第一章 第十ニ節 中流街
【第一章 第十ニ節 中流街】
久々の仕事を終え、食堂でいつものメンバーで食事を取ったあと、俺とガイードは訓練するために街外れに来た。
ガイード「ここで訓練するのも久しぶりだな!今日からまたビシバシいくぞ!」
久々の訓練にガイードも気合が入っている。
俺もテンションが上がってきた。
ガイード「まずは魔法について説明しておく、予選では魔法を使うことはなかったからな」
魔法とは・・・とどこかの博士キャラのような口調で話し始めた。
ガイード「この世界の人間の人体にはそれぞれ魔力が備わっている。またそれだけじゃなく各々の適
正にあった属性というものが備わっているんだ」
ガイード「魔法は、魔力を属性というフィルターを通すことで放つことが出来るんだ」
ガイード「属性には火土水風という基本的な四元素のほかに、光と闇があるが、光や闇の属性を持つ奴なんていうのはほとんどいないな」
ガイード「あとはそうだな。ダブル属性持ちって奴もいるらしいが俺は見たことはないな」
スバル「なるほどな」
本当にファンタジーゲームのような世界だな。
でも複雑じゃないからすっと入ってくるのは助かるな。
ガイード「あとはそうだな。戦闘における魔法はだいたい、攻撃、回復、サポートの3種類にわけられる」
ガイード「攻撃はそのままだな。攻撃をするための魔法だ。例えば炎の矢や氷のつぶてを飛ばしたりとかだな」
ガイード「回復はキズの回復がメインだ。毒とか直したり、重傷者、死にかけている人間を蘇生できる奴もいるらしい」
ガイード「サポートは対象者の力や上げたり、スピードを下げたりとかだな。ちなみに俺もサポート系の魔法を少し使うことができるぜ」
スバル「それで、魔法を使う相手にはどうやって対処すればいいんだ?」
ガイード「そうだな。一番は魔法を使わせないことだな。魔法を打つためには魔法ごとに詠唱を唱える必要があるんだ」
ガイード「詠唱なしで魔法を発動してくる猛者もいるらしいがそのレベルの奴はコロシアムには出てこないだろう。そういう上級者は王宮にいるだろうからな」
ガイードの説明後、俺達は対魔法戦に向けたコンビネーションについて作戦を立て、その連携の練度を鍛える訓練をすることにした。
*
俺が目覚めてから約二週間が過ぎた。
俺とガイードが宿舎で休んでいると一人の兵士が宿舎を訪ねてきた。
兵士「ガイードはいるか?」
どうやらガイードに用事があるようだ。
俺は予選大会のことがあったため少し警戒したが、ガイードがいさめて対応した。
ガイード「スバル安心しろ大丈夫だ」
そういうとガイードは兵士から何かを受け取っていた。
兵士「集合が明後日の朝だ。遅れるんじゃないぞ」
わかったとガイードが返事をすると兵士は宿舎を後にした。
スバル「ガイード何を受け取ったんだ」
俺はガイードに尋ねる。
ガイード「あぁ、中流街に行くための手形さ、これがないと奴隷街の人間は上にはいけないんだ。買い物やらもこれがないとできないしな」
スバル「中流街・・・コロシアムがある本選が行われるところだよな?何の用があるんだ」
ガイード「ふっふっふ・・・」
ガイードは不敵に笑う。
ガイード「本選用に俺達の装備を新調する!」
スバル「おぉ!?装備!」
RPGでも装備が一新されると強くなるだけでなくキャラクターの見た目が変わるテンションが上がるところだ。
俺自身かっこいい武具を装備できるかもと年甲斐もなく興奮した。
スバル「でも、奴隷街にいる俺達がなんで中流街にいけるんだ?」
ガイード「予選を勝ち上がって本選に行ける選手は全員、中流街で国が指定した金額分の準備をすることができるんだ。本選における格差是正というわけだ」
なるほど、各階層で選手が出場するのであれば上の階層の人間ほど資金が潤沢になる。
そうなれば強力な装備も上に行けるほど購入できることになる。
ガイード「明後日から一泊二日で中流街にいくぞ」
スバル「し、しかしリアーナはどうするんだ?ここに一人で置いておくのは危険だぞ」
ガイード「もちろん連れて行くさ。前に言ったが関係者を一人、本選に連れて行けるからな。準備にも当然連れて行くことは可能さ!」
ガイードの言葉を聴いて俺はホッとした。
ガイード「今日はもう遅いし明日、嬢ちゃんに説明しようぜ」
ガイードの話を聴いて俺は床についた、俺は遠足前の子供のようになかなか寝付けなかった。
*
二日後の朝、俺達は所定の場所に向かった。
するとすでにリアーナが到着していたこちらを見るなりこちらに向かって走ってきた。
リアーナ「二人共おはよう!今日はよろしくお願いします!」
リアーナも嬉しいのかウキウキしているのが見て分かる。
ガイード「嬢ちゃん早いな!」
リアーナ「え、えへへ。なんだかすごく早く目が覚めちゃって・・・」
リアーナは照れくさそうに言った。
わかる。
わかるぞー。
ガイード「ガハハハ!スバルと同じだな!」
スバル「う、うるさいな。それより行くぞ!」
ぶっきらぼうに答え、馬車に向かうスバルの後ろでガイードとリアーナは顔を見合わせて笑った。
俺達は腕に兵士たちが用意した腕輪をつけた。
奴隷街の人間が逃げ出さないように探知と麻痺の魔法が込められているらしい。
俺達は馬車に乗った。
俺が連れてきたときに乗った馬車と違いちゃんと個室がついている馬車だ。
スバル(全然待遇が違うな。それだけ国を運用する上でコロシアムっていうのは重要なのか・・・?)
ガタゴトと馬車に揺られ、門を抜け下流街の中を馬車が走る。
リアーナは嬉しそうに外を眺めていた。
スバル「そういえば、リアーナは前はどこに住んでたんだ?」
前から気になっていたことを聞いてみた。
リアーナ「下流街だよ。だから中流街にいくのは初めてで楽しみ!」
リアーナは目を輝かせながら答えてくれた。
スバル(上の街にいくのはやはり下の人間からすればとても嬉しいことなんだな)
馬車は下流街を抜け2つ目の門を抜けると中流街に出た。
奴隷街と下流街とは違い建物は綺麗で、活気にあふれている。
オルドによるとこの街で一番人口が多い街だということだ。
馬車は俺達が今日泊まる宿屋の前まで運んでくれるとのことだ。
リアーナは始めてくる中流街の景色に目を輝かせながら流れていく景色を追っていく。
スバル(張子の虎のように首をふってるな。嬉しそうだ)
しばらく街を走って、指定の宿屋に届いた。
コロシアム出場者が泊まることができる宿屋の一つでコロシアムのある中流街にはこういった施設がいくつかあるらしい。
指定の施設を利用することで動向を把握しやすくでき、複数の施設を利用することで出場者同士の無用な接触を避ける意図があるのかもしれない。
兵士が宿の店主と手続きをすませ、俺達は宿屋の中に入った。
店主「ようこそよくお出でくださいました。私はこの宿の店主、ネルガンといいます。戦士の皆様、お部屋へご案内いたしましょう」
感じのいい店主だった。
奴隷街の人間に会うのも慣れているからだろうか。
ネルガン「皆様、街へ行く前にうちの宿内の湯屋をご利用されるとよろしいかと」
スバル「え?風呂?」
ネルガン「大変、心苦しいのですが、奴隷街の方はどうしても匂いがきつく。それが元でトラブルにあわれることも多いのです」
たしかに、奴隷街では水浴び位しか体を洗える機会がなかった。
肉体労働している俺やガイードは特に匂いがきついのかもしれない。
ガイード「ネルガンさんの言うとおり、部屋を確認して、それから風呂に入ろう。なぁに時間はある」
俺もリアーナも素直に店主の好意に甘えることにした。
ネルガンに部屋に案内されているときに気になっていることを聞いた。
スバル「ネルガンさんあんたは俺達に対して対等に接してくれるんだな。この街の構造上、奴隷街の人間なんて蔑まれるものだと思ったが」
ネルガン「そうですね・・・そういった課題をこの国は孕んでいるかもしれません。しかし、あなた方は不遇な境遇を努力で変えようと奮起されている方々だ」
ネルガン「私はそこに敬意を払っているのです。諦めずに立ち上がろうとしている姿に」
ネルガン「まぁ本音は先行投資ですな。あなた方は勝ち上がってくだされば私の宿も有名になりますからな。はっはっはっは」
さすが、商魂たくましいと関心しながら、最初の理由もきっと本当の気持ちなんだろうな。
スバル(この国も捨てたもんじゃないんだな・・・)
俺達には二部屋用意されていて俺とガイードは相部屋、リアーナには隣の部屋を割り当てられていた。
スバル「ちゃんと個室を用意してくれたのか、リアーナよかったな。優しい店主さんで」
リアーナ「うん、でもスバルさんとなら相部屋でも・・・」
スアル「ん?何か言ったか?」
リアーナが何か言ったようだが声が小さく聞き取れなかった。
リアーナ「な、何も言ってないよ!わ、私、お風呂に行ってきます!」
そういうとリアーナは慌てるように部屋を出て行った。
スバル「俺も風呂に行くか」
風呂に戻って部屋に戻ると服とメモが置いてあった。
中流街にいるあいだ、こちらの衣装をお貸しいたします。ぜひご利用ください。
この街の標準的な服なんだろう。
ありがたく利用させてもらうことにした。
服を着替え、部屋を出るとリアーナも着替えたのか恥ずかしそうに壁にもたれかかっていた。
リアーナ「ど、どうかな・・・?」
今まで見たことがないワンピース姿のリアーナに一瞬ドキっとした。
スバル「いいじゃないかとても似合ってるよ!」
俺は素直に心に思ったことを口に出した。
リアーナ「あ、ありがとう」
リアーナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
ガイード「おほん!じゃあそろそろ行くぞ」
ガイードが仕切りなおしてくれた。
スバル「あ、あぁ!装備を見るんだったんだな。でも何処の店行くんだ?」
ガイード「それならばすでに決めてある。二人は俺についてきてくれ」
ガイードについていき、中流街を歩く。
途中、出店や客引きなどで足を止めるリアーナを慌てて手をつなぎ手を引いた。
リアーナは少し恥ずかしそう俯いたがきゅっと手を握り返してくれた。
ガイードは迷うことなく進んでいく。
スバル「ガイード、もしかして中流街の出なのか?」
ガイード「あぁ俺ももともと下流街の出なんだが小隊長にあがったとき中流街に住むことを許されたんだ。隊長職の人間が下流街にいることが軍として体裁が悪かったんだろうよ」
ガイードは皮肉っぽくいった。
しばらく歩くと一軒の店の前に止まった。
ガイード「ここだ」
スバル「グラムヘイム武具店・・・?」
もしやと考えている間にガイードが店内に入っていった。