第一章 第十九節 準決勝
【第一章 第十九節 準決勝】
ガイード「スバル!おい!しっかりしろ!スバル!!」
ガイードは倒れたスバルにすぐさま近づき、傷の深い左腕を布でしっかり縛り肩に担いだ。
リアーナ「スバルさん!」
ロロミア「ガイード様、すぐにスバル様を医務室に!」
試合が終わり入場ゲートが開いたのに合わせてリアーナとロロミアが駆け寄ってきた。
ガイード「あぁ!急いで治療してやってくれ」
ガイードがスバルを医務室のベッドに寝かせるとロロミアが回復魔法を唱える。
ロロミア「アクアドライヒール」
ロロミアの魔法にスバルの体が光で包まれ目立った外傷が癒えていく。
ロロミア「出血などは収まりましたが、それでも血が流れすぎました。次の試合戦えるかどうか・・・」
リアーナ「スバルさん・・・」
ガイード「スバル、ここで終わりなんてことないだろ?」
*
スバル「ん・・・お、俺は・・・どうして・・・」
リアーナ「スバルさん!」
リアーナが心配そうに俺の顔を覗き込む。
ロロミア「よかった!スバル様」
スバル「ロロ・・・ここは?」
ロロミア「ここはコロシアムの医務室です。2回戦に勝利した直後、倒れられて・・・」
スバル「・・・!お、俺はどれくらい寝ていた!?」
ガイード「心配するな。準決勝までにはまだ時間はある。しかし、お前、体は大丈夫なのか?」
スバル「あぁ!大丈夫・・・な、うっ・・・」
俺は勢いよく起き上がろうとしたが強い目眩がして倒れそうになった。
ロロミア「ス、スバル様!まだ起き上がってはいけません!あれだけ出血したのにすぐに戦えるはずないじゃないですか!」
スバル「し、しかし・・・次の戦いが・・・」
ガイード「落ち着け!まだ時間はあるギリギリまで休んでるんだ」
スバル「あ、あぁ・・・」
ガイードの言葉に俺はとりあえず横になった。
ガイード「ったく。無茶しやがって。今シエナが食事持ってきてくれるからしっかり喰っておけ」
ガイードがそう言ったしばらく後にシエナさんが食事を運んでくれた。
ガイード「しかし、よくあの魔法の攻撃を見切れたな」
スバル「あれは・・・リヴィアが手を抜いてくれたからさ。でなければ初撃で俺の首は胴と離れてた・・・」
そうだ。
リヴィアは俺は斬るのではなく、殴った。
殴ったからこそ俺は耐えれた。
耐えれたこそ・・・。
スバル「あれは運がよかっただけさ」
そうかとガイードが返事をするとロロミアが
ロロミア「スバル様・・・なぜ、あの力を使わなかったのです」
スバル「ロロ・・・あれはまだ使えない。オルドとリアーナを救うために」
ロロミア「し、しかし!さっきの戦いは少し間違っていたら死んでいました!」
ガイード「スバル、力って・・・」
スバル「今はまだ話すことはできない・・・」
ガイード「俺や嬢ちゃんでもか」
スバル「すまない・・・」
ガイード「まぁいい!いずれは話してくれよ」
スバル「あぁ必ずな」
医務室でしばらく休息して俺はある程度体を動かせる程度に回復はできた。
ガイード「大丈夫かスバル」
スバル「あぁ、万全とは言えないがいけるさ」
ガイード「辛いと思うが次の準決勝は相手も消耗している相手だ。俺達ならきっと勝てる!」
あぁ!と俺は返事して気合を入れた。
*
ギンッ!キンッ!ガッ!ドッ!
かれこれ20分近くたっただろうか俺とガイードはまだ準決勝を戦っていた。
相手は攻守のバランスのとれた戦士二人組で隙がない。
俺達は互いに攻めあぐねていた。
対戦相手は炎の魔法を使えるネイドと氷の魔法を使えるギレミア、強力な魔法は使えないが魔法が使えるうえ、剣術にもたけている二人、遠距離でも近距離でも戦える万能戦士だ。
俺たちは相手の攻撃魔法をかいくぐり間合いを詰めたところまではよかったが魔法に頼り切っていたヘルシングとドーズと違い、近距離戦になってもネイドとギレミアは冷静に対応してきた。
ネイド「無能者の貴様にこれ以上時間をかけてられるか!さっさと消えろ!」
スバル「くっ!体が重い・・・!」
リヴィア程の使い手ではないものの前の戦いで消耗して体が思うように動かず攻撃をよけることで精いっぱいだ。
しかし、時間をかければかけるほど体力が消耗し動きが鈍くなっていった。
スバル「!?」
ガクッと膝の力が抜けその場に膝をついた。
その隙を見逃すことはないネイド、剣を振りかぶり攻撃を仕掛けようとした。
スバル(回避は間に合わない!)
横、後ろに回避が間に合わないと思った俺は必死に踏ん張りとっさにネイドとの間合いを詰めた。
ネイド「何っ!?おごぁ!」
攻撃が空振り隙の出来たネイドに渾身の右フックを叩き込む。
ネイド「ぬぐ・・・!ま、まだ・・・はっ!」
スバル「悪いが眠っててくれ」
顎に強烈な一撃をうけ、ふらつきながら立ち上がろうとするネイドに再び拳を叩き込む。
ネイド「ガフ・・・」
顎に二発受けたネイドはそのまま昏倒した。
スバル「ハァ・・・ハァ・・・ガイードは・・・うっ!」
俺はガイードを援護しようと動こうとしたが体がいうことをきかない。
スバル「は、早く援護に・・・ハァハァ・・・」
スバル(か、体が動かない・・・ま、待っててくれガイード!)
ガイード「向こうは決着ついたようだな」
ギレミア「チィ!ネイドの奴、あんな無能者に負けたのか!?」
二人は鍔迫り合いしながら声を上げる。
ガイードが剣を弾くとギレミアは距離をとった。
ギレミア「あの無能者が回復する前に、ガイード、貴様を倒してあいつも始末させてもらうぞ!」
ガイード「ッハ!お前程度が俺を倒すって?冗談も休み休み言え!」
そう言うと左手に持っていたラウンドシールドをギレミア相手にフリスビーのようにほおり投げた。
ギレミア「何!?くっ!甘い!」
しかし、ギレミアは飛んできたラウンドシールドをギリギリのところで躱す。
ガイード「甘ぇーよ!」
ガイードはそれを読み、ラウンドシールド投げた瞬間に間合いを詰めていた。
ギレミア「フッ!それも、あ・ま・い!」
ギレミアは負けじとガイードの剣を受け止める。
しかし、それをみてガイードはニヤリとする。
ガイード「それでもお前の負けだ」
ギレミア「何!?ガッ!」
突如、ギレミアの後頭部に衝撃が走る。
ガイードが投げたラウンドシールドに細い鎖が付いていて剣を受け止められた瞬間にガイードが引っ張ってぶつけたのだ。
ギレミア「ぬぐぅ!く、くそ・・・!」
起き上がろうとしたがもはや既に遅かった。
目の前には剣を突きつけるガイードが立っていた。
ガイード「まだ俺に勝つには早いようだな」
デミトロ「決着ぅ!!長時間にわたる戦いに決着!!勝者は拳闘士スバルと百戦錬磨のガイード!!!」
戦いの決着にコロシアム中で歓声があがる。
初戦のころのブーイングが嘘のようだ。
ガイード「ハハ!ボロボロじゃねーか、大丈夫か?ほら」
ガイードが差し出す手を取り何とか立ち上がる。
スバル「あぁ・・・何とかな。今はベッドに倒れ込みたい気分だ」
ガイード「あぁちげぇねぇ」
俺はガイードの肩を借りてコロシアムを後にした。
*
――準決勝が行われた夜、王宮内
バロン王「ソフィア!ソフィアはどこだ!」
ソフィア「陛下。ここに」
バロン王「どうなっておる。あの無能者が決勝まで勝ち上がってしまっているではないか」
ソフィア「申し訳ございません!まさかあの者がここまでやるとは・・・」
バロン王「近衛兵まで出してこのざまとは・・・」
ソフィア「しかし、準決勝であの消耗、決勝では必ず・・・!」
バロン王「頼むぞ。あの者が奴隷街から出ることは許さぬ!」
ソフィア「御意に・・・」
ソフィアはバロン王に頭を下げると玉座の間を後にし、足早に魔道研究所に向かった。
魔道研究所の扉をバンっと開けソフィアが中にはいる。
ソフィアが来たことに気が付くと一人の王宮魔導士が彼に近づく。
王宮魔導士「ソフィア様・・・」
ソフィア「あれの準備はできているか!」
王宮魔導師「はっ!し、しかし過度な注入は被験者の体が持ちません!」
ソフィア「構わない!決勝のみもてばいい!」
王宮魔導師「かしこまりました」
王宮魔導師はペコリと頭を下げると奥に消えていった。
ソフィア「スバル・・・無能者・・・。決勝で必ず消してくれる」