第一章 第十三節 ガイードの決意
【第一章 第十三節 ガイードの決意】
俺達が店に入ると客が来たことに気がついたのか店の奥からいらっしゃいませと声が聞こえた。
スバル(あれ、女性の声・・・?)
奥から店主と見られる女性が出てきた。
なんだかおっとりとした感じの綺麗な人だ。
女性「何かご入り用ですか?武器でも防具でも――あなたは!?」
俺達のほうを見るなりズカズカと向かってきた。
スバル「えっ?えっ!?」
つかつかとこちらに向かってくる女性にドキっとしたが、女性はすぐに俺をスルーしてガイードの目の前にたった。
バシン!
間髪いれずにガイードにビンタを食らわす。
リアーナ「きゃっ!」
スバル「な、何なんだ急に!?」
俺とリアーナがあたふたしていると・・・。
女性「あなたのせいで私たちがどれだけ苦労したと思っているの!」
ガイード「すまん・・・」
ガイードは申し訳なさそうに謝った。
女性「バカ・・・」
そういうと女性はガイードを抱きしめた。
スバル「えぇ~・・・」
俺とリアーナは完全に状況に置いていかれていた。
*
女性「ごめんなさいね。自己紹介もせず」
店主の女性はさっきとはうってかわってにこやかな笑顔を向けてくれた。
女性「私はシエナ・グランヘイム。ガイードの妻です」
バツが悪そうに頭をかいているガイードを尻目に俺達に説明してくれた。
シエナ「あなたがスバルさんにリアーナちゃんね」
リアーナ「え、なんで私たちのことを・・・?」
俺が疑問に思ったことをリアーナが代わりに聞いてくれた。
シエナ「ふふふ、兵士の中にはありがたいことにこの人を慕ってくれている人もいてね、奴隷街のことを教えてくれる人がいるのよ」
ガイード「俺というかシエナのファンが多いんだよ」
やれやれといった具合にガイードが首を振った。
シエナさんは俺達の状況を把握しており、ここへ来ることも予想していたようだ。
シエナ「スバルさんの装備の新調ね!私に任せて!バッチリいい装備を見繕ってあげるわ」
スバル「シエナさんありがとうございます!ただ、ガイードはどうするんですか?」
シエナ「あぁあの人のことは気にしなくていいのよ。もう決まってるから」
いつの間にかいなくなっていたガイードが店の奥から戻ってきた。
戻ってきたガイードは使い古された装備を身につけて戻ってきた。
ガイード「やっぱり使い慣れた物が一番しっくりくるな」
スバル「ガイード、それは・・・?」
ガイード「あぁ、これは俺が兵士やってた時のもんだ。百人隊長やってたころの装備は国から支給されたもんだからな」
そういうと傷だらけの鉄製の装備を見せてくれた。
ガイード「これで、軍資金をお前の装備に当てれる」
スバル「で、でもいいのか?」
シエナ「いいのよ~!その人は使い慣れたほうが戦いやすいのよ」
そう言ってシエナさんも奥から戻って来た。
シエナ「さぁスバルさんの採寸をしましょう!」
そういうと採寸用に結び目がいくつか付いた紐を持ってきて俺の体のサイズを測りだした。
シエナ「あらあら、あの人ほどじゃないけどあなたも大きいわねぇ~」
スバル「え、あ、はぁ」
俺はシエナさんの勢いに圧倒されていた。
そんな俺にお構いなしにリアーナは店に飾ってある装備に興味津々のようだ。
シエナ「あら、リアーナちゃんも興味あるの?」
リアーナははっとして恥ずかしそうにふるふると首を振った。
シエナ「あはは、そうよね。武器なんかよりもおしゃれな服とかのほうがいいわよね」
そういうとシエナさんはぼそっと言った。
シエナ「スバルさん、あなたの装備は見繕っておくから余ったお金であの子に何か買ってあげなさい」
スバル「え・・・?」
シエナ「もう!鈍感なんだから!あの子、あの年で奴隷街にいるなんて苦労してるんでしょう?あんなに可愛いのに少しくらいオシャレさせてあげなさいな!」
シエナさんはそういうとジロリと睨んできた。
スバル「は、はい!」
俺はリアーナを慌てて、街に連れ出した。
シエナ「まったく、もう。あの人に似て鈍感なんだから・・・」
*
俺はリアーナと街を歩いていた。
スバル「リアーナ楽しいか?」
リアーナ「うん!初めて見るものばっかり!」
そういうとリアーナは活気にあふれている街に目を輝かせた。
しばらく歩いてるとで店からいい匂いがしてきた。
肉の串焼きを売っているようだ。
くぅ~~~と可愛らしい音が聞こえてきた。
ちらりとリアーナを見てみると顔を真っ赤にしてお腹を押さえている。
スバル「そういえば、まだ何も食べてなかったな。あれでいいか?」
リアーナ「う、うん」
俺はもらっていたお駄賃で串焼きを買ってリアーナの側に戻ってきた。
リアーナ「え?あ、うん!ありがとう!」
リアーナは何かを気にしていたようだがすぐこちらを振り向いて串焼きを嬉しそうに受け取った。
俺はリアーナの見ていた方をチラリと見たがリアーナに呼ばれてすぐその場を去った。
*
しばらくリアーナと街を散歩してグランヘイム武具店に戻ってきた。
シエナ「おかえりなさい!リアーナちゃん楽しかった?」
リアーナ「うん!シエナさんありがとう!」
シエナ「さぁスバルさん、これを着てみてくれるかしら?」
そういって、立てかけてあった新品の防具を出してくれた。
スバル「シ、シエナさんこれすごい高いやつじゃ・・・?」
シエナ「ふふふ、予算内で買える中で一番いいものよ。スバルさんは格闘タイプの選手でしょう。武器に予算を割かない分、防具はいいものを用意しないとね!」
遠慮しないでと言われたので服の上から着付けしてもらった。
関節部分以外は金属で覆われているがとても軽く、動きやすい。
この金属は鉄とは違うのだろうか。
スバル「シエナさん・・・この金属・・・」
俺は気になっていたことをシエナさんに聞いてみた。
シエナ「ええ、これはただの金属じゃないわ。鋳造するときに魔力を込めて作られている魔力鋼。あなた魔力がないのでしょう。この魔力鋼で作られた防具なら魔法耐性もつくし、魔法使用が認められているコロシアムの本選ではきっと役に立つわ」
スバル「そ、そんな、こんなにいい物貰えませんよ!」
シエナ「勘違いしないで、あなたが負けるということは旦那も負けるということなの。それじゃあの人もあの街から出ることができないわ。私はあの人を信じてる。だからあの人が選んだあなたも信じるわ。だからあの人のことをお願いね」
そこまで言われたら返す言葉もなかった。
スバル「ありがとう・・・ございます・・・!」
ガイード「おぉ、似合うじゃねーか!」
大きな木箱をもったガイードが奥からやってきた。
ガイード「魔法鋼を使った防具か。さすがシエナいい防具を見繕ったな」
シエナ「ふふふ、ここまでしたんだから必ず買ってくださいね!あなた」
ガイード「あぁ!任せておけ!」
ガイードはそういうとドシンと胸を叩いた。
ガイード「装備は決まったようだな。スバル、すまないが先に宿に帰っててくれないか?」
スバル「えっ・・・?」
リアーナ「あっ!スバルさんいこ!」
何かに気がついたリアーナに引っ張られるように俺は武具店を後にした。
スバルとリアーナが店を出るとガイードはシエナを優しく抱きしめた。
ガイード「シエナ、すまないな・・・苦労をかける・・・」
シエナ「いいのよ。あなたがあなたを貫いた結果ならば。それに悪いことばかりじゃないわ。スバル君・・・いい子に出会えたじゃない」
ガイード「あぁ・・・俺はあいつを助けてやりたい。奴隷街にいても弱者を助けることができるあいつを」
ガイード「そのためにはコロシアムで勝ち上がるだけじゃダメだ・・・きっと国ともぶつかることになる」
シエナ「えぇ・・・大丈夫よ。あなたの帰るところは私が守るわ」
ガイード「すまない・・・シエナ、愛している」
シエナ「私もよ。ガイード」
二人は愛を確かめ合うように抱きしめあった。