第一章 第二十ニ節 異形
【第一章 第二十ニ節 異形】
デミトロ「な、えっ!?はっ!け、け、決着うぅぅぅぅぅぅ!!」
デミトロの声に一瞬の間をおいてコロシアム内外から大きな歓声が上がった。
ガイード「ったくヒヤヒヤさせやがって」
スバル「それは、お互い様だろ」
地面が揺れるほどの歓声の中、俺とガイードはディディを背にして互いの拳をガツンと合わせた。
ガイード「それにしてもとてつもない威力だったな。あれがお前の力か」
スバル「そうみたいだ。でもロロのくれたネックレスがなければ力に飲み込まれていたかもしれなかった・・・」
そういってネックレスを手に取ると、黒い宝石がすでに亡くなっていた。
スバル(最後の一撃の時に砕けてしまっていたのか・・・あれで決めれてよかった)
あのまま戦っていたらどうなっていたか考えただけでも恐ろしい。
バロン王「ば、バカな!巨人兵が倒されるはずが!」
ソフィア「くっ!ま、まさかあれほどとは・・・!」
バロン王は目の前で起こったことが信じられない様子で慌て、ソフィアは悔しさのあまり親指の爪を噛んでいた。
リアーナ「す、すごい!本当に倒しちゃった・・・!」
ロロミア「当然です!スバル様は門を通った勇者様なのですから!」
ロロミアとリアーナは顔を見合わせて嬉しそうに喜んだ。
リアーナは羨望のまなざしでスバルを見る。
リアーナ(スバルさん・・・やっぱり本当にすごい勇者様なんだ・・・!)
しかし、その時
ビクン、ディディの死体が動いた。
リアーナ「!!」
リアーナが気づいたと同時にソフィアもディディの動きに気が付く。
ソフィア「・・・!そこの者!」
兵士「はっ!」
ソフィアが兵士の耳元で指示を仰ぐ。
バロン王「ソフィアよ、どうしたのだ?」
ソフィア「陛下、まだ終わっておりませぬ。どうぞ、お座りになってください」
バロン王「な、なんだと!?し、しかし・・・」
バロン王は信じられないといった表情だがソフィアに従い玉座に座りなおした。
リアーナ「スバルさん!ガイードさん!ま、まだ!!」
リアーナは歓声の中、必死に叫んだ。
ロロミア「えっ?リアーナちゃん?どうして・・・はっ!」
ロロミアはリアーナの言葉に驚いたがすぐに自身もディディを見た。
ロロミア「二人とも、まだ終わってません!!」
ロロミアもリアーナと一緒に懸命に叫ぶ。
*
俺はガイードと入場ゲートに向かって歩いていた。
リアーナとロロミアがどんな表情しているか気になって二人がいる方を見てみた。
スバル(何かを叫んでいる・・・?)
しかし、あまりの歓声に声は届かなかった。
ガイード「スバル!あれはどういうことだ!?」
俺はガイードの声に反応して入場ゲートの方を見た。
スバル「あれは・・・結界!?」
予選の時にも見た、魔法による結界、しかし、なぜ!?
ガイード「スバル、どうやらまだ終わってないようだぜ」
ガイードが指をさす方を見ると首を失ったディディが立ち上がっていた。
その異様な姿にコロシアム内からは悲鳴が起こる。
スバル「化け物か・・・」
ガイード「気合い入れなおせよ。ロロの嬢ちゃんも言ってただろ。不死身の生き物なんていねーんだ」
スバル「あぁ!」
ディディ「ゴポギョポギャガガガガ!」
ディディは首のあったところからおぞましい声を上げる。
聞いたこともないような声に俺は全身がすくむ様な感覚に陥った。
ディディの首からどす黒い血が大量に噴き出しそこから新しく二つの頭が出てきた
???「あがぁぁぁぁ」
その顔はディディとは別人の顔だった。
ガイード「あ、あれは・・・ディディじゃねぇ。一つはガブルだ。もう一つの頭はわからないが」
スバル「ディディに喰われた人たちか・・・」
ガイード「そうみたいだな。ということはあの二人をやれば倒せるのか」
スバル「っ・・・!」
ガイード「スバル、気持ちはわかるが俺たちにあいつらを助ける術はない。覚悟を決めろ!」
スバル「わかっているさ・・・!」
ソフィア「ハハハハ!バロン王よ、ご覧ください!もはや巨人兵ではございません。名づけるなら双頭巨人兵です!あの力があればもはや帝国などおそるるに足りません!」
バロン王「す、素晴らしい!素晴らしいではないかソフィアよ!」
バロン王はすっかり上機嫌になる。
彼には目の前で起こっていることがいかに異常な事態かわかっていなかった。
双頭巨人兵「ゴァァァァ!!」
双頭巨人兵は右手に持っていた自身から引きちった左腕を左肩に突き刺す。
突き刺さった左腕はすぐに体に固着し、双頭巨人兵は三本腕になった。
ガイード「これは・・・おとぎ話の魔界のモンスターのようだな」
目の前に立ちはだかるモンスターに百戦錬磨のガイードも思わずポロリとこぼした。
臨戦態勢を取るガイードを俺は抑え、ずいっと前に出る。
スバル「ガイード、ここは俺に任せてくれないか」
ガイード「何言ってやがる。任せるってどうするんだ?」
スバル「魔力を・・・開放する」
ガイード「・・・いいのか?」
スバル「あぁ、ここからは消耗戦になる。俺が奴をしとめたら・・・俺を止めてくれ」
ロロミアからもらったアイテムはもう効力が切れている、多分俺は力に飲まれるだろう。
しかし、俺たちの目の前にいるモンスターは魔力無しで勝てる相手じゃない。
腹をくくるしかなかった。
ガイードは素早く闘技場の端で防御態勢を取る。
魔力開放に合わせ黒いオーラが俺の体全身を包む。
スバル(イメージしろ血が巡るように全身に魔力をめぐらセろ・・・)
スバル「おぉぉぉオアァァァ!」
リアーナ「スバルさん・・・」
ロロミア「リアーナちゃん・・・もう、こうなっては祈るしか・・・」
リアーナ(スバルさん・・・どうか、どうか、無事で・・・)
潰ス・・・こ、ワス・・・滅スる・・・ぐ、ぐぅう・・・。
俺の中が負の感情で溢れ、意識が遠のいていくのを俺は必死で耐えていた。
黒い靄のような物で視界がはっきりしないが目の前に殺意をもった物体がこちらを攻撃してこようとしているのはわかった。
スバル(ぐっ・・・意識を保つので精一杯だ・・・)
双頭巨人兵「ゴルロロァァァ!!」
双頭巨人兵が三本の腕をスバルに次々と叩きつけていく。
ガイード「ぐっ・・・土煙で!スバル!」
双頭巨人兵「オゴォアァァァ・・・・ア?」
スバルを殴り続けていた双頭巨人兵は自身に起こっていた違和感に気が付いた。
ガイード「化け物の腕が・・・消えた!?スバルか!」
双頭巨人兵の腕がなくなっていることに驚いたガイードは土煙からスバルの姿を探した。
土煙が晴れ、スバルが見えたがそれはガイードの知っているスバルではなかった。
装備は下半身のみとなり半裸状態になっていたがその体は黒く染まり赤黒い血のような色をした模様が体中に広がっていた。
ガイード「ス、スバル・・・本当に大丈夫なのか・・・?」
双頭巨人兵「ギャアアアアァァァァ?」
腕の失い悲鳴をあげるガブルの首とは別にもう一つの首は何かを唱えていた。
ガイード「詠唱!?もう一人は魔導士か!?スバル、早く攻撃しろ!魔法攻撃が来るぞ!」
ガイードが叫ぶもののスバルは動こうとしなかった。
ガプルの首「アガ・・・オアガガアア」
魔導士の首の魔法詠唱によりカブルの口に魔力が込められていく、ガブルは本能的に口を塞ぎ抑えようとしているが口元からは炎が噴き出していた。
ガイード「くそ!スバル!!」
スバルを守るためにガイードが走り出すが双頭巨人兵の魔法攻撃のほうが早く間に合わない。
魔導士の首
強力な魔力が込められた炎のブレスがスバルに襲いかかる。
ガイード「スバルっ!!!」
ガイードも近寄れないほどの強烈な魔法攻撃、しかしその強力な魔法攻撃の中、黒い影が双頭巨人兵に向かって突っ込んでいく姿が見えた。
双頭巨人兵「!?」
黒い影がガブルの首を貫くと、カブルの首が黒い炎に包まれた。
しばらく燃えるとズブズブと灰となり消え去ってしまった。
ガブルを貫いた黒いオーラの塊は双頭巨人兵の背後に落ちるとスバルが現れた。
ガイード「ス、スバル・・・」
魔力を消費した影響か、体に浮き出ていた線が顔にまで達し、目まで赤黒くなっていた。
ガイード「魔人・・・」
その姿はもはや人間といえるのかどうかわからなかったがガイードは見守ることしかできなかった。
残った魔導士の首が再び魔法を詠唱を行う。
魔導士の首
スバルの頭上に巨大な氷塊が現れ、スバルを押しつぶそうとする。
しかし
スバル「・・・・・・」
スバルが空を仰ぐと黒い炎が瞬時に氷塊を蒸発させてしまった。
自身の攻撃が全く通用しないことがわかったのか、双頭巨人兵は恐怖のあまり後ずさった。
スバルが手を空にかざし、魔法詠唱を行う。
コロシアム上空に巨大な黒雲が現れ雷鳴が響いた。
その光景に会場全体どよめく。
ロロミア「な、なんという魔力・・・これがスバル様の・・・」
リアーナ「で、でもこのままじゃ、スバルさんが・・・!」
何かを感じ取ったのかリアーナがスバルを心配そうに見つめる。
スバル「・・・ブラックラムダメテオフォール」
手から黒い光が上空に伸びていき黒雲の中から黒い炎に包まれた隕石が落ちてきた。
スバルがそのまま手を下すとスピードを上げ、隕石が双頭巨人兵めがけて落ちていく。
途中、闘技場内に張られた結界があるものの、スバルの強力な魔法にあっさり砕けてしまった。
魔導士の首
逃げ切れないことが悟った双頭巨人兵もスバルの魔法に対して防御魔法を張る。
隕石が双頭巨人兵の魔法障壁とぶつかる。
双頭巨人兵「ウギ、ググゥ、ガアアアアアアァァァァ!!!!」
双頭巨人兵は何とか耐えようとするが圧倒的魔力と質量に押しつぶされた。
隕石が地面に叩きつけられたことで強烈な土煙がコロシアム全体を包む。
ガイード「がはっ!ごほっ!がはっ!ど、どうなってるんだ!?」
土煙が張れると双頭巨人兵の姿はなく、地面には小さなクレーターとその周囲には双頭巨人兵の残骸らしき物が四散していた。
ガイード「とんでもねぇ力だな・・・はっ!スバルは!?」
ガイードは目線を上げるとスバルは平然とした様子で立っていた。
ガイード「やろぉ、あんだけ強力な魔法を使ったのに飄々としてやがる
スバル「・・・・・・」
スバルと目が合うと一歩こちらに足を出した。
ガイードはそれに合わせ臨戦態勢を取る。力を解放する前のスバルの言葉を思い出していたからだ。
ガイード(俺に止められるのか・・・?チッ!らしくねぇな。やれるかどうかじゃねぇ!やらなきゃなんねーんだよ!)
スバルは徐々にスピードを上げこちらに突っ込んでくる。
ガイード「くっ・・・来るか!」
手足に黒いオーラをまとったスバルはクレーターがある手前で跳躍し、ガイードに魔力を込めた打撃を繰り出す。
ガイードは咄嗟に盾でガードするものの、魔力の籠った強烈な打撃に押し返されそうになった。
ガイード「ぐっ!スバル目を覚ませ!」
土煙がほぼ晴れ、観客からも闘技場内の様子が伺えるようになった。
双頭巨人兵が倒され、観客は歓喜に沸き返るかと思ったが、スバルがガイードを襲っている様子にどよめきが起こった。
リアーナ「スバルさん!!」
ロロミア「くっ!やはり、魔力に飲まれてしまっている・・・」
リアーナ「ロロさん、スバルさんは・・・!」
ロロミア「このままだと、完全に魔力に飲まれて暴走してしまいます・・・」
リアーナ「そ、そんな・・・!」
リアーナは予選の時のことを思い出していた。
しかし、バァン!と大きな音がして、リアーナは闘技場に目を向けた。
すると、ガイードがスバルの攻撃によって盾をはじかれてしまっていた。
リアーナ「ダメ・・・ダメ!!」
ロロミア「リアーナさん!」
リアーナはその様子に考えるより先に体が動いていた。
ガイード「チィ!盾が!」
ガイードはスバルの攻撃を何とか剣で受けるものの魔力がこもった重たい打撃、さらにダメージが蓄積され追い詰められていった。
ガイード「ぐっ、しまっ!」
スバルの攻撃で態勢をくずしたガイードにスバルが追い打ち掛けようとした時だった。
ピタッ
突如、ガイードとスバルに割って入ったリアーナの顔のすぐ前でスバルの手刀が止まる。
リアーナ「スバルさん、戻ってきて!このままだとスバルさんはスバルさんじゃなくなる!」
リアーナの声にもスバルの表情は変わらないものの、リアーナに向けられた手はブルブルと震えていた。
ガイード「スバル・・・嬢ちゃんを傷つけるのか?お前が!!」
スバル「ガッ・・・ウ・・・ガ・・・」
リアーナやガイードの声に苦しみだスバル。
リアーナ「スバルさん!戻ってきて!!」
*
スバル「ここは・・・俺はコロシアムで・・・」
俺は門のある闇の空間に立っていた。
スバル「試合は・・・?もどらないと!」
俺は門を探して走った。
門の位置は感覚でわかっていたからだ。
門があるはずの場所についた。
スバル「いつもなら・・・」
俺はきょろきょろと周りを見渡したが魔法陣が光る様子はない。
スバル「おかしいな・・・おい!あけてくれ!急いでるんだ!」
俺の声に呼応するかのように魔法陣が光りだした。
しかし・・・
スバル「いつもと様子が違う・・・」
たしかに魔法陣は光った、しかしいつもとは違い黒い炎で描かれた魔法陣だった。
その光に照らされた地面がせり上がり黒い影のような塊が人の形になっていった。
スバル「影・・・あれは、俺・・・?」
影「なぜ、戻る」
影が俺に向かって問う。
影「なぜ、貴様はあの世界に戻ろうとする」
スバル「なぜ・・・?それは・・・」
影「あの世界は?貴様の味方か?否、あの世界は敵だ」
スバル「・・・・・・」
俺は今まで自身が受けた仕打ちを思い出していた。
影「我に身を委ねろ。全てを破壊してくれる」
スバル「破壊・・・」
影「そうだ。貴様も感じただろう。全てを破壊する神の如き力を」
スバル「はぁ・・・お前、本当に俺か?」
影「何・・・?」
スバル「俺がそんなもの求めてるわけないだろ。それにあの世界だっていいところはあるさ」
影「・・・・・・」
スバル「さっさと門を開けてもらおうか。待たせてる奴らがいるんでな」
影「させない・・・」
スバル「何?」
影「あの体は我の物だ!」
そういって影がこちらに手を向けると、俺の足元から黒い蔓のようなものが現れ俺を縛り付けた。
しかし、俺には恐怖はなかった。こいつが俺に勝てないことがわかっていたから。
スバル「意識を取り戻した時点でお前の負けなんだ・・・俺の意思が優先される。当然だ。おまえは”影”なんだから」
体を縛る黒い蔓を引きちぎり俺は影を殴り倒した。
影「・・・次・・・次こそ・・・・・・」
そう言い残すと影は消滅した。
俺は扉に近づき、両手で押し開けようとした。
手が扉に触れた瞬間、黒い魔法陣を上書くかのように魔法陣は光だし扉が開いた。
開いた扉からあふれ出る光に俺の体は包まれていった。
*
スバル「!・・・ここは・・・」
俺が目線を上げてみると、傷だらけのガイードとその間に割って入るように立つリアーナの姿があった。
スバル「すまない、二人とも・・・また迷惑かけた・・・ようだ」
リアーナ「スバルさん!!」
ガイード「まったくだぜ。貸しにしておいてやるよ」
スバル「あぁ・・・」
俺は気が抜けてしまったのか、また気を失ってしまった。