番が回ってきた。
バシィ!
兵士は音がこちらにも聞こえるほどの強烈は平手打ちで女の子をぶった。
あまりの衝撃の強さに倒れた女の子はその場から動けずにいた。
そして、その様子を見てニタニタと笑っている女たち。
あの女の子が集めた薬草を脅し取った奴らだ。
スバル「・・・・・・」
俺は怒りによって体が熱くなっていくのを感じた。
ガイード「やめておけよ」
俺の様子を見て、ガイードは静かにいった。
しかし、俺は兵士が自身の腰についている警棒に手を回した瞬間、反射的に動いていた。
ガイード「あ、スバル!おい!」
ガイードはスバルを止めようと手を伸ばしたが、スバルの方が一歩早かった。
兵士「貴様のような役立たずはもう必要ない!」
兵士は倒れた女の子に手に持った警棒を振り下ろそうとした。
女の子「ヒィッ!」
倒れながら頭を抱えて震える女の子。
しかし、自身に衝撃が来ないことに不思議に思い恐る恐る兵士を見た。
女の子「えっ・・・?」
兵士「貴様!何をするか!」
俺は兵士が振り下ろした警棒を受け流し、その腕を脇に抱え抑え込んだ。
兵士「き、貴様ぁ!最下層民が我々に逆らうのか!」
スバル「フッー!フッーー!」
俺は怒りのあまり言葉が出てこなかった。
兵士「き、貴様ぁ!我らに逆らう気か!」
兵士は俺の顔面を殴ったがアドレナリンが出まくっている俺は痛みを感じなかった。
兵士の腕を抑えながらを睨みつけた。
スバル「もう、もういいでしょう・・・。意味なく人を減らして生産性を落としてもいいんですか」
怒りをなんとか抑えつつ、兵士に言った。
兵士「ぐっ・・・!」
そんな俺の様子を見て、兵士はたじろいだ。
ガイード「お、おい!スバル」
俺が殴られたのを見てガイードがこちらに向かってくる。
ガイードの容姿を見てさらに竦んだのか悪態をついて下がった。
女の子のことを笑っていた女性たちも俺の様子を見て慌てて去ろうとした。
スバル「おい・・・」
俺の言葉に女たちはビクンと体を揺すりこちらを恐る恐る見た。
スバル「この子から二度と付きまとうんじゃあない」
女「な、なんの権利があって・・・!」
一人の女が反論しようとしたが
スバル「二度とだ・・・!」
俺は女たちをにらみつけた。
女「ヒィ!」
女が逃げるように去っていった。
女の子は自身に何が起こったかわからない様子だったが、兵士に呼ばれて慌ててこちらを見てペコリとお辞儀をしたらそそくさと去って行ってしまった。
それを見た俺とガイードは持ち場に戻った。
持ち場に戻りつつガイードが話しかける。
ガイード「まったく冷や冷やさせられるぜ」
ガイードは俺の肩に手をポンとおいていった。
俺はそこでようやく冷静になった。
スバル「はっ!す、すまない・・・他人事と思えなくて」
ガイード「まぁお前がここに来た理由を聞いているからな、わからんでもないが目をつけられると厄介だぞ」
スバル「そうだな。本当にすまなかった・・・」
なぁに気にするな!とガイードは笑って許してくれた。
*
仕事が終わり俺とガイードは食堂で夕食を食べていた。
食事をしながらガイードが話かけてきた。
ガイード「しかし、スバルお前本当に一般人か?うまく兵士の攻撃をいなしていたが元の世界で何かやっていたのか」
昼の事件の話を思い出してガイードが興味深そうに聞いてきた。
スバル「いや・・・少し格闘技をかじっていただけさ」
ガイード「かじっていたってレベルじゃないと思うが・・・ふむ。よし、決めたぞ!」
ガイードは何かを決意したように言った。
ガイード「スバル、お前、ん?おい?後ろ」
何かを言おうとしたガイードが何かに気が付いて俺にいった。
俺が後ろを振り返ってみると、お昼に兵士から助けた女の子が立っていた。
女の子「あ、あの・・・その・・・」
女の子は何か言おうとしているが人見知りなのか中々口にしようとしない。
俺は彼女が落ち着いて話せるまで待った。
女の子「きょ、今日は助けてくれてありがとうございました!」
そういうと思い切りお辞儀をしてその場を去ろうとした。
スバル「ちょ、ちょっと待って」
女の子が俺の声にビクっとしその場に止まって恐る恐る振り返った。
スバル「君、ご飯食べてないんじゃないか?」
女の子「だ、大丈夫です。いつものことなので・・・」
それって・・・俺は初日のこと思い出していた。
いつもあの女たちに手柄を横取りされていたのか・・・。
よく見ると彼女の手足はやせてガリガリだった。
スバル「俺、ちょっと食べきれないから。これよければ食べてくれないかな」
えっと女の子は俺の方をみた。
女の子「いいの・・・?」
残して捨てるのもったいないからさと俺は女の子にパンを差し出した。
女の子は俺の隣に座りパンに貪りついた。
やはり空腹だったのか。
女の子「はぐ!あぐ!うぐ・・・!」
のどを詰まらせた女の子にすっと水を差しだす。
女の子「んぐ!んぐ!んぐ!ぷぁ・・・」
落ち着いたようで女の子に聞いてみた。
スバル「君、いつもあの人たちに自分の手柄とられているのか?」
女の子は俺の言葉に下をうつむいた。
答えようとしなかったが沈黙がすでに俺への質問に対して答えを出していた。
スバル「そうか・・・」
俺はこの時、自分がどうしたいかすでに決めていた。
俺の様子をニヤニヤして見ていたガイードに気が付いた。
スバル「な、なんだよ?」
ガイードの様子に俺はなんだか恥ずかしくなりガイードに聞いてみた。
ガイード「いや、スバル。お前はやっぱりここに落ちる様な悪い奴じゃねーな。俺の目に狂いはなかったってわけだ」
スバル「なんだよそれ。それよりガイード、明日からの仕事なんだが昼休みの間、この子を手伝ってもいいか」
ガイード「構わないが大丈夫か?ただでさえ鉱山仕事は大変だぞ」
スバル「大丈夫、無理はしないさ」
ガイード「お前がいいなら別にかまわないがよ。無茶だけはするなよ」
あぁわかったと俺は返事した。
自身のあずかり知らないところで話が進み女の子は混乱していた。
女の子「えっ?えっ?どういうこと?」
女の子は俺とガイードの顔を交互にみて困惑した表情を見せた。
ガイード「このおっさんが嬢ちゃんと薬草取りしたいんだってさ。むさくるしいかもしれないが許してやってくれよ」
ガイードが冗談ぽくいった。
おっさんは余計だ。
事実だが・・・。
女の子「そ、そんなことない・・・でも、どうして!?」
人を助けるなんてここじゃおかしい事なんだろう。
みんな自分のことで精いっぱいなんだろうな・・・。
スバル「なんでだろうな。他人事のように思えなくて、それに・・・」
俺はそこで口をつぐんだ。
俺の時も誰も助けてくれなかった。
知り合って日は浅いが信じられるのはガイードくらい、だったらこの女の子にも信じられる人間がいてもいいではないかそう思ったのかもしれない。
スバル「そ、それより君の名前は?俺の名前はスバル。こっちはガイードだ」
ガイード「たしかにな!嬢ちゃん名前はなんていうんだ?あといくつなんだ?かなり幼く見えるが・・・」
女の子ははっとした。
リアーナ「わ、私はリアーナ。歳は16・・・」
16と言えば高校生くらいか?
リアーナというこの子は背丈も小さく中学生くらいに見える。
ガイード「リアーナかいい名前だ。でも嬢ちゃんみたいな子がなんでこんなところに」
リアーナはうつむいてしまった。
ガイード「す、すまん。つい気になってな」
リアーナ「いいの。私のお父さんが借金してそれで・・・」
スバル「それ以上言わなくていい。すまなかった」
リアーナはふるふると頭を振った。嫌なことを思い出させてしまったようだ。
スバル「そんなことより明日からよろしくな!」
そういって俺はすっとリアーナに手を出した。
リアーナ「はい・・・!」
リアーナは俺の出した手にきゅっと両手で握り返した。
スバル(かかわった以上、無責任なことはできないな・・・)
俺の手を握るその小さな手を見て誓ったのだ。