第一章 第三節 奴隷街
【第一章 第三節 奴隷街」
俺は護送車であろう馬車に乗せられて初めて城の外に出た。
スバル「俺はどこに連れていかれるんだ・・・」
ダメ元で同伴している兵士に聞いてみた。
兵士「貴様はこの国の一番最下層にある通称"奴隷街"に送る」
奴隷街・・・名前を聞いただけで既に嫌な予感しかない。
兵士「貴様はそこで一生、我が国のために働くのだ。無能の犯罪者にはお似合いだな。命があるだけでも国王陛下に感謝しろクズめ」
俺はこれから自身に起こることを想像すると絶望しかなかった。
*
しばらくして馬車が止まった、外で何やら兵士が話しているのが聞こえ、その後ギギギギッと音が聞こえた。
鉄の格子が付いた窓からうかがってみるとどうやら門があるみたいだ。
スバル(上の階級の街と下の階級の街の間には門があるのか・・・)
その後、さらに2つの門を通過して、ようやく目的地に到着し、馬車はゆっくりと止まった。
ガチャリと鍵が開く音がし、護送車の扉が開かれた。
同伴している兵士に出ろと言われ抵抗を諦めていた俺は素直に外に出た。
外に出て見回してみると後ろには大きな門、上の階級の街とここをつないでるであろう門。
そして目の前には兵士の詰め所だろうか?何人かの兵士が見える。
さらに奥には木製のボロボロの家屋が見える。
本当に最下層のスラム街のようだ。
兵士が何やら手続きをしているようでその間に、別の兵士が俺の手につけられていた手かせを外した。
兵士「ふむ、でかいな。体格もいい・・・。ではこっちにこい!」
兵士に連れていかれ長屋のようになっている建物の一室に連れてこられた。
兵士と共に中に入ってみると中に一人の男がいた。
俺よりも背は高くガタイのいい男だった。
兵士「おい!ガイード!今日からこいつと相部屋となる。ここの仕来たりを教えてやれ!」
そういって俺の背中をドンと押すた。
俺はこけそうになりながらも踏ん張り、ガイードと呼ばれる男の前に立った。
ガイードと呼ばれる男「あぁん?」
じろじろとこちらを見てくる。
顔も厳つい。
いきなり殴られたりしないよな・・・などと考えていると。
ガイードと呼ばれる男「さっさと俺の部屋から出ていきな。貴様らを見ていると反吐が出る!」
ガイードは兵士に吐き捨てるように言うと、兵士たちは舌打ちしながら部屋を後にした。
兵士の足音が遠ざかるとガイードと呼ばれる男はその場にどすっと座って俺に声をかけた。
ガイードと呼ばれる男「いつまでも突っ立ってねーで、ここに座んな」
俺は言われるがまま、その場に座った。
ガイードと呼ばれる男「あんた名前は?」
スバル「スバル・・・タスク スバル」
ガイード「スバルか、俺はガイード・グラムヘイムだ。よろしくな」
そういうとニッとほほ笑んで俺に手を差し出した。
感じのいいヤツだな。
しかしこいつも信用していいのか・・・。
スバル「あ、あぁ・・・」
俺は手を握り返した。
ごつごつとした力強い手だ。
ガイード「で、お前は何をやらかしたんだ。ここに落とされるヤツはだいたい何かやらかして落ちているはずだ」
今まで起こったことをフラッシュバックのように思い出し、悔しさがこみ上げた。
スバル「俺は、俺は何もしていない!!」
悔しさのあまり俺は叫んだ。
ガイード「・・・・・・訳ありか。話してみな」
スバル「どうせ信じてくれないさ・・・」
ガイード「いいから話してみろ!」
ガイードに気圧された俺はここまでの経緯をぽつぽつと話し始めた。
ガイード「なるほどね・・・スバルは別世界の住人ってことか」
スバル「こんな突拍子もない話、信用できないだろ」
俺だって信じることができない位だしな・・・。
夢だったらどれだけいい事か・・・。
ガイード「いや、俺は少なくともスバルが王を嵌めようとしたとは思えない。お前の目はそんな目をしていないからな」
スバル「え・・・?」
俺は自分の耳を疑った。
今までこの世界で俺の言うことを信じた奴なんていなかった。
スバル「信じてくれるのか・・・こんな荒唐無稽な話を・・・」
俺は泣きそうになっていた。
ガイード「おいおい!泣くなよ!少なくてもこんなんで泣く奴が王を騙すなんて大それたことするかよ!」
ガハハと笑いながら言った。
スバル「な、泣いてなんかない!」
この世界に来て、初めて心に温かいものが宿った気がした。
スバル「それでも・・・ありがとう・・・」
ガイード「よせよせ、照れるだろ!」
ガイードは手をひらひらと振るジェスチャーをした。
ガイード「そんなことより、ここに来たばかりだろう。俺がここの仕来たりを教えてやる」
ガイードにこの奴隷街の話を聞いた。
そもそもこの国は大陸の西の果てにあって上の階級に行くほど西側にある。
そして最底辺の奴隷街は街に2か所、王宮から見て北東と南東にあるらしい。
ここに送られる理由は様々、罪を犯した者、魔力が全くない者、無一文になり自ら落ちる者もいる。
ここに住む者は城から出る仕事をこなさないといけない。
ガイード「簡単にはこれくらいだな。いったん明日は俺についてこい。慣れるまでは一緒に仕事をしようぜ」
スバル「わかった。ガイード本当にありがとう・・・」
よせよってガイードは照れ臭そうに手を振り部屋の隅に行き横になった。
俺は反対側の隅で横になった。
固い床でボロボロの布一枚しかないが、精神的に疲れていたのかすぐに眠りについた。
*
ガイード「おい、スバル。起きろ。朝だぞ!」
ガイードの声に俺は目覚めた。
部屋の壁の隙間から朝日が差し込んでいる。
スバル「ん・・・いてて・・・」
固い床で寝たせいで体の色々なところが痛い。
ガイード「斡旋所に行くぞ。そのあと飯にしよう」
俺はうなずいてガイードについていった。
斡旋所と呼ばれるところで各々にあった仕事を選べるらしい。
楽な仕事もあるらしいが見返りも少ないとのことだ。
ガイードが仕事を取ってきてくれるとのことで待っている間、俺は周りを見てみた。
すると子供や女性の姿も見えた。
複数種類の仕事があるのもああいった人たちでもできる仕事を国が回して生産性を上げているのかもしれない。
ガイード「おーい、スバル仕事とってきたぞ!」
少ししてガイードが札のようなものを持って戻ってきた。
ガイード「この札をもって所定の場所にいって指示を受けるんだ。今日は鉱山で採掘の手伝いだな」
ゲームのクエストのようなものか。
ガイードについていき、所定の位置で複数の荷馬車に乗って鉱山でつるはしを手に鉱石を掘る作業をした。
森のそばにある鉱山で穴掘りを始めたがつるはしの重さ、岩肌の固さに体がすぐに悲鳴をあげる。
スバル(ゲームなら簡単なのに・・・こんなに大変なのか・・・)
ガイード「スバル、無理はするなよ。こういう仕事は初めてなんだろ?」
ガイードはそんな俺をしり目にガンガン掘り進んでいく。
すごいパワーだ。
昼になり休憩時間がとられた。
ガイード「昼飯もらってきてやったぞ。ちゃんと食っておかないとぶっ倒れるぜ」
パンクズが入った粗末なスープだったが、飯が出るだけでもありがたかった。
飯を食べながら周囲を見渡してみると俺たちとは違う別のグループがいた。
スバル「ガイード、彼女たちは・・・?どう見ても鉱山で穴掘りなんてできないような人たちばかりだが・・・」
ガイード「あぁ、あれはこの辺に生えている薬草を集める仕事をしているグループだな。この辺は傷を癒すための傷薬の素材になる薬草の群生地なんだ」
そういった簡単な仕事は女性でもできるからなとガイードはいった。
ふぅんと言い様子をうかがっていると森から数名の女性が見えた。
よくみると一番背の低い女の子から何か受け取っているように見える。
スバル「ガイード・・・あれは?」
ガイード「あれは、あの子の集めた薬草を脅し取ってるんだ」
スバル「な!?いいのか!そんなこと!?」
ガイード「兵士たちはノルマさえ達成できれば俺たちには興味はない、それにあぁいった仕事は基本的に出来高払いだからな・・・」
女の子から奪っただろう女たちは兵士たちに報告しにいく。
その後ろからトボトボと女の子がうつむきながら歩いていく。
報告した女性たちは兵士たちから報酬と交換してもらえるための割符をもらっていた。
そして女の子は・・・。
兵士「こんな簡単な仕事もろくにこなせないのか!ぐずが!」
兵士に叱責されていた。
ガナード「ここに配置されるような兵士は出世街道からも外れているからな。ああいう子は兵士の憂さ晴らしにされるわけさ・・・」
見てて胸糞が悪くなる。自身が捕まった時のことを思い出した。
バシィ!兵士が女の子に平手打ちをし、女の子はその場に倒れた。
スバル「なっ!!」
俺はそれを見て血液が沸騰するような感覚を覚えた。
ガイード「スバル、やめておけ」
俺の肩をガイードはぐっと掴み押さえた。
ガイード「王族に対しての罪、さらには無能力ときている。ここで兵士に目をつけられるとお前・・・死ぬぞ」
スバル「ぐっ・・・」
俺は奥歯を噛み締めていた。
女の子は直ぐに立ち上がりペコペコと兵士に謝った。
兵士「ふん、もういい!さっさといけ!」
女の子はそそくさとその場をあとにした。
俺は後味の悪い、モヤモヤとした気持ちのまま午後の作業にあたり、そのまま初日を終えた。
*
俺はガイードと共に奴隷街にある食堂で飯を食っていた。
大したものはでないがそれなりに量が食べられるのはありがたかった。
ガイード曰く鉱山仕事のような重労働は飯も多くありつけるらしい。
ガイード「初めての鉱山仕事だから堪えただろう?しっかり飯を食っておけよ!」
昼のこともあったのかガイードは気を使って元気に話しかけてくれた。
スバル「あぁ・・・ありがとう」
俺は食事をしつつ周りを見渡した。
奴隷街の人間は街の中央にあるいくつかの食堂で仕事後に食事を取るようだ。
すると見覚えのある姿が見えた。
スバル「あの子は・・・」
昼間、兵士に叱責されていた女の子だ。
食堂の入口で食事をしている人を羨ましそうに見ている。
しかし、すぐにその場をさってしまった。
スバル「あっ!」
俺はその場で立ち上がった。
ガイード「スバルどうした?」
ガイードは俺の行動に驚いた様子で聞いてきた。
スバル「あ、いや・・・何でもない・・・」
俺に何ができるって言うんだ・・・。
俺は自分の力のなさに嫌気が差しつつ席に着いた。
ガイード「・・・」
俺とガイードは食事を終え、宿舎にもどってきた。
鉱山仕事の疲れがどっと出たのかとてつもない眠気が襲ってきた。
ガイード「いろいろあって疲れただろう。今日はさっさと寝ちまいな。仕事は明日もあるからな」
俺は倒れこむように寝床に横になり、そのまま眠りに就いた。
その後、2日目以降も俺はガイードとともに鉱山仕事をこなしていった。
そして鉱山仕事に慣れ始めた頃、事件は起こった。