第一章 第十節 変異
【第一章 第十節 変異】
閉じ込められた檻が開かれ外に出た。
出てみると周囲には大勢の人間がいて目の前には二人の人間がこちらを見ている。
ゴブリンB「ギギ・・・?」
相棒がこちらを見ている状況がわかっていないようだ。
俺自身もよくわかっていないが憎い人間が大勢いる。
まずは目の前の人間を殺そう。
ゴブリンA「グギギ!グギガ!」
俺は目の前の人間を指さした。
ゴブリンB「ギャッギャッギャ!」
相棒が雄たけびをあげると俺たちは人間に向かって走り出した。
*
雄たけびあげ二匹のゴブリンがこちらに向かって突っ込んできた。
ガイード「スバル、慌てることはない。確実に1匹ずつ沈めるんだ!」
俺たちはそれぞれに向かってくるゴブリンに対して前に出た。
ガイード「ゴブリンはそこまで力は強くない。ただあのこん棒、頭にもらうとやばいぞ」
わかったと俺は返事をした。
ゴブリンとの距離が詰まると俺に向かってとびかかってきた。
ゴブリンA「ギィィー!」
スバル(直線的な攻撃・・・!これなら!)
俺はスッと横にかわすと打ち下ろすように突きを繰り出した。
しかし、素早いゴブリンは着地の瞬間、俺から離れるようにバックステップし、攻撃を回避した。
スバル「こ、こいつ、速い!」
ただでさえ小柄で当てづらいのにこのスピード、ゲームなら雑魚キャラなのにやっかいな相手のようだ。
ゴブリンは一撃攻撃しては回避するヒット&アウェイ戦法でこちらを消耗させようとしてくる。
スバル「くっ!」
人間相手より小柄で素早いゴブリンに回避してから攻撃しては間に合わないか。
俺はゴブリンが飛びかかって攻撃してくるのをまった。
ゴブリンA「ギギィ!!」
こうちゃく状態に業を煮やしたのかゴブリンは後ろに少し下がりそのままジャンプして攻撃してきた。
俺はゴブリンのジャンプ攻撃に対して回避ではなく、間合いを詰めた。
ゴブリンA「グギ!?」
俺は相手の勢いを利用し、そのまま突きを放った。
拳はゴブリンの顔面を捉え、体重の軽いゴブリンは数メートル吹き飛んだ。
*
うぅ・・・に、人間のくせに・・・こ、殺してやる・・・。
ゴブリンA「グ・・・グギギ・・・」
ク、クラクラする・・・体に力が入らない・・・顔を殴られたからか・・・?
あ、相棒は・・・?
ゴブリンはチラリともう一匹のゴブリンの方に目をやったがもう一人の人間に頭を潰されていた。
こ、こんなところで・・・こんなところで・・・!
ゴブリンは持てる力を振り絞り立ち上がろうとしたが、目の前に影が迫る。
ゴブリンはハッとし恐る恐る顔を上げた。
すると自身をぶちのめした人間がこちらを見下ろしていた。
スバル「すまんな」
ゴッ!
そこでゴブリンの意識は途切れた。
*
俺とガイードはそれぞれ、1匹ずつゴブリンを討伐してがっしり手を組んだ。
ガイード「初めての魔物との戦いなのに、冷静に対処できたじゃねーか!」
スバル「ガイードとの訓練のおかげさ、武器を持った敵相手に対してイメージトレーニングを反芻していたからな」
ガイードが相棒でなければ今頃どうなっていたか・・・ガイードには感謝しきれない。
ガイード「ガハハハ!俺の見る目は間違いなかったってことだな!」
ガイードは上機嫌にバシバシと俺の背中を叩いた。
ガイード「さぁ嬢ちゃんのところに戻ろうぜ」
俺はあぁと返事するとガイードの前を歩いた。
するとどこかでヒールと聞こえたした気がした。
スバル「えっ・・・?」
声のする方を見ると結界を張っていた魔道士がこちらを見てニヤリとしていた。
その表情にぞっとした俺はガイードに声を掛けようとした。
スバル「ガイー・・・!」
名前を言い終わる前に俺は言葉を失った。
俺が振り返るとガイードは倒れ、地面には血だまりができていた。
その近くでは、ゴブリンがニタリと笑いながら、血で濡れたこん棒を手にしている。
リアーナ「いやぁぁぁ!!」
騒然とする会場にリアーナの悲鳴が響きわたった。
*
に、憎い・・・人間、憎い・・・!
でも体が動かない・・・!
あの人間にやられたからだ・・・!
魔導士「・・・ヒール」
な、なんだ、体の痛みが・・・体に力がみなぎってくる!
あの人間・・・殺してやる!
ゴブリンは倒れたままこちらを離れていく人間に目をやった。
バレちゃダメだ。
あの人間は俺より強い・・・隣のヤツも相棒を倒したやつだ・・・。
後ろから襲って殺してやる・・・!
ゴブリンは音を立てずに立ち、足音を立てないようにジャンプしてガイードの頭にこん棒を叩きつけた。
ガイードは不意を突かれその場でドサリと倒れた。
やった!あと一人、こいつも殺してやる!
しかし、ガイードを倒したところでスバルがこちらを向いて気が付かれた。
ゴブリンはスバルが動揺しているのをみてニタリを笑った。
そしてスバルが冷静になる前に攻撃を仕掛けた。
ゴブリンA「ギギィ!!」
死ね!人間!ゴブリンは頭に向かってこん棒を振り下ろした。
ガシィ!
鈍い感触、やった!殺してやったぞ!
しかし
ゴブリンA「ギ・・・?」
頭じゃない、う、腕で守られている。
でも、あの感触、あの人間の腕を折ってやった!
ゴブリンは間合いを取り、もう一度攻撃しようとスバルを見た。
ゴブリン「ギ・・・グギ・・・?」
な、なんだ・・・か、体が・・・ふ、震える・・・!
ゴブリンはスバルの目を見ると体がすくみ震えた。
に、逃げないと・・・こ、殺される・・・
しかし、ゴブリンは体がすくんで後ろに足をずらすことしかできない。
う、動け!動けっ!
ゴブリンは何んとか足を動かしその場を離れようとしたが、スバルに頭を掴まれてしまう。
ゴブリンA[ギ・・・ギギィィィ!!」
離せ!離せ!!
ゴブリンは頭を掴まれ持ち上げられながらもこん棒で折った右腕を殴り続けた。
しかし、意に返さず頭を掴んだ手にギリギリと力を込めてくる。
ゴブリンA[グ、グギ、ギガガ・・・」
な、なんて力、オーガ・・・!人間じゃない・・・化け物!
た、タスけ・・・
ゴブリンA[ギィィィィーーー!!!」
バグンッ!
ゴブリンは頭を潰され、息の根を止められ手がダラりと下がった。
*
血を流し倒れたガイードを見た後のことはあまり覚えていない。
体の中からどす黒いものが湧き上がり、体中に巡っていく感覚、全てを破壊してしまえという衝動。
視界はノイズがかかったような違和感を覚えるが、力が体の中からあふれみなぎってくる。
なんて清々しいんだ・・・。
俺は逃げようとする目の前の小さな異物の頭を掴んで握りつぶした。
降り注ぐ返り血を浴びながら、この元凶を作った魔導士に向かって俺に握りつぶされてぶら下がっている死骸を投げつけた。
ドチャァ!
結界に死骸がぶつかり、勢いでベシャリと血が張り付いた。
許さない・・・。
俺は魔導士に向かい歩を進めた。
*
魔導士「クククッ・・・アクアベータヒール」
一匹はガイードに始末されたが、もう一匹はまだ生きているようだ。
倒れているゴブリンに回復魔法であるヒールを掛けた。
これであの無能者を殺してやる。
この国に無能者は不要なのだ!
ゴブリンはこちらの予想通り、起き上がり二人に襲い掛かった。
ガイードを倒し、無能者の右腕を折ったところまではよかった。
しかし、あの無能者の様子がおかしい。
ヤツの体からエネルギーを感じる。
しかし・・・なんだこの禍々しいエネルギーは・・・!?
ヤツはゴブリンの頭部をたやすく握りつぶしてこちらを見た。
魔導士「ヒッ・・・」
全身から汗が噴き出し、恐怖を感じた。あれはなんだ・・・!?
魔導士(や、ヤツは無能者だったはずだ・・・!し、しかし何だあれは、あれではまるで・・・)
ドチャァ!
ビクっ!結界に何かが飛んできた。
よく見てみるとゴブリンの死骸だった。
魔導士「フ、フフ・・・結界がある限りヤツはこちらに危害は加えられない・・・」
血が結界にべったりと付き向こうの様子はわからなかったが、ヤツ如きにこの結界が破られるわけがない。
ザッザッザと足音が近づいてくるのがわかる。
魔導士(無駄だ!貴様如きが何をやろうともなぁ!)
この時はまだ、この魔導士には余裕があった。
それもそのはずこの結界は宮廷魔導士四名による強力な結界。
一般人、ましてや無能者に破壊できるものではなかったからだ。
ガン!
結界を殴っているのか、音が聞こえてきた。
魔導士「フ、フハハ!バカめ!無駄だ!!」
ガン!ガン!ガン!
魔導士「無駄なことを・・・」
ガンガンガンガンガンガンガン!!
魔導士「無、無駄だといっているだろう!!あきらめろ!」
一向にやまない打撃音に魔導士は恐怖を覚えた。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!ピシ・・・
魔導師「な!?」
ば、馬鹿な!無能者がこの結界にヒビを入れただと!?
ガン!ピシ・・・!ガン!ビシシ・・・ガン!バリン!
結界はガラスが割れたように砕け散った。
魔導師「な、ば、馬鹿な・・・!」
ズチャ、あの無能者がこちらに向かってくる。
魔導師「な!?ヒィ!!ば、化物!」
折れた左腕、血に濡れた顔、ボロボロの拳、その様子はまる亡霊のようだった。
魔導師「た、たすけ・・・」
腰が抜けて動けない。
スバル「貴様のせいでガイードが・・・」
魔導師「ヒィ!!」
スバル「貴様も同じ苦しみを味わえ」
そう言うと血みどろの拳を振り上げた。
*
俺はゴブリンの血で濡れた結界の前に立っている。
結界の外にいる魔導師はニヤニヤとこちらを見ている。
許さない・・・許さナい・・・ユルサナイ・・・!
右腕は痛みはないが動かない、しかし左手には力が漲っている。
俺は躊躇せず結界に拳を叩きつける。
拳が叩きつけられる度、俺の中のエネルギーが結界にぶつかっていく。
この程度の結界は破壊できる。何度も何度も拳を叩きつけいく。
ピシ、結界にヒビが入る音が聞こえた。
魔導師は慌てふためいている。
いいぞ、もっと恐怖しろ。
さらに拳を叩きつけ結界を割り、魔導師に近づいていく。
そして恐れ慄いている魔導師に対して拳を振るおうとしたそのとき。
リアーナ「だめぇぇぇぇ!!」
リアーナが俺の腰にしがみついた。
スバル「離せ・・・!ハナセ・・・!」
リアーナ「ダメ!スバルさん!戻ってこれなくなる!!」
スバル「ハナセ・・・オレハ・・・アイツヲ・・・」
リアーナ「絶対に離さない!スバルさんは私が守る!」
リアーナは今まで守ってくれたスバルを守ると決意するとスバルの体にしがみついた。
するとスバルの中から狂気がさり、徐々に元に戻っていった。
スバル「リ、アー・・・ナ・・・?」
リアーナ「スバルさん!」
リアーナが俺を呼ぶ声が聞こえたが、俺はそのまま意識を失ってしまった。