第一章 第二十節 決勝
【第一章 第二十節 決勝】
準決勝を終え、食事後に休息をとるために俺たちは各々の部屋に戻った。
戻って早々、疲れ果てた俺たちはベッドに横になった。
俺が天井を見つめているとガイードが声をかけてきた。
ガイード「ようやく、ここまで来たな」
スバル「あぁ、なぁガイード・・・」
ガイード「なんだ?」
スバル「ありがとな」
ガイード「どうしたんだ。急に」
スバル「奴隷街に落ちた時にガイードに出会わなかったら俺はあのままあそこで腐っていたかもしれない・・・」
ガイード「どうだろうな。お前は自分の道は自分で切り開ける力を持っていると思うがな」
スバル「それでも、ありがとな」
ガイード「まだ気がはえーぞ。明日きっちり勝ったらまた言ってくれ」
スバル「あぁ」
*
俺はベッドでしばらく目をつぶっていたが疲れているはずなのに寝付けずにいた。
スバル(全然眠れない・・・明日のことで緊張しているのか・・・?)
俺はガイードを起こさないように部屋から出て、コロシアム内を散策した。
スバル「夜は開いてるのか」
闘技場への入場ゲートが開いていたのを見て俺は誘われるように闘技場内で向かった。
闘技場内は昼と違ってしんと静まり返り、中央は月明かりに照らされてとても神秘的だった。
闘技場内にいると今までの戦いのことがフラッシュバックするように思い出される。
スバル「明日・・・明日で全てが決まる」
リアーナ「スバル・・・さん?」
声が聞こえてきたので入場ゲートのほうを見るとリアーナがこちらを覗いていた。
スバル「リアーナ?寝れなかったのか?」
リアーナ「うん・・・明日のこともだけど今日の試合のこと思い出すと寝れなくなって・・・」
スバル「・・・・・・」
俺が返事に困っているとリアーナがぎゅっと抱きついてきた。
リアーナ「スバルさん戦う度にボロボロになっていく・・・このままじゃスバルさんが!ううっ・・・」
俺はリアーナの頭を優しくなでる。
スバル「リアーナ、心配かけてすまない。でもガイードやロロも、もちろんリアーナもいる。それに俺だってこんなところで死ぬ気はないさ」
リアーナ「絶対に・・・?」
スバル「あぁ」
俺はリアーナが落ち着くまで頭をなで続け、落ち着いたところでリアーナを部屋まで送り届けた。
スバル「絶対に負けるわけにはいかないな・・・」
*
決勝の朝、俺は普段と変わらずガイードより早めに目が覚め、いつも通り瞑想を始めた。
そしてしばらくするとガイードが目を覚ました。
ガイード「ちゃんと集中していたな。決勝だからといって気負っている様子はないな。いい状態だ」
スバル「あぁ、体も軽い。やれそうだ」
ガイード「今日勝って俺たちを落とした奴らに吠え面かかせてやろうぜ!」
*
決勝戦が行われるコロシアムには観客が押し寄せ、コロシアムの周りでも普段の決勝より多くの投影魔法によるビジョンが映し出され大いににぎわっていた。
それもそのはず、剣闘大会史上初めて無能者を含む、それも奴隷街の人間が決勝に残ること自体が前代未聞のことなのだ。
デミトロ「皆様!ついに!ついに!ここまでやって来ました!剣闘大会決勝戦んんんん!!!」
デミトロの声に会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
デミトロ「もはや前置きは不要!!さっそく選手を紹介させていただきます!」
デミトロ「誰がこの選手がここまで上り詰めると想像したでしょうか。武器無し、魔力無しの拳闘士がまさかの決勝戦に出場!!スバル、ガイードコンビ!!」
俺たちの紹介の後、会場から一気に完成が上がり、地面が揺れるような感覚に陥った。
ガイード「おいおい、俺の紹介がねーじゃねーか。スバルずいぶん人気者になったな!ガハハハ」
ブーイングが起こらないことに機嫌をよくしているのかガイードは冗談っぽく言った。
ガイード「スバル、手を挙げてやれ」
スバル「えっ?」
ガイードに言われるまま俺が手を挙げると観客からさらに声が上がる。
リアーナ「す、すごいあれだけブーイングがあったのに・・・」
ロロミア「えぇ!完全に観客を味方に付けています!」
リアーナ「きっと、きっと勝てるよね!ロロさん!」
ロロミア「え、えぇ!きっと大丈夫です!」
リアーナに流れる弛緩した空気、しかしロロミアは不安を感じていた。
ロロミア(でも・・・決勝の相手は・・・)
デミトロ「対する相手は剣闘大会常連!上流街出身で高い魔力と戦闘力を持つ誇り高き我らが国王軍兵士!!ディディ、ガブルコンビ!!!」
デミトロの紹介でまたコロシアム内に歓声が上がる。
ガイード「ディディとガブルか・・・また手ごわい奴が勝ち上がってきたな」
スバル「知り合いか?」
ガイード「あぁ、王宮兵士時代の同僚だ。魔法も剣術も基礎がしっかりしてるからな。準決勝のネイド、ギレミアより腕が立つぞ」
スバル「それは苦戦しそうだな・・・しかし・・・!」
ガイード「あぁ、勝つのは俺たちだ!」
俺たちは再び気合を入れなおした。
しかし、デミトロの紹介が終わりゲートが開いてもディディとガブルは闘技場に出てこない。
ガイード「どうしたんだ・・・?便所か?」
スバル「嫌な予感がするな・・・」
*
――決勝戦数分前、西ゲート
スバル達の対戦相手であるディディとガブルの入場ゲートだが、そこには宮廷魔導士数名が何かを準備していた。
ゲートの中心には拘束具に繋がれさらに光の鎖によって拘束された剣闘士2名がいた。
宮廷魔導士A「気をつけろ、魔力供給過多でもはや自我はない、獣と同じだ」
宮廷魔導士B「ゲート入場よし。内門を閉じろ拘束魔法を解くぞ」
宮廷魔導士C「しかし、こんな化け物と戦わされるなんてな」
宮廷魔導士D「あぁ、あの無能者は災難だな。確実に殺されるぞ」
宮廷魔導士A「おい!私語を慎め!さっさと術式を解除するんだ!」
宮廷魔導士C「わかったわかった」
ゲートの内門が閉まっていることを確認すると宮廷魔導士は光の鎖で拘束されている二人に魔法を詠唱し始める。
宮廷魔導士たち「アースデルタブレイクバインド!」
宮廷魔導士たちが魔法を唱えると光の鎖が砕け拘束が解けた。
剣闘士A「カハァ・・・」
光の鎖が消え、口が利けるようになっても獣のように唸ることしかしなかった。
宮廷魔導師D「おい、大丈夫なのか?まともに戦えないってことになったら俺達の責任問題になるぞ」
宮廷魔導師A「黙って見ていろ!」
剣闘士B「ガァァァ!!」
宮廷魔導師たちがしばらく様子をみていると剣闘士たちは自身を締め付ける金属製の拘束具を無理やり破壊し始めた。
宮廷魔導師B「す、すごい・・・」
宮廷魔導師A「注入した膨大な魔力が身体機能を大きく変容させているんだ。その代償として二度と人には戻せんがな」
宮廷魔導師C「兵士全員に強化を施せば、帝国ですら敵じゃない・・・!」
宮廷魔導師D「あぁ、閣下は恐ろしい物を作ったもんだ・・・」
宮廷魔導師たちが興奮気味に話をしていると剣闘士たちの様子に異変が起こる。
剣闘士A「う、うぅぅ・・・」
剣闘士B「あぁぁぁ・・・」
剣闘士たちは頭を押さえはじめた。
宮廷魔導師C「お、おい・・・どうしたんだ?」
宮廷魔導師A「い、いや・・・わからない」
宮廷魔導師D「おい!何頭を押さえてるんだ役立たず共!てめーらが戦えねーと俺達が困るんだよ!」
宮廷魔導師の一人が剣闘士たちに罵声を浴びせ内門の格子をガンっと叩いた。
剣闘士たち「・・・!」
格子を叩いた音に反応して剣闘士たちはピタリを動きを止めた。
宮廷魔導師D「な、なんだよ・・・どうしちまったんだ・・・」
宮廷魔導師A「!お、おい!早くそこから離れえるんだ!!」
宮廷魔導師D「えっ?がっ!・・・グアガァァ!」
中央にいたはずの剣闘士の一人がいつの間にか内門に移動し、宮廷魔導師の首を掴んでいたのだ。
宮廷魔導師D「が、だ・・・だずげ・・・」
宮廷魔導師C「ひ、ひぃ!は、離せ!」
首を掴まれている宮廷魔導師が近くにいた魔導師の腕を掴むが掴まれた魔導師は恐怖から思わずその手を振り払った。
宮廷魔導師D「ぎ・・ガァ・・・ガペッ!」
首を掴まれた宮廷魔導師はそのままグチャリと喉を握りつぶされた。
宮廷魔導師A「退け!ここも危険かもしれん!扉を閉じるんだ」
残った宮廷魔導師たちは急いで入場ゲートから退避しようとしたその時。
メキ・・・ベキメキョバギ・・・パキ・・・
異様な音に王宮魔導師たちは恐る恐る振り返った。
宮廷魔導師C「ひ、ひぃ・・・あ、あいつら、く、喰ってやがる」
宮廷魔導師A「魔力を貪り食ってるんだ・・・肉体から直接な・・・」
宮廷魔導師B「さ、さっさと行くぞ!早く開場させるんだ!」
そういうと宮廷魔導師たちは慌てて出て行った。
クチャグチャペチャ・・・
*
デミトロ「ディディ!ガブルコンビ!!」
デミトリの声により歓声が大きく上がる。
しかし、開かれたゲートから二人の姿は出てこなかった。
デミトロ「ディ、ディディ選手?ガブル選手・・・?」
再度、デミトロが再び紹介してもゲートからディディとガブルは現れなかった。
デミトロ「えっと・・・あれ・・・」
選手が出てこずデミトロはどうすればといった表情をして王の方を見た。
デミトロの視線にバロン王は頷き開始の合図を送る。
デミトロ「え、えぇーで、では決勝戦開始ぃぃぃ!!」
デミトロが半ばやけになって開始の合図を出したが選手がいないコロシアムに観客もあっけにとられ開場は静まり返った。
しかし、闘技場内にいるスバルとガイードだけはただならぬ気配を感じ取っていた。
スバル「ガイード・・・」
俺は自然と額から冷や汗が落ちるのを感じた。
ガイード「あぁ・・・危険なヤツがいるな」
ガイードも剣と盾を握り直した構えた。
ガイード「スバル、後ろに下がれ!」
ガイードの声に反応し、俺は素早くガイードの後ろに下がった。
するとゲートから何かが飛んできてガイードが盾でそれを受け止めた。
ドチャ
受け止めたものがそのまま下に落ちた。
スバル「こ、これは・・・腕!?」
地面に転がっているのは人間の腕だった。
女性観客「キャァァァァァ!!」
飛んできた腕に気が付いた観客の一人がショックのあまり叫びだした。
それに伴いどよめく観客席。
デミトロ「へ、陛下・・・どうすれば・・・!?」
あまりのことにデミトロも同様しバロン王の方を見た。
バロン王「構わぬ、続けよ」
デミトロ「し、しかし・・・あの腕は」
バロン王「構わぬと言っているだろう。さっさと始めよ」
デミトロ「う、で、では・・・は、はじめぇぇ!!」
スバル「このまま始めるようだな」
ガイード「誰の腕だ・・・?ディディかガブルか・・・?」
スバル「あいつがそうじゃなきゃどっちかの腕かもな」
俺はそういってゲートの方を指をさした。
すると体調3mを超える巨漢がゲートから出てきた。
スバル「あいつはディディか?ガブルか?どっちだ・・・」
ガイード「ディディだが、アイツあんなにでかくなかったぞ。それに明らかに様子がおかしいな・・・」
スバル「あぁあの口元の血、自分のものじゃなさそうだ。アイツ仲間を食ったのか?」
俺とガイードが警戒しているとディディらしき巨漢はこちらを見つけたようで目が合った。
その目に瞳はなく、濁った眼をしており明らかに異常をきたしていた。
ディディ?「オゴォアァァァァ」
ディディらしき巨漢は人間のものとは思えない雄たけびを上げた。
スバル「やるしかないようだな」
ガイード「あぁ、喰われるわけにはいかないしな!」