ザ・ファーストステップ 第一章 第一節 転移
「どうして、こうなった・・・」
ポツリと呟くと男は天を仰いだ。
警棒を持つ男「何をサボっている!無能者のクズがぁッ!」
叫びながら手に持つ警棒で男の体を打ち据えた。
「ぐっ!ど、どうして・・・」
*
【第一章 第一節 転移】
暖かい風が吹き抜ける中、俺は後輩を連れ取引先に向かっていた。
後輩「佐先輩、今日は何件回るんですか?」
佐と呼ばれた男「とりあえず午前中に2件だな。今日はそんなに多くはないよ」
後ろを歩く後輩が訪ねてきたので歩きながら答えた。
俺の名前は佐昴今年で30になるどこにでもいるサラリーマンだ。
こいつは後輩の山崎、気のいい奴で俺を慕ってくれている。
子供のころ見たアニメの影響を受け強い男にあこがれた俺は学生の頃から武道一筋で大学卒業後、社会人になっても彼女すら出来たことはないが仕事も順調で今の生活で十分満足していた。
スバル(あの信号を渡ったらすぐだな)
山崎とお昼ご飯のプランをどうするかしゃべりながら交差点に向かっていると強いビル風が吹いた。
スバル「ここはいつも風が強いな・・・」
そっすねと山崎が答える。
「待って!私の帽子!」
不意に後ろから女の子の声が聞こえたと思ったら帽子が俺たちの横を通り過ぎ、目の前の交差点に飛んでいくのが見えた。
そして、その帽子を追いかけて交差点に入っていく女の子も―――
山崎「あれ、ヤバッ―」
山崎が声をかける終わる前に俺は持っていたカバンを投げ捨て女の子に向かって走り出していた。
女の子が帽子を拾った瞬間、俺はその女の子を抱きかかえ山崎に向かって投げた。
そして、山崎が女の子をキャッチし、ホッとした瞬間、メリメリと体全体に金属の塊がめり込んでいく感覚がした。
そのまま俺の体はトラックに跳ねられ10メートル以上吹き飛んだのであった。
山崎「先輩っ!」
意識がもうろうとする中、叫び声や山崎が俺を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
しかし、俺はそのまま気を失ってしまった。
*
目を覚ますと真っ暗な闇が包む世界に立っていた。
ここは、と言おうとしたが声がでない。
死後の世界というやつだろうか。
まぁあの事故で生きてるとは思えない。
女の子が無事だったことが唯一の救いだ。
不思議なことに真っ暗なはずなのに知覚はある。
自身の手や体は見えるし声はでないが体を動かすこともできた。
俺は辺りを見渡してみたがどこまでも暗闇が続いているようだった。
俺はどうするか悩んだが、ここでじっとしていても仕方ないのでこの空間を歩いてみることにした。
しばらく歩くと壁にぶち当たった。
スバル(ぶふっ!)
何故壁が!?と思い手で触れてみると、巨大な魔法陣が壁に描かれ光始めた。
ぶつかった衝撃で思わず俺は尻もちをついてしまったが、魔法陣が光ったおかげでそれが壁ではなく巨大な扉だということに気が付いた。
な、なぜ扉が、地獄の門か?などと考えていたら扉はギギギと開き始め中から光がれた。
扉が開放されるにつれ自身の体が扉に吸い込まれていく。
な、なんだ!?なんなんだ!?
困惑している俺はなす術なく、扉に吸い込まれていった。
*
光のまばゆさと自身に起こったことに困惑し、扉に吸い込まれると同時に強く目をつぶっていた俺は恐る恐る目を開けてみた。
目の前には見たことのない部屋、数人のローブや西洋の貴族風の衣装、スーツのような服を着た人間がいた。
スバル「こ、ここは・・・?」
俺は自身に何が起こっているかわからず思わず呟いた。
オォ・・・俺の言葉に周りにいた人間が騒めいた。
ローブを着た男「成功だ・・・!召喚に成功したぞ!」
スバル(成功?召喚?どういうことだ・・・)
俺はきょろきょろとあたりを見回してみた。
そして、足元に見覚えのある魔法陣が描かれていることに気が付いた。
スバル(これは・・・あの扉にも書いてあった・・・)
俺が困惑していると目の前の男たちが膝をつきこうべを垂れた・・・。
スバル「な、ちょ、ちょっと何なんだ?やめてくれ!」
何が何なのかさっぱりだ。
ローブを着た男「どうか、この国をお救いください!勇者殿!」
スバル「ゆ、勇者・・・俺が・・・!?」
ますます困惑した俺にローブを着た男たちの後ろにいたスーツのような服を着た美しい女性が状況を察したのか前に出て口を開いた。
スーツを着た女性「大変申し訳ありません」
女性は俺にペコリと頭を下げた。
スーツを着た女性「いきなり召喚され、勇者殿が困惑するのもわかります。私から説明させていただきます。しかしまずはお召し物を・・・誰か!」
そういうとローブを着た男が女性に近づき、女性はそのローブの男に何かを耳打ちした。
ローブの男はこちらにペコリと会釈すると部屋を出て行った。
俺は自分の体を見てみたらボロボロに破れたスーツを着たままだった。
どうやらあの時、トラックに跳ねられたことは現実だったらしい。
*
着替えを待つ間に女性が簡単にこの世界に起こったことや召喚について説明してくれた。
この女性はこの国の宰相で「ソフィア・デナ・バイゼル」というらしい。
さらにここは俺のいた世界とは別の世界で今いる場所は大陸の西にある小国「ラフィンデル」という国だということ。
この世界は他国間の争いが絶えず、国力のないこの国は一騎当千の勇者を召喚することで他国と渡り合おうとしていることをわかりやすく説明してくれた。
スバル「ちょ、ちょっと待ってくれ俺はただの一般人だ。勇者なんて器でもないし戦ったことすらないぞ!?」
受け取った服をついたての裏で着ながら答えた。勇者と言われるのは悪い気分じゃないが話があまりにも重すぎる。
ソフィア「ご安心ください。召喚の儀式というのは異世界間を繋ぐ門を開放して行われます。その門をくぐった転生者には莫大な魔力が与えられるのです」
スバル「門・・・(あの巨大な扉のことか)」
スバルは自身が見た光景のことを簡単に説明した。
ソフィア「勇者殿が見た門は別世界の人間しか通ることができません。それ故にこちらの世界では門の魔力を得ることはできないのです」
ソフィアはそういうと着替え終わった俺を招いた、王に謁見してほしいのことだ。
スバル「魔力っていうのはそんなに大事なのか・・・?」
城内の廊下を歩きながら気になったことをソフィアに聞いてみた。
ソフィア「この世界はほとんど魔力の多さによって優劣が決まります。強力な魔力を行使できる人間を多く抱えている国が強国としてのし上がっているのです」
スバル「だったらどんどん強力な魔力を持つ人間を召喚すればいいのでは・・・?」
ソフィア「そうもいかないのです。そもそも召喚の儀式は難易度の高い召喚術・・・膨大な魔力を消費するだけでなく、様々な条件があるのです。さらに・・・いや、これは勇者殿には関係のない事ですね・・・」
ソフィアと話をしながら廊下を歩いていると豪華な扉の前についた。
ソフィア「この先は王の間です。王に失礼のないように王の前で片膝をついてこうべを垂れてください」
わかったと頷くと門の両脇にいた兵士により扉が開かれた。
少し緊張しながら部屋に入っていく。
部屋には兵士がずらりと並び奥の玉座には王様が座っている。
RPGでRPGで見たまんまの景色が俺の前に広がっていた。
スバル(お、おぉ・・・)
兵士「勇者殿前へ!」
玉座近くにいる兵士がよく通る声で俺のことを呼んだ。
俺はそれに合わせて王の前まで行きソフィアに言われた通りに地面に片膝をつきこうべを垂れた。
国王「勇者よ。面を上げよ。楽にして構わぬ」
そういわれ、俺はその場に立ち上がった。
バロン王「余がラフィンデル国王、バロンじゃ。そなた名はなんと申す」
スバル「スバル・・・タスク スバルです」
バロン王「スバルか・・・よく召喚に応じてくれた勇者スバルよ。異世界から来たそなたにはわからぬことも多いだろうが余はこの国に来てくれたこと、歓迎する」
にこやかに微笑み王は返答した。
感じのいい国王様のようだ。
スバル「ありがとうございます。国王陛下」
軽く頭を下げ答える。
バロン王「ソフィアより聞き及んでおると思うがこのラフィンデルは西の小国、常に他国に領土を狙われておる。我が国、我が民を守るため召喚に応じてくれた強大な魔力を持つそなたに我が国を救って欲しいのじゃ」
スバル「お言葉ですが、国王陛下、私は歳も30・・・戦った経験もありません。救って欲しいと言われても具体的にどうすればいいのか・・・」
バロン王「ハッハッハ!なに、心配には及ばん。戦闘方法は城の者から学べばよい。門を通ったお主には膨大な魔力がついておるのだからな!まぁ具体的な話は後ほどソフィアから説明があるじゃろう。今日はいきなりのことで混乱し疲れていることじゃろう。部屋を用意させる、そこで疲れを癒すと良い」
そういい軽く手をあげると側にいる兵士が「ハッ!」と返答し、小走りで王の間を出て行った。
スバル「は、はぁ・・・お気遣い感謝いたします。陛下」
とても楽観的な国王に少し不安を覚えたが元の世界に戻る術もわからない。
戻ったところで死んでいる可能性がある俺は素直に好意に甘えることにした。
ソフィア「ささ、勇者殿こちらへ」
ソフィアに促され、俺は王にペコリとお辞儀をしたあと王の間を後にした。
ソフィア「お疲れのところ申し訳ないのですがお休みになられる前に、勇者殿にはこれから魔導研究所へ向かっていただきます。そこで勇者殿の魔力量を計るのです」
ふむふむとソフィアの話に耳を傾けつつ、ついて行った。
ソフィア「つきました。ここが魔導研究所になります」
同じ城の中と思えない独特な扉だった。
黒魔術でも研究しているのか・・・怪しい・・・。
中に入ってみると召喚されたときに見たのと同じローブを来た研究者であろう人々が書物を読んだり実験器具をいじったり何かしらの研究をしていた。
ソフィア「ここにいる研究者たちは我が国の中でも特に優秀な魔道士たちなのですよ」
そういうとソフィアは研究者の一人に声をかけ、魔力を計る準備を依頼した。
研究者は研究所のデスクの引き出しから特殊な形をした物を取り出し、研究所奥にある扉のまえにたった。
そして、何か呪文のようなものを唱えると手にした物が光り、扉に小さな魔法陣が現れカギが空き、研究者はその中に入っていった。
どうやらこの国ではセキュリティも魔法で行っているようだ。よっぽど大事なものが置いてあるらしい。
研究者「ソフィア様、勇者殿、こちらへどうぞ」
奥の部屋から研究者の声が聞こえたため、ソフィアと共に中に入った。
中に入ってみるとファンタジーな雰囲気に似つかわしくない機械のような物が置いてあった。
部屋中に管があり、さらに部屋の中心には魔法陣がその上に、SFアニメなどにあるポットのようなものが置いてあった。
スバル「おぉ・・・すごい」
アニメやゲームのような装置を見ていい歳をして興奮していた。
ソフィア「さぁ勇者殿、この中へお入りください」
スバル「え、あ、あぁ・・・わかった」
ソフィア「ふふふっ。心配することはございませんよ。勇者殿の内に秘めたる魔力を計測するための装置なのです」
少し緊張しつつ俺はポットの中にはいった。
俺がポットに入ったら研究室にいた研究者たちが中に入ってきた。
そして、ポットに入るように勧めた研究者が側に寄ってきて説明を始めてくれた。
研究者「勇者殿、これから我々の魔法により、この装置を起動させます。それにより装置が勇者殿の魔力を強制的に引き出します。その引き出された魔力を計測することで魔力量を図るのですがそれにより虚脱感が襲い、強烈な眠気が襲ってきますが体には影響はございませんのでご安心ください」
わかったと答えると研究者たちは魔法陣の隅に円になるようにたちこちらに向かって手をかざし呪文を唱え始また。
詠唱とともに魔法陣が光り始めヴゥーンと音を立て装置が起動し始めた。少しして体の中心が熱くなるのを感じた。
スバル「うっ・・・く・・・」
体の中から何かが引きずり出されるような不思議な感覚が数分続き、それが終わると水泳で何時間も泳いだあとのような強烈な疲れと眠気が襲い気を失うように俺は眠りについてしまった。
ソフィア「これは、なんと・・・素晴らしい・・・」
意識が途切れる前にソフィアの声が聞こえた気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ほどんど読み物を書いた経験がほとんどなく、見辛かったりお見苦しい点があったかと思いますが、見にくい点などは見つけ次第、修正していこうと思っています。
もしよければ次回も読んで頂けたら嬉しいです。