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奴隷拳闘士の下克上  作者: ためため
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第一章 第二節 転落

【第一章 第二節 転落】

 スバル「ん・・・あれ・・・ここは・・・?」


 そこは薄暗い石造りの部屋で下はひんやりしていた。

 地面で寝ていたようだ。


 スバル「俺は・・・どうしたんだ・・・?たしか・・・城で装置に入って、急に眠気が・・・」


 意識がはっきりしてきた俺は体を起こし辺りを見渡してみた。

 見渡してみてわかった。

 ここは牢獄だ。

 石造りの部屋、壁に小窓はなく・・・そしてなにより目の前には立派な鉄の格子・・・。


 スバル「また別の世界に転送されたのか・・・?」

 兵士「フンッ!何を言っている無能力者め!」


 近くに兵士がいたようで、俺の声を聴いて吐き捨てるように言った。


 スバル「えっ・・・」


 俺は声に驚いて反射的に返事をしてしまった。


 スバル「無能力者ってどういう意味だ・・・?」

 兵士「・・・」


 兵士から返事はなかった。


 スバル(ど、どういうことだ!?)


 無能力者・・・?


 ここが意識が無くなる前と同じ世界なら俺は勇者として喚ばれたはずだ・・・。

 仮に勇者じゃなかったとしても俺は何もしていない、牢屋に入れられるいわれはないはずだ。


 スバル「何かの間違いだろう?俺は勇者として呼ばれたはずだ・・・そうだ!ソフィアさんと話をさせてくれ!」

 兵士「馬鹿も休み休み言え!貴様のような無能力者がソフィア様と話せるわけがないだろうが、裁判まで黙っていろ!」


 裁判・・・?何もしていない俺が?何で!?何の罪で!?ショックで頭が真っ白になりそうだった。


 スバル「俺は・・・何もしていない・・・何の罪なんだ・・・」

 兵士「黙れと言っている!貴様何ぞに答える義理はない!」


 もう何を言っても無駄のような気がした。


 スバル「く・・・なぜだ・・・」


 何度考えても思い当たる節がない。


 スバル「裁判・・・まてよ。もし俺の世界と同じような裁判なら・・・」


 裁判ということは陪審員や弁護士のような人間がいてもおかしくはない。

 こちらの事情を説明すれば勇者の称号などは剥奪されても罪に問われることはないのではないか。


 俺は自身に起こったことを話せば信じてもらえると思っていた・・・。

 この時はまだ少し楽観的だったのかもしれない。



 *



 牢屋に入れられてどれだけ時間がたったかわからないが少し遠くからガシャガシャと鎧が鳴っているのだろうか数人の兵士の足音が聞こえた。

 俺の牢屋の前に来ると鉄格子の鍵を開け、汚いものを見るような目でこちらを睨み「出ろ」とだけ言った。


 俺は素直に言うことに従い牢屋を出ると兵士は俺の手に手枷をつけさらに俺を挟み込むように立った。

 そして後ろに立った兵士が俺の背中を乱暴に押し「グズグズするな!歩け!」と言った。


 スバル「くっ・・・裁判なんだろう!?弁護士に面会はないのか!」


 背中を押されたことに対しさすがにイラっと来た俺は兵士に要求した。

 しかし、俺の前に立つ兵士がこちらを向き「黙れ、無能者が!」といって俺の腹を一発殴った。


 スバル「ぐぁ!うぐ・・・」


 また無能者・・・どういうことだ・・・。


 いきなり腹を殴られ思わず腹を抑え、うずくまるが後ろの兵士が強引にたたせ俺を歩かせた。

 何を言っても無駄だ・・・そう感じた俺は腹を押さえながら兵士たちについていった。


 しばらく歩くと闘技場のような広間に出た。

 屋内にあるわりにはかなりの広さがある。

 円形の闘技場の周囲には観客席のような場所があり大勢の身分の高そうな人間がいた。


 部屋の中央まであるかされ、じっとしているように言われると兵士は少し後ろに下がった。

 さらに奥から兵士が来て俺を半方位する形で達、抜剣し抜いた剣を地面に突き立てた。


 俺の正面には豪華な観覧席があるどうやらかなり身分の高い人間が観覧する場所なのであろう、観覧席の足元にいる兵士が声高らかに言った。


 兵士「ラフィンデル第7代国王、バロン陛下御入場!」


 兵士の声に合わせて玉座の裏の天幕から国王とソフィアが出てきた。

 国王は玉座に座りこちらをにらみつける。最初に合った印象とは全く違うこちらを侮蔑するような目だ。

 そしてソフィアはバロン国王の少し前に立ち声高らかに言った。


 ソフィア「これより、被告人スバルタスクの王族に対する詐欺罪についての裁判を行う!」


 さ、詐欺罪!?何を言っているんだ!?


 ソフィア「被告人、スバルタスクは自身を救国の勇者と名乗り王を騙し報酬を得ようとした。このことに間違いはないな?」

 スバル「な、なにを言っているんだ!?俺を召喚したのはそっちだろう!」

 ソフィア「ふむ、自分は無罪だと言い張るのだな」


 俺は別人とでも話をしているのか?


 スバル「無罪もなにも、俺はこの世界に来たばかりだ!右も左もわからないのに何もしようがないじゃないか!」

 ソフィア「貴様が勇者ではない証拠もある、証人を呼びなさい!」


 すると研究所にいた研究者の一人が合わられ表情一つ変えず説明し始めた。


 研究者「その者が異世界から来た勇者であるならば異世界の門を通ったはずです」


 た、たしかに俺は通った。俺は研究者に向かっていった。


 研究者「異世界の門は通った生物に対して蓄えた膨大な魔力を付与するのです。なれば勇者となのる被告人には計り知れない魔力がその身に宿っているはずです」


 ソフィアに最初に説明されたことをもう一度説明された。何がいいたいんだ・・・。


 研究者「しかし・・・その者の我が魔道研究所にある魔力測定装置にて計測した結果、魔力の痕跡は皆無、無能者だったのです」


 無能者という言葉に周囲がざわめいた。


 貴族「無能者だと!?」

 貴族「なんでそんな人間がこの城にいるんだ!」


 無能者という言葉に観覧席にいた人間たちがざわめき、俺を一斉に罵倒し始めた。

 なかなか収まらない怒号に王がすっと手を挙げ制した。


 バロン王「ふむ、何か反論はあるか被告人よ」

 スバル「反論も何も、魔力がなかったとしてもそれが何だというんだ!俺に魔力がなかったとしても金品も何も要求なんてしていない!」

 ソフィア「黙りなさい!無能者!無能な貴様が王と拝謁することすらおこがましい!」


 な、何を言ってるんだ。無能だからなんだというんだ。


 ソフィア「そして、貴様その服はどうした。召喚されたのなら自身の世界の服を着ていたはずだ。」

 スバル「はぁ!?こ、これはソフィアさんがくれたんだろう!?」

 ソフィア「私はそのような服は知りません。そして街の裁縫店から、衣服が盗まれたという情報が入っています」


 な、なんだと、まさか・・・心の底から嫌な予感がした。


 ソフィア「王よ、その裁縫店の店主を証人として呼んでいるのですがよろしいでしょうか」


 体中からは脂汗がで、顔からは血の気が引き、胃が締め付けられ吐き気がこみあげてくる。

 裁縫店の店主と呼ばれる男が現れてこちらを見た。

 俺は目を合わせるのが怖く目を伏せた。

 店主はこちらを指さして声を荒げた。


 店主「それだ!うちの商品だ!数日前に盗まれたものだ!」


 恐れていたことが現実となった。


 ソフィア「やはり、そうででしたか。我が国の服を盗んで国の人間になりすまし、さらに勇者を名乗ることにより王より金銭をだまし取ろうとした!」


 何だ・・・何故なんだ・・・俺が何をしたんだ・・・。

 もはや何も考えられなくなっていた。


 ソフィア「被告人も反論ができないようですね。もはや決まったも同然だが弁護人、何かあるか」


 ようやく弁護士がよばれた。

 

 弁護士・・・いるんだ。

 

 俺にも少しは希望がある・・・!

 かすかに光が差したような気がした。

 しかしそれは幻想だったとすぐに気が付いた。

 

 弁護人「私は被告人と面会した際に、被告人は自身が行った行為に対して涙ながらに反省しておりました。先ほどソフィア様に食い下がったのは自分の身を守ろうとして出たウソだと思われます」


 もはや言葉もなかった。俺はただただこの茶番を茫然と眺めていた。


 弁護士「王よ、この者の罪は許されざるもの。しかし、面会時には本人も心の底から反省している様子でした。どうか極刑だけはお控えくださいますようお願い申し上げます」


 そういうと弁護士と言われた男は深々と頭を下げて王に懇願した――いや、しているように見えた。


 スバル(あいつ、笑ってやがる・・・)


 弁護士を見るとニヤニヤと笑ってやがる。

 俺の中にどす黒いものがどんどんこみ上げてくるのがわかる。


 ソフィア「ふむ、弁護人もここまで申しております。王よ、本来ならば王族に対する罪は反逆罪も含まれますがここは極刑を避けることもまた王の器かと」

 バロン王「そうだな。それでは被告人スバルタスクは最下層民への追放と刑務作業への従事を命ずる!」


 ソフィアがそれを聞くと「連れてゆけ!」と叫んだ。

 俺は反論する気力も失い、兵士に引きずられるようにずるずると闘技場を後にした。

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